第49話 プリンセスガード②

「イヤ! やめて! パラッシュ、助けて!」


 彼が助けに来ない事は分かってる。自分がクビにしてしまったのだ。

 ああ、彼がそばにいてくれたら、こんな事にはならなかったのに……。

 セシリアは後悔の涙を流す。



――バスッ! バスバスッ!


「――え?」


 頭に矢が三本刺さったグレーターゾンビは、ずるりとその場に崩れ落ちた。


「パラッシュ……?」

「――何事だ!?」


 騎兵達が一斉にセシリアの元に駆けつける。


「矢が刺さっている……何者かが狙撃したのか!?」

「馬鹿な事を言うな! ここは平原だぞ! 周りを見てみろ、誰もいないだろう!」


――バスッ!


 兜に矢が突き刺さり、一人の騎兵が馬から落ちた。


「間違いない! 狙撃だ!」

「矢の向きからして6時の方向だ!」

「おいおい、誰もいないぞ!」

「まさか、あの遥か遠くにある丘の上からか……?」

「馬鹿か! あんな遠くから矢が届くわ――」


 また一人、騎兵が頭を射抜かれた。


「間違いねえ! あの丘から――」


 矢が兵士の首を貫く。頸椎を貫通したようだ。


「パラッシュよ! パラッシュが来たんだわ!」

「おのれ……もう亡者化はいい! 殿下を殺して、ここを離脱するぞ! ニンファ、やれ!」

「か、かしこまりました!」


 オレーフィチェ侯に命令されたプリンセスガードの女が、セシリアに駆け寄った。


「殿下! お覚悟――」


 右側頭部に矢が刺さり、女は死んだ。


「私のプリンセスガードが来たのよ! アナタ達、もうお終いだわ!」

「黙れ! 全員で一斉に刺し殺せ!」


 しかし、オレーフィチェ侯の命に従い、命を投げ出せる者は一人もいなかった。

 騎兵達は馬を降り、盾を丘の方に向け、密集隊形をとる。

「何をやっている!? やれ! やるのだ! やらねば処刑するぞ!」


 バカァン!


「た、盾が!?」


 バスッ!

 盾を破壊された騎兵が仕留められる。


「オレーフィチェ卿! もう無理です! 撤退しましょう!」

「馬鹿者! ここで逃げたら、私は破滅だ!」

「逃げた方がいいわよ、オレーフィチェ卿! 亡者たちがウヨウヨ来てるもの!」


「オオオオオオ……!」


 血の臭いに誘われたのか、何体ものグレーターゾンビが騎兵達に群がって来た。


「クソオオオオ! かかれええええ!」


 オレーフィチェ侯と騎兵達はグレーターゾンビとの戦闘に入る。

 ある物は亡者に噛み殺され、またある者は矢で射抜かれ殺された。


「ウオオオオオ!」

「きゃあ! パラッシュ! パラッシュ! 私のとこにも来て――」


 バスッ!


「さすがパラッシュ……素敵よ……」


 騎兵達は全滅し、残りはオレーフィチェ侯のみ。


「ちくしょおおおおおおお!」


 オレーフィチェ侯は慌てて馬に乗り、丘の逆方向へと駆けて行く。


「あら、やっぱり逃げるのね。でも逃げ切れるかしら?」


 だが、彼に矢が刺さる事は無く、セシリアの周りにいるグレーターゾンビが次々と倒されていく。


「もうっ! こいつらのせいで、あの男を取り逃がしてしまったじゃない!」


 オレーフィチェ侯はもうすっかり遠くへ行ってしまっており、もはや点のようにしか見えない。

 これでもう、今回の事件の真相を知る事はできなくなってしまった。


 その時、丘の方から一騎の騎兵が近づいて来るのが見えた。



「殿下! ご無事ですか!?」

「パラッシュ! 何をやってるの! 私を助ける前に、あの男を仕留めなさい!」


「ふふっ、心配は無用だったようですね。さすがです殿下」


 パラッシュはダガーで、セシリアを縛っていたロープを切断しようとする。


「私の事はいいから、オレーフィチェ侯を追い掛けなさい! 彼が真犯人よ! 絶対に逃がしてはダメ!」

「いえ、追い掛けません。――ここから狙撃します」


 そう言うと、パラッシュは弓を引き絞り、連続で二回矢を放った。

 そして、平然とセシリアの拘束を解き始めた。



「ちょっとパラッシュ……まさか、今のが当たったっていうの?」

「ええ、馬と足を狙いました」


「もう、私を助けたいからって嘘ついちゃって……アナタのその気持ちは嬉しいわ。――でも、私の王国を想う気持ちを汲んで欲しかった」

「ご心配なく。彼は今、地べたを這いずっています」


 縄がほどけ、セシリアは自由になる。

 彼女はパラッシュにぴょんと抱き付いた。


「じゃあ、本当に当たってたらキスしてあげるわ」



――それからしばらくして、セシリアはパラッシュに口づけをする事になるのであった。

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