初恋リング

ガーネット兎

第1話 初恋リング


 ーー私は今日もまた、

棚にあるリングを手を取る。


 これは私が初めて付き合ったマキへ、

クリスマスに送ったペアリングの片割れである。


 初めてマキと出会ったのは、まだ私が中学二年の時だった。

学校に一番近いという理由から、

私はその美容室に通っていたのだ。


 私はまだ何も感じず、ただお任せでカットをして貰っていたね。お世辞にも上手とは言え無かったよ。まさかこんな近くに運命の人がいるとは、あの時は気がつかなかった...



 いつからかな...私は男子校だったけど異性に興味を持ち出した。


 ある女性に告白した所、ごめんなさいと言われた。


 その時、私には努力が足りないのだと感じた。


 香水を買い、美容液を買い、パックまでして、眉毛も整えたーーそう! 自分磨きをしたのだ。


 ーー毎日十キロ走り、体重も絞った。


 時は過ぎ、男子校とはいえ高校に上がると、付き合った事のあるクラスメイトもちらほら出始めた。


 少し焦っていた。俺の青春が終わってしまうのではないかと...


 私は紹介や合コンを開いて貰い、女性の扱い、話しかた、モテテクを実戦で学んでいった。


 そして段々と告白される事が多くなった。

だが、決して首を縦には振らない。


 だって初めては、自分にとって特別な人じゃなきゃ! と思っていたからだ。


 私が好きになった女性以外お断りだった。


 更には、恋人を作っても、どうエスコートすれば良いのかわからない。


 クラスメイトが年上と付き合ってる話を聞いたのはそんな時だった...あ! 年上良いな


 最初はそんな軽い気持ちだった。

マキに告白してデートのお誘いをしたのは...


 マキは言ったね。歳が十年違う上に、私はバツイチ子持ちだよと...


 当時の私はマキと付き合う事が何を意味するのか全くわからなかった。

本当にごめん...


 三日に渡り君を口説き落とそうとした私は、何とかデートまで漕ぎ着けた。


 その日は、文化祭だった。

正直楽しめる場所は、ネルトンの教室しかなかった。


 この後デートなのに何をやってるのだろうと愚痴を吐きながら入る。


 男子十人対女子十人! 案の定、票が集中した。


 私が指名した女性に残り九人の男子が追随したのだ。


「私の子供を産んでください」


「私と結婚してください」


「私を鞭で叩いてください」

 などなど、みんなボケの告白をしていく。

次は私だった。断られても良いから素直な気持ちをぶつける。


「友達からお願いします」


 他の男子からはボケなかった私にブーイングがくるが、知った事ではない。


 結果私はその子から選ばれてしまう。

見た目は悪くはない。しかし私には先約があるのだ...とりあえずメアドと電話番号だけ交換した。


 文化祭終わりに、ネルトンで知り合った先輩から話しかけられた。


「ネルトンで手に入れた女性と、これから待ち合わせか?」


 私はキメ顔でこう告げる。


「これから本気で落としたい女性と車デートして来ます」


「いやお前十六だろ? 免許とれなくね?」


「彼女が運転しますから」


 先輩は羨望の眼差しで、頑張れ! と何故か敬礼である。


 マキは先に待っててくれた。

助手席を開けてこう言う。


「アッキーからまさか告白されるとは思わなかったわ! 今日は何処に行きたい?」


 私は正直に答えた。


「女性とデートした事が無いので、お任せしたいの」


 もうどっちが女性かわからなかった。


 軽く夜ご飯を食べた後、君は夜景を見に連れて行ってくれた。


 正直、夢のような時間だった。

あ! これが恋に落ちる瞬間なんだと感じた。


 デートのチョイスから、接し方、話の重みなど、何をとっても何枚もマキが上手だったね。


 デートが終わった時に緊張して、私は聞いた。


「私の恋人になってくれませんか?」


 マキは少し考えてから


「いいよ! ただし、娘とも仲良くしてね」


 私は初めてだった。後にも先にも、産まれてきて良かったと思ったのは...


 彼女が出来た日から、私はマキ以外の女性の連絡先を全て消した。


 見た目だけでなくもっと...強くなりたい。

私は初めてそう思ったのだった。


 マキの娘は、美容室でよく見かけていて、昔から遊んであげていた。


 美容室と学校は徒歩三分だ。

ちょくちょく顔を出すようになる。


 君は笑顔で迎えてくれたね。

穏やかな日々と時々のデートが私の生きる意味だった。


 そして、クリスマス

私は貯金をしたお金で一目惚れした、

ティファニーのリングをペアで買っていた。


 驚かせようとかじゃなかった。

二人だけの愛の証が欲しかったのだ。


 やはり、車デートである。

しかし、プランは決まっていた。

聖なる夜に彼女に甘えてばかりはいられない。


 お好み焼きを食べた後に、デパートの屋上の観覧車に乗り、キスをして、彼女の家でケーキを食べる...


