大通公園
19時。耳をつんざくような大音量。設置されたステージで、激しい踊りが始まる。
ここは北海道札幌市の大通公園。「YOSAKOIソーラン祭り」の会場に私はいた。
14時過ぎ、新千歳空港になんとか無事降り立ったあと、予定通りパトカーに乗せられ道警へ。さまざまな書類の記入や、何度も何度も同じことを書かれ言わされるヒアリング(あえて聴取とは言わない)を数時間かけて終え、解放された時にはとっぷりと日が暮れていた。我知らず道警の出口で深いため息をつく。
札幌事務所に連絡をしたところ、出向は明日からでいいとのこと。当たり前だ!
ずっと黙っていた太蔵がいかにも暇そうな、のんびりとした口調で話しかけてきた。
「お前、着陸した時は『だはあ』って号泣してたのに、よくもまあ、あんだけペラペラ喋れるもんだな」
(私がきちんと伝えないと、あの男の人の罪が重くなってしまうからねえ)
とりあえず時間が出来た。せっかく北海道に来たのだから、どこかいい居酒屋に入りたい気分だ。
一人で居酒屋に入ることに抵抗はない。というよりも一人の方が気楽な気がする。自分が今いくらのものを食べているか、計算しながらお酒を飲むのは心底美味しい。ある程度のお金の余裕が出来てからというものの、外食の回数が増えた。
缶ビールを飲みながら歩く。すすきのへ行けば居酒屋はよりどりみどりだろう。道中、足元がコンクリートから石畳に替わっていることに気付いた。ここがビル街だということを忘れてしまいそうになる街路樹に、さまざまな色の花が咲いた植え込み。札幌市のシンボルでもある大通公園に入ったのだ。
子供の頃、それこそ飛行機に対する恐怖心が芽生える前、両親に連れられこの公園を訪れた時の記憶が蘇ってきた。まだ妹のすみれは生まれていなかったはずだ。
雪まつりを見たから季節は冬だ。ここ大通公園だけでなく、地下鉄南北線で20分ほどの場所にある自衛隊前駅まで足を運んだ。光で彩られた大通公園の雪像のアニメキャラよりも、隊員と一緒に遊べるアトラクションが多かった自衛隊前駅の方がより印象に残っている。
懐かしさに目を細めるも今は6月。ここ大通公園では「YOSAKOIソーラン祭り」が開催されていた。ステージだけでなく、パレードのように踊りながら練り歩く人たちもいるらしい。
ステージを5分ほど眺め、駅の方へ。
「もういいのか」
(あ、うん。もういい)
「大きな祭りらしいが」
(この爆音とノリが苦手でね。騒乱祭りだと思ってたくらい)
すすきのは混むだろうから地下鉄、もしくは電車で静かな所へ行ってから考えよう。小樽は何もかも高い印象がある。琴似はどうか。
とりあえずは移動だ。できるだけ空いている方へ行ってみよう。そうすると明日、札幌事務所へと顔出しするのに便利なのは石狩あたりか。札沼線なら一時間もかからなかったはずだ。スマホで乗り換え案内を確認する。
〜 〜 〜 〜 〜 〜
「おいマジか」
「鹿か」
ガクンという衝撃の少しあとに放送された車内アナウンスに釣られ、思わず口から出た焦りに太蔵が言葉を被せてきた。
「鹿がぶつかって止まったのか。さすが北の大地が誇る害獣」
「これは……首都圏ではあまりないね。青梅線でたまにあったかな」
夜は更けている。止まった風景をのんびりと眺めようとするも、灯りもないので暗闇しかない。星の光も車窓から漏れる灯りでかき消されている。
仕方なく乗車前に買った缶ビールを開け、一口あおる。
「雪まつり、見たかったな……」
黒い闇を見つめながら、白く染まった公園に想いを馳せながら独り言を呟いた。
守銭奴と死神、それと夜のパレード 桑原賢五郎丸 @coffee_oic
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