第4話 塔の上のお姫さま


「ユキ〜、元気〜?」

「元気よぉ。エラ、こないだ大量にローズオイル届いたよ。ありがとう!」

「いえいえ。魔法の鏡のお礼ですから」


「今度りんご送るから」

「ちょ、どんだけりんご好きなのよ」


「好きじゃなきゃ、見ず知らずの老婆から渡されたりんごなんて食べませんって」

「懲りてない。この子、懲りてないわ〜」


 二度目の女子会ともなれば、もう阿吽の呼吸です。



「ところで、新たなもう一人は?」

「まだだね……多少時差があるから、時間間違えてるのかも」


 最初の女子会で、二人は他にも姫友達を誘おうと話し合いました。そこで、魔法の手鏡を持っている白雪姫が、幾人かの姫君に秘密の伝書鳩を送ったのです。



「それにしても、人選には苦労したわ。人魚姫は泡になっちゃってるし、眠り姫は眠いからって断られるし」

「まだ眠いんだ。100年寝たのに」


「寝すぎて眠い時、ない?」

「あー、あるか。たまにあるね」


「でさ、東の最果てに、『かぐや』っていう、結構パンチ効いた姫がいたらしいんだけど」

「うんうん」

「実は宇宙人だったらしくって」

「えー! まじパンチ効いてんね」

「月に帰ったって」

「月は……さすがに無理だねえ」

「鳥が鏡を運べない距離はね」


「あと、親指姫はサイズ的にダメだった」

「あら」

「手鏡が部屋に入らないって」

「結構立派だもんね、この手鏡」


 割れた欠片どうしをくっつけて作り直した魔法の手鏡は、少し変わった形をしています。3つの欠片を合わせてあり、その継ぎ目には金と宝石で装飾してあります。

 ひとつの欠片には自分、他の欠片には相手の姿が映るのです。


 その手鏡から、小さな声が聞こえました。



「あのー、こんにちは」


「あ、いらっしゃ〜い♪ お待ちしてましたぁ」

「どうも〜♪」


 鏡の一角に、見事な金髪の女性が映しだされました。その瞳は好奇心できらきらと輝き、可愛らしい唇には期待に満ちた微笑みが浮かんでいます。


「初めまして。ラプンツェルと申します。今日はお招きいただきありがとう」


「お固い挨拶は抜きよ。手紙にも書いたけどわたしたち、女子どうしの気軽なおしゃべりっていうのに憧れてるの」

「ユキなんて、平易な言葉遣いの練習までしたもんね」


 3人の姫君たちは、お互いに自己紹介をしあいました。ラプンツェル姫はやはり少し緊張しているようです……






「いやー、でもさ。やっぱ緊張したって。だってこっちは子持ちで、しかも庶民出身じゃない? 私なんかが姫君たちと女子会って、いいのかなって」


「いいのよぉ。姫君たちの女子会に、経歴とか子持ちとか関係ないから。それにわたしたちって、いつも畏まった人たちに囲まれてるじゃない? だからせめてここでは、ね」

「無礼講、ってやつよね。ところで今、お子さんたちは? 時間大丈夫なの?」


「うん、さっき寝かしつけたところ。旦那が見てくれてるし。あ、そうだ。あたしちょっと遅れちゃったよね。ごめん、寝かしつけに手間取っちゃって」



 緊張したというわりに、ラプンツェル姫は早くも馴染んでいるみたいです。さすがは姫どうしです。


「いいな〜。双子ちゃん、可愛いでしょうね。旦那さんともラブラブみたいだし」

「ま、うちは出来婚だからさ。それであたしは家追い出されたり、旦那も旦那で失明したりして、苦労したから」


「家族の結束が固まったんだ」

「そうね〜、当時はマジで大変だったけど、今になってみれば……って、今も大変だわ!」


「急に?」

「急になんかのスイッチ入った! これが本場の、庶民なノリなのね!」

「ネイティブね。ネイティブ庶民はひと味ちがうわ!」


 白雪姫とエラ姫は、妙な興奮につつまれているようです。



「いや、だってさー……十数年も塔の上に幽閉されてて話し相手は監禁犯の魔女と鳥ぐらいしかいなくてさ、ひっそりと生きてきたわけじゃない? それがいきなり王子と出会ったと思ったら出奔して出産して子育てよ? 展開やばくない? 怒涛の人生すぎない?」


「たしかに」

「人生のペース配分おかしい」


「ま、姫だから多少はね? 仕方ない部分もあるのよ? 普通の人よりはそりゃ、ドラマチックっていうか。それはわかってるの。元は庶民とはいえ、今は姫だもん」


「だからって……ってことよね?」

「そう! そうなのよ!!!」


 やっとわかってもらえた、と言いたげに、ラプンツェル姫は胸に手を当て、深く頷きました。





 姫君たちの女子会、今日も長くなりそうです……


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