思出桜

 桜が繋ぐ強い恋。

 咲き誇る花に誓われる、妄執とも呼べる純愛のひとひら。   


 私は幾度死んだだろうか。

 私は幾度生まれただろうか。

 時に老衰し、時に病死し、時に事故死し、そして時には殺されて。

 それでも懲りずに何度も人生を重ねるのは、ただ愛しい人に会いたい一心で。

 遠い前世の記憶の中で笑うあの人。私の恋人。

 その人の全てが私を惹き付けた。

 美しい容姿も、

 可愛らしい仕草も、

 綺麗な声も、

 優しい性格も、

 美味しい手料理も。

 こんな弱くて情けない私を愛してくれた人。

 私の強いあの人への愛情は、脳味噌を通り越して魂にまで刻まれた。

 霧の神様が私に問うた。

「その記憶、手放さないと決めたのは君。ならば覚悟はできてる筈だよ。でもあえて聞こうか。本当に前世の記憶を背負ったまま生まれ変わって行くのかい?」

 迷いなどない。あの人の記憶を失うことに比べたら、何千回の誕生と死の記憶を背負うことなどどうってこと無い。

 必ず、いつか、どれだけかかろうと、私はもう一度貴女を見つけ出す。

 それが遠い前世の私の誓い。

 今なお揺るがない誓い。

 例え見つけ出したとして、その人の隣に私以外の誰かがいたって構わない。

 彼女が幸せであるのなら。

 でも、もしその時、彼女の隣が空いていたのなら、あわよくば、もう一度。

 そうして、幾度も命を重ねたが、まだあの人は見つからない。


 ああ、何処に。あなたは何処にいるのですか。



 ふと目の前に薄紅色の花弁が舞った。横を向くと美しい桜。見事なその大木は私の目を奪う。そっと近づき、その幹に触れる。いつか貴女と見た桜を思い出して、私はまた、強く決意する。


 今度こそ強い肉体を持って、今度こそ諦めない心を持って、今度こそ一生を捧げる覚悟を持って、かつて果たせなかった思いと捨ててしまった全てを持って、あなたのもとへ。


 必ず、見つけます。


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怨念桜 しうしう @kamefukurou

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