仕事先が知り合いだなんて聞いてない

あぎま

第1話 こうなるなんて聞いてない


 「ファルカス様も物好きだよな。ドールが欲しいだなんて」


近衛兵が二人、ケラケラと笑いながらそんな話をし始めた。


「あれって、何でも言うこと聞くんだろ?自分好みに選択できるんだよな」

「じゃあ、あの地味な感じはファルカス様の好みってか!?」

「ははっ!そうだろ!」


俺はこんなドールがいいだとか、自分の欲望ばかりをさらけ出していった二人は満足したのか、仕事へと戻っていった。そんな二人がいったあと、またもや二人分のため息が廊下に響く。


 「悪かったわね!地味で!」


我慢ができなくなり、思わず大声をあげる。


「別に俺の好みじゃねーし。こんなブサイク」


ファルカスは眉を寄せながら、ぶつくさと不満を漏らし始めた。私だって、好きでこういう風になったわけではないし、学生という本業があるのだ。


「大体、ドールがお前だなんて聞いてねーぞコラ」


頬を横に引っ張られ、思わず顔を歪める。

 あぁ、あんな馬鹿な話に乗らなければ、私も自由に暮らせていたのに…!


◇◇◇


 私がドールになる前のこと。私は料理屋を営む両親と幸せに暮らしていた。その料理屋は貴族や王族がお忍びで訪れるちょっといいお店。雰囲気が大人チックで、人気が高かった。私もいつからかその店の看板娘としてお手伝いするようになった。

 そして、十五歳になり、学園に入学することとなった。この国は識字率が高く、平民でも学校に通う義務があった。加えて、特殊な能力を持つ人間は別の学園に通うことになっていた。私はある能力を持っていたため、その学園に入学することが決まっていた。

 その学園に入学する三日前、ローブを纏った人物が来店した。ローブなんてよく見かけるため、然程気には留めなかったものの、やけにそわそわしていて、明らかに不審者だったので声をかけた。


「あの、どうかされました?」

「あ、えっ、……まぁ、ちょっと」


声がうわずっているが、少し低めの声だったので、男だと判断した。


「……そうですか。ご注文はお決まりですか?」

「特には…。おすすめは…」

「アップルパイとかはどうでしょう?ちょうど小腹が空いてきませんか?」

「……そうですね。それにします…」


オーダーを父さんに伝え、彼が不審な動きをしないか見張る。ちょうど、落ち着いてきていたので、休憩を貰えたのだ。

 彼は羊皮紙に何かを書きなぐっていた。正直いって怖いが、人それぞれだ。特には触れない。


「サリー、アップルパイ出来たぞ」


父さんにアップルパイを渡され、彼の元へ運ぶ。


「あ、…ありがとうございます…」


一切顔を見せない彼。貴族は大変だななんて、暢気に考えていると、ひしと腕を掴まれた。


「えっ」

「座ってもらえませんか?」


店内を見回し、客が他に居なかったので、彼の前に腰を下ろした。


「あの…」

「お金、ほしくないですか。ドール、興味ないですか?」


突然、熱の籠った声で話し始める彼。当時、ドールというのが分からなかった私は説明を促した。


「ドールとは人形の召し使いです。操りの力等を組み合わせて作るんですが、なにぶん手間がかかりまして…。そこで、あなたに疑似ドールをしてほしいんです。勿論、正体がバレなければ大丈夫!」

「でも、私学園に入学するんですが…」


お金は欲しいが、人を騙しての職業だなんて──。




「一日あたり一万円なんてどうでしょう?」

「話を詳しく」


やはり、お金はすごい。



 そして、あれよあれよという間に私はグリスリー侯爵家嫡男、ファルカス・グリスリーのもとへ送られた。父さん、母さん、二人の予想は的中したよ。目があった瞬間バレたもの。

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仕事先が知り合いだなんて聞いてない あぎま @agimamakki

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