第5話 姫君たちの女子会


「ほんとさー、今日こうして呼んでもらえて、あたしすごく嬉しいんだ。今までマトモな大人が周りに居なかったから」


「そっか。つい最近まで、魔女と王子しか人間を知らなかったんだもんね……」


「そういえば、その魔女は今どうしてるの? 処したの?」



「いや、ほったらかし〜。まぁ一応、育ててもらった恩はあるからさ。処罰とかめんどいしチャラでいっか、みたいな。でも、もう監禁とかすんなよって釘は刺しといたけど」


「心が広いわ……」


「いやいや、魔女なんかより今の生活に必死なだけよ。いきなり王子の嫁になんてなっちゃったから、ママ友とかいないし」


「家来はいるけど、友達にはなれないしねえ」



「そうなの! 新米姫だから仕方ないとはいえ、話といえばプリンセス教育ばっかでさ。あたしは仲良くしたいんだけど、向こうがね」


「わかる。やっぱ距離というか、壁はあるよね」



「特にあたしの場合はさ、実の親は野菜泥棒だし、育ての親は監禁魔女じゃん? 周りもひくよね」


「人生ハードモードすぎ〜」


「それな。しかも魔女なら魔法のひとつも教えてくれてりゃいいのにさ、あたし何にも出来なくって……って、そういえば、あれだな。あいつ魔女名乗ってたけど、魔法使ってんの見たことないな」


「え、魔女ってこと?」



「だって、塔の上の部屋に来るのなんて魔法で来ればよくない? 空飛ぶなり瞬間移動したり、あるじゃん。いちいちあたしの髪を昇らなくてもさ」


「それもそうね。お年のわりに腕力すごいな、とは思うけど」


「畑仕事で腕力ついたんじゃね?」



 平然と言い捨てるラプンツェル姫に、ふたりの姫君は噴き出しかけましたが、なんとか堪えました。



「でも、ラプンツェルの髪ってすごいよね。全盛期で何メートルあったの?」


「あー……」



 ラプンツェル姫は少し首を傾げて考えました。


「当時は15メートルくらいは余裕であったなぁ。頭が重かった……」



「もしかして」


 白雪姫が瞳を輝かせました。



「その髪、魔法がかかってるんじゃない?」


「え、意味わからん。なんで髪に? まどろっこしくない?」



「んじゃ、畑で育ててる野菜に魔法がかかってるとか」


「うちの母親が盗んで食べた、ラプンツェル草に?」


「あり得る! 髪が育つ魔法野菜なんて、需要ありそうだもん」



「あ〜、たしかにぃ、うちの親、ラプンツェル爆食いしたらしいしな。その魔力がお腹にいたあたしの髪に宿ったのか。どうりで髪のびるの早いはずだわ」



「毛生え草……髪育菜……カミノビール……」




 何故か新たな商品名を考えはじめた白雪姫をよそに、ラプンツェル姫は納得がいかない様子で憤然と言いました。



「だとしてもさ、それってただの農家じゃんね。魔女っていうより、髪に良い野菜を山ほど育ててる農家じゃん」



「……そうだね。腕力すごくなるくらいたくさん育ててる……」


「ま、まぁ……農家だって立派なお仕事よ」



「もちろん農家が悪いわけじゃないのよ。たださ、自分ちで作ってる野菜の名前をつけられたあたしの身にもなってみろ、と。キャベツ農家が我が娘に『キャベツ』だの『甘藍』だのと名付けますか?って話よ」


「ンふっ…」


「……っ」



「しかもあたし、アレルギーだからね。ラプンツェル食べると舌が痒くなって全身に発疹出るからね」


「ぷぷーっ!」


「グフッ……! ご、ごめん。笑うとこじゃないね。ごめん」



 ごめん、と言いながらも、白雪姫とエラ姫は俯いて肩を揺らしています。



「いいのよ。大いに笑ってよ。あたしの唯一の鉄板ネタなんだから」


 堪えきれず、ふたりの姫君は声を上げて笑いました。ラプンツェル姫も一緒になって笑います。



「これ言うと、家来がめちゃくちゃ苦しそうなんだよね。笑うの堪えて」



「あははは」


「勘弁して。お腹痛い」



「顔まっ赤にしちゃってさ、汗だらだらかいて」


「もうやめて。そして、やめてあげて」


「鉄板ネタ持ってる姫とか、そうそういないからね」




 笑い過ぎて息も絶え絶え、という風情のふたりを見て、ラプンツェル姫は満足そうです………


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