ノータイトル
比企谷こうたろう
第?話
二三一年 一月某日
「そこっ!もっと足を踏み込む!」
「そう!そうそうそうそう!!いいよいいよ!」
相手の体勢が崩れた隙を狙い、木刀を振り込む。
「ふぅんんっ!!」
「っっ!!」
木刀を相手の腹に打ち込み、相手が倒れる。
「そこまでっ!」
「イッタァ」
倒れた者が腹を擦りながら仰向けになる。
「ごめん、力入れすぎた」
「ツゥー、ホントだよ。もう少し優しくしてくれ・・・」
相手を倒した者が手を差し伸べる。
「いや、少しこのままでいたい・・・」
「わかった」
どうやら相当ダメージを食らったようだ。
「タイム」
「はい」
「今の一連の流れは悪くなかった。実践で通用するかはまだ微妙だが、力加減は通用するだろうな」
「本当ですか!?」
「ただ、練習にしては少しやり過ぎだ」
剣技の指導をしている教師、カンナは相手を倒した生徒、タイム・ガーベラに肩をすくめながら助言する。
「はい・・・」
「ツカイ、あとどれくらいで立てそうか?」
「あともう少しで立てます・・・」
「わかった。タイム、ツカイが立てるようになるまでお前も少し休め」
「わかりました」
タイムはツカイの隣に腰を下ろす。
「強くいれてごめん」
「いやもういいよ。だいぶマシになってきた」
タイムに倒された相手、ツカイは腹を右手で軽く擦りながら起き上がる。
「にしてもタイム、ホント強いな」
「まあお父さんに鍛えてもらってるからね」
「騎士団員だもんなあ、家ではもっとキツいの?」
「うん、いつもボコボコにされる」
タイムは家で父親にシゴかれている時を思い出し、少し苦い顔をする。
「お父さん厳しいの?」
「うん厳しい。剣の練習時間になるといつもの顔と違って怖いし」
「そっかあ、俺は特にそういうのないからわからないなあ」
タイムとツカイは束の間の休憩をとっていると。
「そこ!もう大丈夫ならもう一回だ!」
「「は、はい!」」
カンナはもう一組の剣技を見ながら、タイムとツカイの休憩を切り上げるタイミングを見計らっていた。
「もう一回頑張ろうぜ」
「うん、ツカイもう一回お願い」
タイムとツカイはもう一度、剣技の練習を再開させた───。
〓〓〓
「今日はここまで!」
カンナが今日の剣技の練習の終わりを告げる。
「はあっ、はあっ、んっ、はあっ、はあ」
「つっ、疲れたあ」
「今日はここまでね・・・」
「はあーーー」
四人銘々に膝に手をついたり、倒れて仰向けになったりする。
「まっ、まだ練習に慣れねぇ・・・!」
ツカイが仰向けになり、息絶え絶えになりながらそう叫ぶ。
「お父さんよりはマシだけど、学校もキツい・・・」
膝に手をつきながらそう呟くタイム。
「流石っ、騎士団員のお父さんに鍛えられてるだけはあるわね・・・」
「本当にね・・・。私としては、凄くツラいよ・・・」
「はあっ、はあっ、んっ、クロウとラビクっ、二人とも、本当にっ、初めてなの?」
と、まだ乱れた呼吸のままツカイが女子ふたりに問いかける。
「そっ、そうよっ。それがなによっ」
「私も、初めて、よ・・・」
クロウとラビク、女子ふたりも乱れた呼吸のままツカイの質問に答える。
「そうなのか・・・はあーっ、にしては、剣のセンス、あるよな」
ツカイが呼吸を整えながらクロウとラビクに話かける。
「そうかしら・・・」
「・・・」
クロウは答えたが、ラビクは辛いのかもう答える気配はない。
「ははっ、そっか・・・タイムはお父さんに鍛えてもらってるんだろ?」
「うん。だけど学校も十分キツいよ・・・」
「タイムでもかー、そりゃあ俺ら三人がぶっ倒れるよ・・・」
タイム、ツカイ、クロウ、ラビクが芝生の上で休んでいると。
「みんなお疲れ様。まだ剣技に入って一週間くらいしか経ってないから、怪我しないように家に帰ったらしっかりとストレッチしとくんだよ」
「「「「はい・・・」」」」
「今日は解散。気をつけて帰りなね」
四人とも最後の力を振り絞り、カンナに挨拶をする。
「「「「ありがとうございました・・・」」」」
「はいよ。また明日ね」
カンナは四人から背を向け校舎へと戻っていく。
「俺たちも帰ろ」
「「「うん・・・」」」
四人は一斉に芝生から立ち上がって木刀を拾い、服に付いた汚れを軽く払ってから帰路に就く。
