第?話

 昼食後


「それじゃあ行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 タイムは木刀と水筒(ヤギの革でできたもの)を手に学校へと出発する。

 道中、鹿などの野生動物が陽当たりの良い場所を陣取って寛いでいた。

 その光景を目にしながらタイムは学校までの道のりを歩いていると。


「おいそこの少年」

「・・・はい」


 足を止め、声が聞こえてきた方に体を向けると、そこにはガタイの良い厳つい男性が。


「少年は近くにある学校の生徒だな?」

「はい」


 ワイルドな声でさらに厳ついイメージが強くなる。


「・・・ふっ、せいぜい頑張れよ」

「はっ、はい、頑張ります」


 謎の間を置いた後、それだけを言い残して男性はタイムとは逆の方向へと去っていった。


「なんだったんだろ・・・」


 タイムはしばらく立ち尽くし、学校へ行くのが遅れる羽目となった───。


 学校


「───ということがあったんだ」

「えっ、なにそれコワ」

「あまりそういう人とは関わらない方が良いわよ」

「私もそう思う」


 ツカイ、クロウ、ラビクがタイムにそう助言する。


「関わるつもりはないよ」


 剣技の練習場でタイムが行きに体験したことを四人と話していると。


「今日も四人来たな」


 校舎から木刀を携えて歩いて来たカンナが四人にそう声をかける。


「「「「こんにちは、カンナ先生」」」」


 カンナは片手で四人の挨拶に応えると今日の練習内容を伝える。


「まずはいつも通り軽く走った後ストレッチ、そして素振り百回三セット、これはインターバルでワンセットやったら少し休憩していい。そして最後に二人一組で防御の練習、以上だ。今日もケガなくな」

