8 そのスキル、「ライセンスサモン」
俺とフェアリーモードのニーナを乗せて、スクーターは丘を駆け下りていく。その乗り心地といえば……。
「ちょ……ちょちょちょっと……うぉ! 振動が……」
「わおぉッ! エキサイティングですねッ! この乗り物は!」
整地されていないデコボコの道。街乗り用のスクーターがまともに走れるはずがなかった。
しかも……。
ボンッ
「うわあぁッ?!」
「きゃッ! リューヤッ?!」
跨っていたスクーターは突然その姿を消し、不整地でスピードを出していなかったとはいえ、投げ出された形になった俺は草の上をゴロゴロと転がった。
「リューヤ、大丈夫ですかッ?」
「いってぇ……」
ツナギのヒザの部分、赤い染みが拡がる。ケガをしてしまったらしい。
「あ、損傷してますね。待っててくださいッ!」
フェアリー・ニーナがツナギの布地の上から俺のヒザに手を当てる。すると、彼女の手から白い光が発せられた。
――あたたかい。
次第に俺のヒザの、ジンジンと
「すごい……
「いえ、これは単にリューヤの体を部分再構成しただけですッ!そんな便利なモノじゃありません」
十分、便利だと思うけど……。
「……ま、回復みたいなモンでしょ……。ニーナ、町は近くなったかな?」
「見てきますッ!」
木々の
「少し近づきましたがまだ距離はありそうですね……。あ、この物体は何です?」
降りて戻ってきたニーナが、空中に上がる前までにはなかった、大きい鉄の塊に驚きの声を上げる。
「これが車だよ」
そう……ニーナが空中で町への目測をしている間、俺は今度は、免許証の……特に「普通」の部分を強く意識して「ライセンス」を唱えていた。すると思った通り、四輪車が現れた、というわけだ。
ただ、免許証をイメージするのと同時に、悪路でも走れるような4WD車もイメージしていたけど、これの出現は叶わず。単なる街乗り用軽自動車が現れた。
「メーカーとか車種が記載されてるわけでもない……不思議だなぁ……」
「今度はこれに乗るんですッ?!」
ニーナが期待を込めた顔をしている。そんなにスクーターの乗り心地が気に入ってたんだろうか。
「いや、安易に使う前に調べる必要があるな」
俺は運転席のドアを開け、インジケーター・パネルを見た。速度計等、最低限のモノはついているが、すっごく簡易的。だが、目的のモノもついていたので、ひとまず俺はその内容を確認した。
「十二時三十五分か……」
「何をしているんです?」
「時計表示を見ているんだ。たぶん、俺の……『モノの召喚』には時間制限がありそうだから」
「はぁ~……」
しばらく黙って時計が進んでいくのを眺めていたが、それが「十二時三十七分」に切り替わって数秒後、軽自動車は煙と共に消えてしまった。車に体重を預けていた俺は、とつぜんにその支えを失い、少しよろめく。
「三分くらいだな。短い……」
今までのことから、俺のスキルの状況をまとめると、こんな感じになるかな。
=====
・現世で取得した「資格」や「ライセンス」そのものをイメージしながら「ライセンス」と唱えると、その資格に関連した物品を召喚できる。
・なにもイメージしないと「ライセンス」詠唱は意味がない。
・明確な「資格」のイメージがないと「ライセンス」詠唱は意味がない。つまり、召喚できるのは俺が現世で取得していた「資格」だけになるだろう。
・その物品は完全な「何かのコピー」というわけでなく、おそらく俺のイメージに基づいた性能を発揮する。
・三分ほどで召喚物は消える。
=====
いろいろと制限はあるけど、たとえば車なんかの突進力。これが使えるなら、ファンタジー世界では結構有利じゃないか? やっぱり結構なチートスキルだな。
「
「……ライセンスサモン?」
「このスキルを、俺はそう名付けるよ」
「はあ~……この星の人は、みんなリューヤみたいに名付けたがりなんですかね」
モノだろうが、人だろうが、他と区別するための名前なんてついているのが当たり前だ……。ニーナとの価値観の違いの溝はまだいろんなところにありそうだ……。
「行こう。軽自動車ならスクーターよりはましだろう」
「消えたら、また吹っ飛ばされちゃいますよ?」
「面倒だけど、三分ごとに降りて、召喚してを繰り返す。歩くよりは断然早いだろうから。ニーナ、町へのナビゲートも三分ごとに頼むよ」
「わかりましたッ!」
そうして俺たちは召喚車を乗り継ぎ、一時間弱程度で町の入り口に到達した。
資格取得マニアが異世界に再生されたらどうなったッ?!~この異世界は現世の未来?特殊スキル「ライセンスサモン」を俺に与えて自分の仕事を丸投げしてきたのは見た目女神の宇宙人!~ ブーカン @bookan
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