幕間 嵐の日の伝説 一人師団

 偶々。偶然。あるいは運命に導かれるようにそこにいた。


 コキリと首の骨が鳴る。


 若い男だ。成人となったばかりの白人男性。普段は輝かんばかりの金髪碧眼が、今は稲光を反射している。


 堂々たるカテゴリー5のハリケーンが東海岸に接近中であり、砂浜にいる彼も今すぐ避難する必要がある。それなのに男は海に平行するような線を引き、自分の足元には円を描いた。


 線から先は通さない。円から後ろに退かない。そう宣言するように。


 ピカリと稲妻が輝く。


 ヘリすら吹き飛ばされる状況故に、増援の到着は間に合わない。そしてハリケーンが通過して通信機器が全滅した無防備な街に食いつかれれば、被害は想像も不可能なものになる。


 だから通さない。だから退かない。


 風という表現では収まらない力が襲い掛かる。不動。


 至近距離に雷が落ちる。不動。


 弾丸のような雨。不動。


 数多の戦場で戦った軍人一家の最年少は小動もしない。


 ピクリと指が動いた。


 抱えなくてもいい存在すら受け入れる濁った海から異形が顔を出す。カニ、クラゲ、タコ、深海魚。それらを歪に掛け合わせたような人型の妖異の群れ、群れ、群れ。


「超力砲!」


 方や一人。


『ガアアアアアアアアアア!』


 方や普鬼も多数混じる三百の侵略軍。


 再びの雷と共に、後年神話として語られる嵐の決戦が巻き起こされた。


 しかし一人で何が出来る。


 なんでもだ。


 浮力がない地上に戸惑っていた最下級の妖異の頭が、超能力による弾を受けて爆散した。白頭ワシの如き鋭い男の目は次の獲物、次の次の獲物、次の次の次の獲物を殺す為に動き続ける。


「おおおおおおおおおおおお!」


 上陸しているハリケーンに負けない嵐が陸上で発生する。


 古くから続く霊力、浄力、魔力に比べまだまだ超能力が黎明期にあっていきなり現れた完成形。到達点。


『グガッ⁉』


 甲殻類の分厚い装甲が念弾を防ぐ。一発を防ぐ。二発を防ぐ。三発四発五発六発七発八発九発十発。


 止まらない。明らかに常軌を逸した連射速度の超力砲が止まらない。


 暴風を押し返し、雨粒を消し飛ばし、十、二十、三十、四十、まだまだ続く超力砲の弾幕が妖異の軍勢をじわじわと削っていく。


 この当時の異能者が聞けば嘘だと判断し、直接目撃すれば二の句が継げなくなるだろう。


 実際、異能研究所、バチカンすらも当初は誤報だと判断しており、複数の異能者が連携したとしか思っていなかった。


 その異常を一人で引き起こしている男の手によって触腕が削れる。魚の頭が吹き飛ぶ。カニの鋏が爆散する。


 妖異は届かない。攻撃も届けられない。三百もいて暴風雨に耐えるしかない。


 勿論、男の方も無事ではない。


「んんんんんんんんんんんんんんん!」


 食いしばった歯は割れ、鼻、目、耳からは血を垂れ流し、砲門となっている腕はみしり、ぴちりと嫌な音を奏で続けている。


 だからどうした。


 偉大なるU.S.A、星条旗を掲げる一員として化け物如きに負けは許されない。超力による嵐は衰えるどころか益々荒れ狂い、たった一人で防衛線を成立させていた。


 基礎にして奥義。一歩にして最奥。それこそが超力砲と認識されることになる原因に対し、雑多な妖異ではどうすることもできない。


 妖異達はハリケーンに便乗して上陸を果たそうとしていたのに、それ以上の暴風に阻まれる。


 そして……。


 結局、線を越えた妖異はいなかった。閉じられた円から足を出したのは全てが終わった後だった。


 異能界に燦然と輝く伝説の一つ、嵐の決戦。


 その主役こそが後年自国では最高傑作と謳われ、仮想敵国筆頭にすら理想像だ。なぜ我が国に生まれなかったと嘆かせた男、名をエド・キャンベル。


 後に一人師団として他国に恐れられる傑物だった。


 ……時は進み現代。彼がなにをしているかというと……。


「蛇と聖人を見て以来の日本。あれから約一年か」


 特別に許可され日本の空港にいた。


 東海岸校と西海岸校を束ねた、日本に向かう留学生やら交流生を率いるのに相応しいのは誰か。舐められないのは誰か。独覚・竹崎重吾と渡り合えるのは誰か。答えは決まりきっている。


 エド・キャンベル。満場一致で決まったアメリカ団体の引率者だった。


「はあ……」


 親が団体の引率と責任者になったウィリアムは、やり難いと溜息を吐くしかなかったが。

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【二年生編開始】異世界帰りの邪神の息子~ざまあの化身が過ごす、裏でコソコソ悪巧みと異能学園イチャイチャ生活怨怨怨恩怨怨怨呪呪祝呪呪呪~ 福朗 @fukuiti

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