「「「「はい!」」」」


 四人は元気よく返事をしたら、今日最初の練習に取りかかる───。


〓〓〓


 とある道


「ふっ、今日もこの国の将来を背負うであろう一人の少年に、激励の言葉をかけてやったぜ・・・」


 タイムに声をかけた厳つい男性は、指で鼻を擦りながらひとりドヤるのだった・・・。


「あの人なんかコワイ」

「こらっ、指差しちゃダメ」


 学校


「九十八、九十九、百」

「タイムッ、早い、なっ」

「ホントッ、ねっ」

「っ・・・」


 タイムは三人より先に素振り百回三セットを終わらせた。


「ツカイ!腕の位置が低くなっているぞ!元の位置に戻せ!」

「はっ、はいっ!」

「ふっ・・・!」

「んっ・・・!」


 ツカイはカンナに指摘され、クロウ、ラビクは数を数えている数字を声に出せる余裕はなくとも、正しい姿勢で三セット目を終えようとしていた。

 少し早く終わったタイムは、水筒の水を飲んで休憩。

 しばらくすると。


「八十九っ、九十っ!」

「九十九っ、ひゃーくっ!」

「ふっ・・・!」

「ふたりっ、ともっ、かっ!」

「ツカイあと少しだ、頑張れ!」


 クロウ、ラビクも最後の気力を引き絞りなんとか終わり、ツカイはカンナに応援されながらラストスパート。


「九十七っ!九十八っ!九十九っ!ひゃーーくっ!!!っはあーーーおわったーーー!!!」


 ツカイは木刀を手放しながら芝生に仰向けで倒れる。


「四人ともお疲れ。しばらく休憩にするからのんびりしてて良いよ」


 カンナは四人にそう告げ、近くにある木の下に腰を下ろす。


「みんなお疲れ様」

「はあっ、はあっ、んっ、あんがとよーーー」

「わっ、私っ、しばらくっ、無理っ・・・」

「私っ、もっ・・・」


 タイムは三人に労いの言葉を、それ以外の三人は芝生の上で両手を広げたまま仰向けになり、呼吸を整える。


「全然っ、手に力がっ、入らねえっ・・・」

「明日っ、物っ、握れるっ、かしらっ・・・」

「・・・」


 タイムは近くに置いてあった三人の水筒を持ってきて渡した。


「さっ、サンキュー」

「ありがと・・・」

「ん・・・」


 三人は一斉にグビグビと水を飲む。


「ぷはっ、うめえなっ・・・!」

「汗を掻いた後のっ、給水は最高ねっ・・・!」

「ぷはっ・・・!」


 沈黙が流れ、風が吹いて草木の葉が擦り合う音だけがこの場を支配する。

 近くには食べ物を求めやってきた数匹の鹿、木の枝には群れであろう無数の鳥たち。花が咲いている所では虫たちが、活動している。


「・・・次は、二人一組での防御の練習か・・・」


 ツカイがそう呟く。


「防御俺苦手・・・」

「えっ、なんで?」


 タイムがそう口に出すと、クロウがそれを拾う。


「お父さん、あまり教えてくれない」

「お父さん防御苦手なのかしら」

「と言うより、押せ押せであまり防御しないからだと思う」

「あー、なるほどね~」


 タイムが少しげんなりしていると。


「もう少しで始めるから準備しろー」

「「「「はーい」」」」


 カンナがそう言い、四人は水筒を近くにまとめ、木刀を手に取り軽く体を動かす。

 途中、鹿一匹が四人に寄ってきて少し驚いた。


「人なつっこい鹿だったな・・・」

「うん」

「たまにああいう子、いるわよね」

「かわいい・・・」


 ツカイ、タイム、クロウ、ラビクが言う。


「四人とも、準備できたか?」

「「「「はい!」」」」


 タイムたちは、今日最後の練習に取りかかる───。


〓〓〓


「今日はここまで!」

「ふぅーーっ!終わったーー!」

「やっぱり防御は苦手・・・」

「私はむしろ得意かも」

「私もかな」


 タイムは今日やった防御の練習を振り返りあまり浮かない顔を、逆にクロウとラビクは楽しそうな顔。


「四人とも、今日もお疲れ様。明日明後日は休みだからしっかり体を休めなね」

「やったーー!」


 ツカイが嬉しそうに木刀を手にしながら両手を挙げる。


「ゆっくりと休もうかな」

「私は動物に癒されようかな」


 クロウ、ラビクは休みの日をどう過ごすか早速考える。


「じゃあ解散、みんなまた二日後ね」

「「「「ありがとうございました」」」」


 カンナに挨拶をした後、しばらく四人は剣技の練習場で休みについて話し合うのだった───。


 ガーベラ宅 夕飯後


「───ということがあったんだ」

「なんか不気味ね~」

「うん、怖かった」


 タイムが学校の行きにあったことをカタバミに話していると。


「ただいまー!!」


 クフェアが帰ってきた。


「おかえりなさい」

「ただいま」


 ふたりがいつものハグをする。


「おかえりお父さん」

「ただいまタイム」


 タイムにはくしゃくしゃと頭を撫でる。


「聞いてよお父さん、タイムが変なおじさんに話しかけられたんだって」

「ホントか!?」

「うん、怖かった」

「まあでも、タイムなら例え襲われても対処できるよな?」

「うん。まだそういうことはないけど」

「ただ、無理はするなよ?逃げるなら逃げる、判断を誤るなよ」


 クフェアはタイムにそう助言する。


「お父さん夕飯は?」

「いただくよ」

「ならちょっと待ってて」


 カタバミはクフェアのために夕飯を温めなおし、タイムは寝るため自室に戻る。

 とそのとき。


「タイム」


 クフェアに呼ばれタイムは肩をビクッとさせる。


「明日明後日休みなんだって?」


 クフェアはニヤニヤとしながら言う。


「うっ、ううん?・・・」

「なぜ疑問型?タイム、嘘ついたら次の休み、めちゃくちゃキツくしごくぞ?」

「あ、明日明後日休み、です・・・」

「そうかそうか、なら明日明後日は剣の稽古できるな」


 タイムはクフェアの剣の稽古から逃れられないと悟り、肩を落としながら部屋へと戻るのだった───。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ノータイトル 比企谷こうたろう @HiKiGAYAkotaro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