 問題は、お泊まりをするという事である。

つまり、彼女に初めてを捧げるという事だ。


 私は一週間以上前から心ここに在らずであった。

 

 白馬の王子様に見初められた女性はこんな気持ちなのだろうか? と何故か女性目線であった。


 マキはラフな格好なのに、私は妙に頑張って背伸びした格好をしたーーそうスーツである。


 マキは笑いながら、


「アッキーはまだ学生なんだから、ラフな格好でええよ〜」


 と言ってくれたね。私は一人で舞い上がり過ぎていたらしい。


 クリスマスの街並みを腕を組んで歩く。


「カップルに見えるかな?」


 と冗談半分で聞いてくるマキに、

私は自信を持って答えた。


「周りにどう見られても良い! 俺の気持ちはマキに奪われてしまったからね」


 マキは笑い出す。

正直、キザすぎたのと、真面目過ぎたのだろう。


 まずは一箇所目、お好み焼き屋に入る。

自分達で焼く店だった。


 えっ? 普通は、出来上がったのをくれるんじゃないの? 


 私はお好み焼きなど作った事なかったからパニックになったが、何とか作り方を見ながら、マキが作ってくれる。


 こんなちょっとした所ですら敵わないなと痛感した。


 二箇所目は、観覧車である。

綺麗な夜景を観ながら、彼女の左手を掴み、

そっと薬指に指輪をはめた。


 マキは銘柄を見てビックリしていた。

正直、高校生が買える銘柄ではなかったからだ。


「正直、俺は今人生で一番幸せだよ。マキがいるから...失いたくない。愛してる」


 マキはキスで答えてくれたね。


 その後、車で夜景を見に行った後、マキの家に初めて入った。

 ケーキを食べた後に、私は初めてを差し出したのだった。


「これ私犯罪者じゃないかな?」


 マキは冗談半分で聞いてきた。

ピロートークである。


「ただお互いに好きなカップルだから大丈夫だよ」


 まだ私にはウィットに飛んだジョークが言えるだけの場数を踏んでいない。


 マキは笑いながら、


「アッキーは真面目やね!」


 二人の薬指にはめられたリングが煌めいた絶頂期であったのだった。


 私は中学時代不真面目な生徒であったが、

マキと付き合ってから真面目に授業を受けるようになる。


 早く自立がしたかった。

つまり、マキと結婚したかったのだ


 モノクロの人生に初めて色がついた気分である。


 しかし、楽しい時は長くは続かなかった。

あまりデートができなくなったのだ。


 マキの休日は月曜日、私の休日は日曜日と、休みがなかなか噛み合わないのだ。


 私は正直、マキへの愛が強過ぎたのである。


 何で、私はこんなにも愛しているのに...

気持ちは空回りしていく。


 遂には締め付けられる様な心の痛みを感じながら、別れを告げた。


 あれからもう約二十年...

私はその後沢山の女性と付き合うが、マキに叶う人は現れなかった...それは十五年付き合った元カノでもである。


 愛の重さは期間ではなく、中身だと思う。


 月明かりに照らされた、二十年前の愛の結晶は、今もまだ輝き続けていた。










 私は一度離婚を経験した女である。

娘の為にも安定した生活を送らなければならない。


 前の旦那とはソリが合わずに離婚訴訟は泥沼だった。


 ーー人生嫌になってくる。

そんな中でのアッキーからのデートの誘い...


 アッキーはまだ高校生! 私とアッキーでは住む世界が違う。


 だけど、デートをしてみて、凄く可愛いかった。純粋な汚れのないアッキーが眩しい。


 私色に染めてみたい。どこかそんな感情が湧いてくる。私は母性本能が強い方だと思う。そんな私のハートを鷲掴みにしてくる。


 これが若さというものか...

だけど、本当に私で大丈夫なのだろうか?


 彼の人生を考えると、私は深入りし過ぎるのが怖かった...せめてアッキーが後五年、年が上なら...


 クリスマスにくれたティファニーのリングまだ棚に飾ってあるよ!!


 私とアッキーの愛の証は今も輝いている。

結婚とは価値観とタイミングである。


 でもたとえ結婚しなくても忘れられない恋もある。アッキーはその一人であった。

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