「じゃあまた明日」
「じゃあね、ツカイ」
「また明日ね、タイム」
「また明日、クロウ」
「バイバイ」
「バイバイ、ラビク」
タイムたちは別れの挨拶をし、みんな別々の方向へと足を向け家に帰る───。
〓〓〓
「ただいま・・・」
「タイムおかえり。あら、また先生に厳しく鍛えられたの?」
「お父さんほどじゃないけど、学校も大変・・・」
「そう、今日も学校お疲れ様。汚れてるみたいだから、川に行って水を浴びてきなさい」
「うん」
タイムは母親、カタバミ・ガーベラに言われるがまま、家の近くにある川に足を運ぶ。
服を脱ぎ岩の上に置いた後、全身を水に浸からせる。
この川はあまり深くなく、タイムの太ももあたりまでの水深のため溺れる心配はない。
五分程度水に浸かったらあがり、次は汚れた服を川で洗い流す。
洗い流したら軽く服を絞り、裸のまま家に戻り干し竿で洗い流した服を干す。
家の中に入り自分の部屋のベッドに置いてあるタオルと服をとり、体の水を拭きとった後服を着る。
それが終わったら母親が作ってくれた夕飯を食べるため、食卓につく。
「お父さんは?」
「今日は遅くなると言っていたから、先に食べちゃいましょ」
「わかった」
「「いただきます」」
基本的に食事中は喋らない。食べ終わった後学校のこと、仕事のことなど今日あったことを話す。
「ごちそうさま」
タイムよりも先に、カタバミが食べ終わる。
「慌てなくいいから、ゆっくりと噛んで食べなさい」
「んっ・・・」
タイムが夕飯を食べ終わろうかというタイミングで・・・。
「たっだいまー!」
バンッ!と勢いよく家のドアを開けたのはタイムの父親、クフェア・ガーベラ。
「おかえりなさい、お父さん」
「おう!ただいま、お母さん」
ふたりは挨拶をした後、ハグをする。
帰ってきたらふたりが必ずする言葉の次の挨拶。
「おかえり、お父さん」
「おう、ただいまタイム」
タイムにはいつも頭をくしゃくしゃと撫でる。これがガーベラ家の日常のひとつである。
「お父さんも夕飯、食べるでしょ?」
「ああ、いただくよ」
「ちょっと待って、少し温めなおすから」
「おうよ」
少しの間、沈黙が流れる。
「・・・タイム、少し力付いたか?」
ちょうどタイムが食べ終わったタイミングでクフェアにそう話かけられる。
「そうかな?」
「ああ、何かこう、身長も伸びた気がするし、横にも少し大きくなった感じするよ」
「本当!?」
「そうねー、最近私もそう思ってたわ。剣技に変わってから徐々に身体大きくなっている気がするわね」
「やった!これからどんどんお父さんみたいに大きくなれるかな!」
「さあどうだろうな、それはタイム次第だな」
「そっかー、大きくなれるといいなあ」
カタバミとクフェアは顔を見合せて、我が子の成長に温かい目で見守るのだった───。
〓〓〓
翌日
「おはよー・・・」
「おはようタイム。顔洗って口をゆすぎに川に行ってきなさい」
「ん・・・」
タイムは眠たそうに目を擦りながら家の近くにある川へと足を運び、顔を洗って口をゆすぐ。
終わったら家に戻り食卓へ。
「もう少し時間かかるから待っててね」
「うん」
タイムは席につき、特にすることもなく待つ。
「・・・お父さんは?」
「お仕事に行ったわよ」
「そっか、もういっちゃったのか・・・」
「なに、お父さんとご飯一緒に食べたかったの?」
「うっ、ううん、そういうことじゃないよ」
「そう?」
カタバミは楽しそうにタイムと喋りながら朝食を作る。
「そういえばお母さん」
「なーに?」
「ときどき見て思ってたんだけど、その一日ごとに変わる数字と斜め右あたりにある二三一って何なの?」
タイムは壁に掛けてある日めくりカレンダーを指差しながら、カタバミに訊く。
「さあ、私にもわからないわ」
「えっ、そうなの?」
「ええ、ごめんなさいね」
「ううん大丈夫」
そう話しているうちに朝食は出来上がり食卓に並ぶ。
「それじゃあ食べましょ」
「うん」
「「いただきます」」
カタバミ、タイムは朝食を食べ終わったらカタバミは家事を、タイムは学校に行くまで剣の自主練習に励むのだった───。
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