コンビニ店員が内閣総理大臣にくじ引きで選ばれました。
荒城夢兎
まさか私が内閣総理大臣
高校を卒業してから地元のコンビニでパート生活を続けて居る私、星澤えみる。
あ、そこ。 名前の事は言うな。 平仮名でえみるって書くのはキラキラな気がするけどそこは言うな。
そもそもエミールって男の名前じゃね? って人も言うな。
親が可愛いと思って付けた
ちなみに両親揃ってパチンコ三昧のパチンカス。 あたしの子供の頃の児童手当までパチンコやらスロットにつぎ込んだ手も付けられないギャンブル狂。
児童相談所に何度も連絡したけど、虐待の証拠が無いからって理由で要監査で終わったけどね。 でもやっと、去年の3月で高校を卒業!
晴れて今年から一人暮らしを始めたのです!
1DKの家賃15000円のボロ屋だけど、私にとっては夢の城なのだ。
そんなこんなでコンビニのパートをフルタイムで入れて、週40時間働いて全部自分の懐にお金が入る様になり、夢のおかず付きの朝晩のご飯を手に入れた!
家のご飯って、白米だけだったんだよね。 その白米も無いときは塩うどんとか。
さて、仕事が休みの今日の遅めの朝食は、納豆に、味噌汁に、白菜のお浸しにアジの開き。 ザ、和食に舌鼓を打つ私。
と、玄関のチャイムが鳴る音が聞こえた。
「ほえ?」
何とも間抜けな声を上げながら、食卓に箸を置いて、玄関に向かう私。
玄関の覗き窓から見ると、郵便屋さんの制服を着た女性の姿が見える。
「星澤えみるさんですか?」
「あ、はい。」
「本人指定郵便です。 失礼ですが身分証はございますか?」
本人指定? なんじゃそりゃ。 と、訝し気ながらも自分のマイナンバーカードを見せる私。
「ありがとうございました。 ではこちらが荷物になります。」
そして手渡されるA4サイズの厚さ5cm程の箱。
宛名は、私。 差出人は……総務省? なんじゃこりゃ。
お知らせか何かだと思うが、一応開封すると、私の目に飛び込む、
『おめでとうございます。 貴女が内閣総理大臣に任命されました。」
というふざけた文面。
悪戯にしても程がある、と、一瞬そのままゴミ箱に捨てようとするが、ICチップのが埋め込まれてる何かのカードと、政治家が付けているバッヂが転がって、更にはスマートフォンが箱の中から出てきて唖然とする私。
「…………まじ?」
そういえば今の日本ってコロナ対策で叩かれた首相が辞任して、後任の首相はある宗教団体へのコロナワクチンの接種の優遇がバレて3日で辞任したんだっけね。
後任は民間から無作為に選ばせて頂きますと官房長官は苦し紛れに言っていたが……。
「マジで、あたし?」
◇
部屋着から一応外行きの服に一応着替える私。
まずは同梱したスマホで総務省にご一報下さいと他の文書に書いて居たので、緊張しながらも総務省と書いてあるビデオ会議用のチャンネルをタップ。
ピロン。 という電子音と共に、疲れた顔のおじさんの顔が画面に現れ、画面上部に私の顔が表示される。
「………あ。 総理大臣候補の方ですか?」
「え? 候補ってなんですか?」
「え?」
「私が総理なんですよね……?」
「ええ!? 受けて下さるんですか!?」
おっと困った。 これって断る事も出来たのか。
「あの、時給って幾らですか?」
◇
はっきり言おう。 最年少、最短で内閣総理大臣になっちゃった。
選挙権が無い? うん。 無いね。
現行法ではこの年ではなれない? そうね。 でも、特別法案でそれもありにしちゃったんだもの仕方ない。
それに時給10000円だって! 高すぎ! 5000円にしなさい! って最初に幹事長に言っちゃった。
あと、会議は全部リモートにする事にした。 参加出来ない議員は全員クビね。
「星澤首相。 内閣総理大臣所信表明演説の準備は出来ておりますでしょうか。」
と、昼から夕方にかけて、お偉いさんとのあいさつを軽く済ませた後、官房長官との擦り合わせを行う事にした。
「めんどくさい……。」
「流石に何か公約など出しませんと……。」
「んじゃね、東京オリンピック延期!」
「マジですか。」
「マジです。」
「まあ、世論もそういう方向に向いてますし……民意は一応得られるかと。」
「あと一年間消費税ゼロ!」
「マジですか。」
「マジです。」
「あとはね、マイナンバーカード持ってて、保険証に紐づけてる人だけ10万円の補助金!」
「いやいや。 現状3割しか申請されてないんですよ? 保険証との紐づけなども難しく……。」
「ふーん。 補助金要らないなら作らなきゃ良いんじゃない?」
「マジですか。」
「マジです。」
「しかし予算が厳しい事になりますな……財務省が何と言うやら……。」
「お金が無いなら刷れば良いじゃない。」
「は?」
「日本銀行に追加で200兆円刷らせて金融緩和しよ?」
「マジですか。」
「マジです。」
「そうなるとインフレが大変な事になりますが……。」
「良いじゃんインフレ。 2%以上目指したいんでしょ?」
