最終話 その後のお姫さま


「あ、あたし自分の話ばっかしちゃってるけど、いいのかな」


「いいのいいの、大歓迎よ」


「私も聞きたい。続けて」



「そう? ありがと。あのさ、さっきも言ったけど、あたし何も出来ないじゃない? 世間知らずだし、口の聞き方や礼儀作法だってアレだし、特技とかも無いし。だからせめて、そうやって笑ってもらえると嬉しい」


「いや、ラプンツェルちゃんが話し上手なのよ。それにさ、子育てしてるだけで立派だって。特技なんて私もないし。せいぜい家事全般できるくらいで」


「わたしも特技は動物と話せるくらいよ。それと、言葉遣いやお作法なんかはそのうち慣れるから」



「そう。慣れよ、慣れ。あ、待って。私ダンスはちょっと得意だわ」


「えっと……わたし、りんごならいっぱい食べれる」


「りんごは程々にしとけ」




 ラプンツェル姫が、小さく嘆息しました。好奇心に輝いていた瞳が、少し淋し気に曇ります。



「そっかー。あたしさ、今はプリンセス教育についてくのと子育てでいっぱいいっぱいで。国のまつりごとやなんかって、旦那に任せきりなのね」



「姫ってどこの国も大体そうよ。城内を取り仕切ったり、民の陳情を聞いたりとかはするけれども」


「あと城下の視察とか慰問とか、たまに外交とかね」



「うん、あたしもそういうのは目下勉強中なんだけど。でも、あたしってド庶民出身じゃん? 庶民の暮らしや気持ちわかるじゃん? それに、家追い出されてから王子に再会するまで、村人達にたくさん世話になったのね。だから民のために、もっと何かできないかな〜って思ってて」



「まあ、姫の鏡じゃない」


「ね。ラップンが一番姫っぽいよ」



「……ラップン?」


「今つけたあだ名。野菜の名前より可愛いでしょ。アレルゲンでもないし」



「あっは! いいね、ラップン…ラップン………ラップ……あ、あたし歌が得意だ」


「ほう」


「素敵じゃない」



「旦那なんて、あたしの歌に惹かれてやってきたのが馴れ初めだもん。イバラの森を乗り越えてさ〜」


「旦那さんの行動力! めっちゃ肉食系だ」


「う、羨ましくなんか……っ」


「ユキ、どんまい」



「でも、歌じゃなぁ……特に役に立つわけでもないし」




 唇を噛み締めていた白雪姫が、再び瞳を輝かせて言いました。



「待って、いいわよそれ。伝えたい事を、歌に乗せて広めるの」



「伝えたい事って?」


「たとえば……そうね、悪い事をしたら罰が当たりますよーとか」


「因果応報ね。ラップンなんてまさに、親の因果が子に報いてるわけだから、説得力あるわ」



「あとは……人にやさしくしましょう、とか……食べ物は粗末にしないとか、いじめや争いは止めましょうとか?」



「それ、面白いな……じゃあユキ、歌詞を書くの手伝ってくれない? そしてエラには振り付けをお願いしたい」


「あら、なんだか大掛かりになってきたわね」



「人として大切な事を、歌と踊りで子供たちに広めるの。学校へ行けない貧しい家の子供たちにもわかるように。あたしの国だけでなく、ユキやエラの国にも。ううん、すべての世界に」



 白雪姫は白い頬を上気させて立ち上がりました。手鏡も嬉しそうに煌めいています。



「あなたって最高よ、ラップン! ね、エラ、やりましょう。姫にできる仕事って、城の中や城下の民を導くだけじゃない。わたしたちで少しずつ、世界をよくするの」


「よき教えを子供たちから徐々に広めて行くのね。学校増やすより簡単だし、大人に説教するより効果ありそうだわ」



「やっば、鬼バズり待った無しじゃ〜ん」


「オニ、バズ……?」



「まぁまぁ、それは後で説明するって。とりあえず乾杯しない?」


「そう? ま、いいわ! 世界の未来に、乾杯♪」


「紅茶だけど、いっか。かんぱ〜い♪」



 それぞれカップを手にして、手鏡越しに掲げます。


 姫君たちの顔が輝いています。たまにぼやいたりしても、口が悪くても、多少腹黒いところはあっても、やはり姫です。民の幸せを願っているのです。





「……ねえ、もしかしてあたしたちって、けっこういい姫じゃない?」


「やだラップン、今ごろ気付いたの?」


「当たり前じゃないの。私たち、腐っても姫よ?」



 うふふ、と3人は笑いあいました。




「これからうんと忙しくなるわね」


「そうね。姫ってほんと……」



「「「楽じゃないわ〜♪」」」





 ……姫君たちのリモート女子会は、もうしばらく続きそうです。



 めでたし、めでたし?

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その後のお姫さま 霧野 @kirino

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