元・王国最強の英雄と彼を慕って師事する冒険者たちとの何気ない日常を描く

 周辺各国の侵略を押し止める最強の兵団『火龍魔法兵団』の長として、これまで懸命に王国に尽くしてきたハーフエルフの主人公が、あらぬ疑いをかけられて追放されるところから物語は始まる。

 追放した主人公を仕留めようと、彼のもとへ刺客を送り込む貴族たち。しかも主人公は魔法のほとんどを使用できなくなる装備解除不可の指輪まではめられてしまっていた。襲い来る刺客たち。さらには、隕石と見間違う規模の火の魔法が迫りくる。圧倒的窮地の中、それでも主人公は悠然としていて…。



 三人称で進む物語。描かれるのは最強のハーフエルフと、彼が偶然見つけた弟子(冒険者)たちとの成長と冒険の日々でした。

 主人公のおおらかな性格のおかげでしょうか。追放モノにしては物語全体の雰囲気が軽く、タイトルにも「隠居」とあるようにお話の内容も日常よりのものが多くて、個人的にはとても読みやすかったです。

 また、力を制限されているとはいえ主人公が圧倒的な力を持っているため、話がトントンと進んでいった印象です。ちょっとした窮地であっても「この主人公ならなんとかしてくれそう!」と、自然と期待してしまっている自分がいて、実際にそうなった時には「やっぱり!」とこぶしを握っていました。この主人公への安心感というのも、私が感じた読みやすさの一因なのかなと思います。

 そんな、読みやすさの中で描かれるのは、主人公の力に憧れ、師事することに決めた冒険者の男女4人との何気ない日々。

 教え諭して、獲物を狩って、マッサージをして。探索をして、白狼の子供をもふもふして、マッサージをして、釣りをして、マッサージをして…。

 修行でもあるため、決して、騒がしいとは言えない平凡な日々。なのに、何故かいつまでも見ていられるんですよね。個人的には、キャラたちが程良いのかなと感じました。濃すぎず、かと言って没個性でもない。ささやかな日々の中でそれぞれの特徴を活かしながら、少しずつ前に進んでいく。

 そんなお弟子さんたちを温かい目で見守る…。いつの間にか彼らを育てるアレンと同じ気持ちになってしまっていて、親目線で物語を見ていました。だから、ホランドたちが次のシーンではどのような成長を見せてくれるのか。そんなワクワク感とともにページをめくるのがとても楽しかったです。

 本レビュー時点(25、6話)では見られませんが、タグから察するに、ざまぁ要素も出てくるのだと思います。とは言っても現状の雰囲気から察するに、陰湿なものだったり、スッキリ! というわけでもなく、「まぁそうなるわなぁ〜」なんて思いながら、ゆるっと受け入れてしまいそうです。

 戦闘、ちょっとした冒険、日常。その全てをゆるっと、ほわっと見ていられる、最強エルフの隠居生活。彼と、彼が手塩にかけて育てることになる冒険者たちとのささやかな日々。読めば間違いなく親心を知ることになる、そんな素敵な作品です。

 日々の疲れた生活にこれ一作、そんな気持ちで手にとって欲しい、異世界ファンタジーでした!

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