「そんなものでは済まないかと……。」
「もう少しインフレで底上げしないと、最低賃金も上がらないよ?」
「え……。」
「いや、え、って、何その呆けた顔。」
「い、いえ。 先ほどから話して居ると……とても18歳の女性とは思えない発言ばかりでしたので……。」
「セクハラ。」
「え?」
「それセクシュアルハラスメントよ。 あたしが男だったら違う意見になってたでしょ。」
「いやいや。 そそそそんな事は。」
「まあいいわ。 女だからこんな無茶出来るってのも良い謳い文句になるしね。」
「世間は驚くでしょうね……。」
◇
『18時から官房長官よりリモートで緊急の記者会見が行われます。 質疑応答はあらかじめ文章で投稿し、指名された方のみ発言を許可するそうです。』
おーおー。 マジで始まっちゃったよ。
総理大臣任命初日の官房長官の記者会見。
私はテレビを生中継で見ている。 コーラ飲みながら。
『オリンピック延期、一年間消費税ゼロ、マイナンバーカードの普及、金融の更なる量的緩和、実効為替レートの随時調整、16歳以上の日本国民全員へのコロナワクチンの早期接種、尖閣諸島への陸上自衛隊の配備、これを持って七つの光、レインボー作戦と名付けます。』
ぶほっ! と、飲んでるコーラを吹く私。
最後の三つは一言も言ってないんだが!?
しかも何がレインボー作戦だ! だっさ!
私は慌てて官房長官に連絡を入れる。
『テンテンッテン、テンテンッテン。』
テレビで流れる官房長官の着信音。
『はい、もしもし。』
『もしもしじゃないわよ。 何最後の三つの表明は。 アメリカと中国と欧州に喧嘩売ってんの?』
『いやしかし、こういった意見も多くて……。』
『あたしの出した表明に便乗して追加したのよね?』
『はあ……まあ……。』
『確かに行き過ぎの円高には介入する余地もあるけど、今のところレンジ内で収まってるでしょ。 為替操作国に認定されたくなかったら今すぐ撤回。 はい。』
『……為替レートの調整は、撤回させてイタダキマス。』
もうテレビの画面の中の官房長官は泣きそうである。 いや、むしろ泣け。
で、テレビで気付いたが、あたしの顔官房長官の画面の端にめっちゃ出てね?
って、なんであたしをズームしだすんだいテレビ屋さん。
『欧州の方が現状酷いのに、ワクチンを買い占めるような事したら困るでしょ。 もしかして日銀に刷らせたお金で一気に買おうとして、為替レートもコントロールしようとしたんじゃないの?』
『ソンナコトハ……。』
『医療従事者と、公共交通機関の関係者を優先的に、出来るだけ早く調整をしたのちに随時接種。 その次は65歳以上の高齢者。 はい、繰り返して。』
『あ、あの、首相。』
『なによ。』
『もう首相が直接仰ってはいかがですか?』
ペロン。 と、ビデオチャットから通話が落ちる音。
に、逃げやがったよ官房長官っ!!
『た、大変です。 官房長官から変わりまして、直接首相から国民の皆さまにお話があるそうです。』
『え、ええと。 何代目か分からないけど、皆さんの総理大臣です。 よろしくお願いします。』
と、マスクを付けたままだがスマホの前で一礼する私。
ピロン、ピロン、と、次々に私のスマホにメッセージが入る。
官房長官め。 質問までこっちに投げてきたか。
『まず、皆さんが聞きたい事からお話しさせていただきますね。 私、星澤えみると申します。 歳は18歳で、商業高校卒業後、昨日までコンビニでパートで就労しておりました。 全国から無作為で首相が選ばれた事になったと昼頃のニュースで流れてたのは皆さんご存じだと思いますが、それが私です。』
『あの、何故コンビニのパートから首相に?』
いきなりのニュースキャスターからの質問が飛んで来た。
『時給が良いからです。』
『じ、時給!?』
『話を戻しますが、現在尖閣諸島では某国の民間船、一部は武装も見られる船が日本国の領海を侵犯しいるとの日々の報道がなされておりますが、海上警備隊、及び陸海空自衛隊は、日本固有の領土であるしょ島防衛の為に全力を尽くしております。 某国の様にしょ島に基地を作って実効支配するのは、そこに領土問題があるからだと解釈される事も考えられますからね。 基地を作るのはなーし。 わかりました?。』
『…………。』
おや? 何かキャスターが黙ってしまったぞ。 まあいいか。
『私の任期はこれから一年とさせて頂きます。 皆さま、コロナウィルスという脅威を、国民一丸となって乗り切りましょう!』
◇
SNSでめっちゃ拡散された。
WIKIまで作られた。
中学とか高校の写真までネットにアップされた。
時給5000円は少し安かったかもしれない……。
ー了ー
コンビニ店員が内閣総理大臣にくじ引きで選ばれました。 荒城夢兎 @wilsharna
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます