第50話 約束

 オレーフィチェ侯の尋問が始まり、今回の王女暗殺未遂事件に関わった者が次々と判明する。

 捕まる前に自殺できた者は、幸運だと言えるだろう。

 何故なら、そう簡単に死なせてはもらえないからだ。



「姫様ぁ。ポメラ・ホワイト、ただいま戻りましたぁ」


 おままごと――本人は結婚後の振る舞いを学ぶための勉強と言い張っている――で遊んでいた王女の元に、正式なプリンセスガードが戻って来た。


「ちょっとポメラ! アナタ戻って来るのは明日でしょ!? 今すぐ帰りなさい!」

「そんなぁ! 姫様の為に無理して出てきたんですよぉ!?」


「では殿下――いや、セシリア。俺はデポルカの街に戻る」

「待ってあなた! ……もう芝居はいいわ。――ねえ、パラッシュ。私の元でずっと働きなさいな? お給料もいいし、とっても名誉ある仕事よ。絶対にその方がいいわ」


「ええ? もしかして私、クビですかぁ?」

「そんな訳ないでしょ? 本当、アナタは頭が悪いのね。前から一人は辛いって言ってたじゃない? パラッシュと二人でやるといいわ」


「それは助かりますぅ。やっと休日が貰えるんですねぇ」


 ポメラの話を聞いて、王女の話を断りづらくなってしまった。

 彼女を守ってあげたいという気持ちは正直ある。だが、俺にはやる事があるのだ。


「申し訳ありません殿下。せっかくのお誘い――」

「どうしてよ!? あの夜の事は水に流すって言ってるでしょ!? あの平たい女を慰める為だったって事は、大人の私にはちゃんと分かってるから心配いらないわ!」


「いや、そういう事では無くて……」

「その事でアナタに冷たく当たってしまった事は素直に謝るわ! でも、女っていうのはそういう生き物なの! そこを分かって、パラッシュ!」


 王女の目に涙が浮かび始める。これは困った。


「そこから離れてもらえないでしょうか……」

「わかった、身分の差ね! でも、アナタはもう騎士よ! 私の隣にいても、おかしい事は何一つないわ!」


 俺はジュリアン陛下から、直々に騎士の称号を授けられた。

 つまり、平民から準貴族となった訳である。半年前は石材や丸太を担いでいたというのに、信じられない話だ。


「殿下……私は【クッキー・マジシャンズ】をランク1位のギルドにしたいんです」

「何よ! 私より、自分の評価の方が重要だっていうの!」


 ポカポカと叩いて来る王女を、俺はそっと抱きしめる。


「私が愛した女の夢を叶えてあげたいんです。彼女の夢は、私と共に【クッキー・マジシャンズ】を作り、白金級1位に上り詰める事でした」

「一人の女のために生きるアナタ、とっても素敵よ……でも、その情熱を私に向けてほしいの……」


 俺は王女の頭を優しく撫でる。


「白金級1位になったら、私は必ず殿下の元に戻ってきます」

「……約束よ? 絶対絶対、約束よ?」


 微笑みながら俺はうなずく。


「パラッシュさん、本当は明日までいる予定だったはずでしょうから、明日までいてはいかがですかぁ?」

「そうしなさいパラッシュ! ポメラに業務連絡とかあるでしょう!?」


 まあ、それくらいならいいか。そう思っていた矢先、俺の元にノエミが駆けつけてくる。


「レイ君! ラペルト卿から緊急の依頼だって!」




 結局俺達は、簡単に別れの挨拶を済ませ、急いで馬車に乗り込んだ。


「……ねえレイ。あの子にあんな事言っちゃっていいの? きっと、いつまでもアンタの事待ってるわよ?」

「いや、あれくらいの年の子は大人の男に憧れやすいんだ。一年もしない内に俺の事なんて忘れるさ」

「そうかなあ……レイ君は女心には疎いからなあ……」


 そんな事は無い。俺は人並みに理解できていると思っていたが、一月後セシリア王女とルチアン卿の婚約が破棄になったと聞き、若干の危機感を覚えるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔術師ギルドを追放された俺は、助けたスライムと共にギルドランク一位を目指す(小説家になろうランキング入り作品) 石製インコ @sekisei-inko

作家にギフトを贈る

カクヨムサポーターズパスポートに登録すると、作家にギフトを贈れるようになります。

ギフトを贈って最初のサポーターになりませんか?

ギフトを贈ると限定コンテンツを閲覧できます。作家の創作活動を支援しましょう。

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