埼玉県M市の店で不審者が出た話

報告の話

　埼玉県M市店に戻った私は、皆BさんCさんDさんに報告する。因みにE君はまたテレビ電話での参加だ。

「幽霊が見える課長の見解では、今回の件は幽霊の正体。生霊ではないかとなりました」

「生霊？」

　生霊を軽く説明すると、生きている人物も時折魂が抜け彷徨う場合があるらしい。生きた人間の思いや執着が強い程その減少が起きるそうだ。芸能人なんかによく憑くそうだ。

「ソレデ誰ナノ、ソノ正体ハ？」

「恐らく……K市店の店長じゃないかと、課長と一緒に考察した！」

　皆ポカンとした表情を浮かべるので、K市店の事情を説明すると、単純に今月過去最高に売上が悪いらしく、主要店舗の1つであったK市店は結構まずい状況らしい。K市店の店長は上の方から結構なプレッシャーを掛けられ精神的に病んでいたそうだ。

　こちらM市店は客層はともかく売上は良く。評価が意外と高くなっているとのことだった。

「つまり、K市店店長の念みたいな物が飛んできて何度もここに来たんじゃないか！　という事を課長は言ってました」

「それじゃあK市店店長の恨みの力かもってこと？」

　Bさんの質問に頷く。

「本人に聞いても自分自身が生霊を飛ばしている自覚はないから全て憶測にはなってしまうけどそういうこと何だと思うってさ。因みに実害を蒙ってない以上警察も呼べないし、お祓いも費用がかかるからやらないって」

『まあ、そうなりますよね』

　E君も納得した所で今回何も関わっていないDさんが悔しそうな表情を見せる。

「皆幽霊見れてズルいわ！　私も見たかった！」

「まあ、恐らくK市店店長を見ることになってたかもしれないので、あんまり有り難みとかないと思いますよ」

　そう言うとE君が話す。

『ワンチャン僕の生霊かもしれないっすね！　M市店に帰りたい思いが具現化したとか』

「それ、自分の生霊を見てることになるじゃん！」

　Bさんのツッコミをしつつ、最後に課長から言われたことやる。

「あと、Cさんが確か幽霊に見られてるかもしれないって言ってたけど、課長いわくCさんは美人だから今回に限らず幽霊が憑きやすいかもしれないから塩スプレーかけといてって言われてるんだ」

「怖イコト言ワナイデ！　ハヤクカケテ！　全身ニブッカケテ！」

　ということで、Cさんへ念入りに塩スプレーをかけ、入口からバックヤードまでの道のりにも塩スプレーを吹く。

　お盆が終わってから何事も無くこの件は、無事解決ということで会社に伝説の1つとなった。

ーー

「とりあえずK市店店長の生霊ってことにして、皆に伝えておいて」

「ん？　何か生霊なんですよね？　今回のこの黒服男」

「正直わからない。あくまで従業員の人達を怖がらせない為の口実ね」

　課長との会話を思い出す。

「えっと……それじゃあ本当は生霊じゃないかもしれないってことですか？」

「はっきりと人の形と輪郭をしてるからそうかなって思ってるんだけど、気になる所が3つあるんだよね」

　課長は動画をもう一度再生しつつ指を一本立てる。

「1つはBさんの時の衝撃音。いわゆるラップ音に含まれると思うんだけど、ちょっと音が大き過ぎるかなって」

「まあ、確かに凄いですけど、心霊動画でラップ音って結構起こってません？」

「確かに電子機器には幽霊って強く干渉出来るみたい何だよね。ただ本来、幽霊って現実の物質に触れられないんだよ。幽霊が物を動かすって言うのは、我々が何もしないで見ているだけの状況で物を動かす状況と一緒。超能力に等しい程この黒服男に力がある訳よ。今回の非常口の衝撃は相当強い力が働いたってことだよ」

　課長は続けて二本目の立てる。

「そして凄く気になるのが、霊感が無い人達にも実態が見えたってこと。そこが正直凄い」

「ああ……確かに、M市店で霊感ある人いませんからね」

「これも幽霊としてはちょっと私の中ではありえないかなって思ってる。こうして動画に残ってなかったらパートのDさんみたいに皆のこと疑っちゃうかも。正直これが生霊じゃない何かの可能性が高いんだよね」

　最悪に怖いことを言ってくる課長は、三本目指を出す。

「Cさんが何回も黒服男を見てるかもしれないって言ってるんだよね？　外人には基本日本の幽霊って取り憑かないんだけど、あの子美人だからもし本当にそうだったらマズイんだよね。明日M市店に行ったら塩スプレーかけといて。特にCさんには全身に浴びせる感じ。もしそれでも見続けるなら、私が彼女にお祓い出来る神社紹介するよ」

「わ、わかりました」

「それじゃあA君！　皆を怖がらせないように報告しておいて！　よろしく！」

ーー

　その1年後、コロナの影響を受けM市店は閉店。

　しかし、従業員達は移動や退職をしつつも元気に暮らしている。

　因みに、その後私はBさんとお付き合いし数年後に結婚。第一子を授かり順風満帆な生活を送っている。

　今M市店の跡地は新しい別会社のお店が出来ており通常通り営業をしている。

　また黒服男がそこに現れているのかは知らない。もはや私の管轄外である。

　　　　　　　　　了

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