赤き龍の英雄物語 追放された英雄さんが隠居生活始めました

太陽

第1話 始まり。

 ベルギクード歴937年春。


 ビュリーク大陸という大陸に無数に存在する国の中でサンチェスト王国という特に長所のない平凡な国家があった。


 また、その王国の国境を接している国の一つにバルベス帝国という大国が存在していた。


 バルベス帝国はサンチェスト王国の国土で言うならば三倍は軽くあり、軍事の規模も三倍はあった。


 王国は毎年のように国境を侵されていた。


 しかし、帝国は十年もの間、サンチェスト王国を落とすことが出来ずにいた。


 その理由……それはサンチェスト王国に他国まで知れ渡る、最強の魔法兵団あったからである。


 その名は火龍魔法兵団。


 火龍魔法兵団は百人ほどの集団でありながら、苛烈且つ劣勢の戦場で独立遊軍として縦横無尽の活躍し、数多の輝かしい功績を残していた。


 他国の軍が火龍魔法兵団の名を聞くだけで指揮官級の軍人は緊張で震えあがり、額に冷たい汗を流させた。


 そして、兵士達の間では不安の声が漏れ出し、逃亡者が多数出るほどであった。


 他国の軍の共通認識は火龍魔法兵団には近づくなというものだった。


 火龍魔法兵団は自国……サンチェスト王国の国民から信頼は厚く……英雄の集団と言われるほどであった。


 百人の火龍魔法兵団は一人一人が一線級の実力者であるのだが、さらに三人の副長が脅威だと伝わっている。


 ホーテ・ファン・オベール。


 兵団内でも抜きにでた槍の名手であり。


 更に槍の刃先に魔法で炎や風と言った属性魔法を付与して敵の大軍を突き通す。


 アリソン・ボレートル。


 千の魔法を操るとされて。


 もちろん、攻撃に出ることも可能だが。


 彼女は敵の大軍の攻撃から仲間の盾となる千を超えるゴーレムを作りだし攻撃を受め。更に負傷した者には魔法で傷を癒す。


 ラーセット・シュタイン。


 元盗賊としての知識から魔法による罠の作成や諜報に長けていて、進軍中の敵の大軍を瓦解させる。


 強いて副長である彼らの欠点を上げるとしたら、癖が強すぎるという点だろうか。


 その癖の強い彼らを従わせているのが、兵団を一から作り上げた団長であるアレン・シェパードという男であった。


 彼が長命と言われるエルフ族と人間の血が交じるハーフエルフであることは良く知られている。


 耳は尖がっていないがエルフの特徴である白銀色の髪で、四十代後半ながら十代半ばの少年にしか見えない外見をしていた。


 彼の実力に関してだが……副長達の実力は広く伝わっている反面、知る者は少ない。


 よって、なぜ彼が団長の座に座っているのか、なぜ高い実力を持つ副長達が彼の命令に従っているのか、謎に思っている者は少なくない。


 それでも、アレンは紛れもなく国民達が英雄の集団と崇められる火龍魔法兵団で団長を務めていた。


 ただ、その日はどこか様子が違っているようだ。



 ここはサンチェスト王国の東の国門と呼ばれるベナデース壁へと続く一本道。その道を一台の馬車が走っていた。


 馬車の荷台の中には麻袋を顔に被せられて両手両足に錠を嵌められた男性。


 その男性を金色の鎧を纏った男性一人と鋼色の鎧を身に纏った男性六人が取り囲んで座っていた。


「ルバーガ様。コイツが……国外に防衛情報を流していたんですか?」


 鋼色の鎧を身に纏った男性の一人である茶髪坊主頭の男性が金色の鎧を纏った男性……ルバーガに視線を向けて問いかけた。


 その問いかけに対してルバーガは頷き答える。


「あぁ、そうだ。国外に防衛情報を流して大金を得ていた。この国が毎年のように帝国や周辺諸国から侵攻を受けるのにはそう言う訳だったんだな。本来なら斬首なのだが……恩赦を得て国外追放と聞いている」


「そんな、大悪党……国賊に恩赦など……」


「……決まってしまったことだ。国王様の決定に異を唱えることはあってならんぞ」


「は、すみません。失礼しました」


「聞かなかったことにしよう」


「ありがとうございます」


「まぁ……コイツは憎っくき国賊だ。私も今回の決定に多少は思うところがある」


「で、ですよね。しかし、それでこのように物々しく移送されているのだと理解できました」


「それは良かったな。うむ、丁度、ベナデース壁についたようだ」


 ルバーガの言った通り、彼等の乗った馬車はベナデース壁にたどり着いた。


 それから、いくつかの手続きを踏んだ後、ベナデース壁の門が開けられて……馬車が門を通過して国外に出た。


 門を出てすぐのところで、馬車が止められた。そして、馬車からは足の錠を外された状態で麻袋を被った男性が鋼色の鎧の男性達によって足蹴りされて外に突き出される。


「国賊が!」


「おら! サンチェスト王国から出て行け!」


「国賊、帰って来るな!」


「醜く死ね!」


「死ね!」


「出て行け、二度とサンチェスト王国への入国を禁ずる!」


 鋼色の鎧の男性達によって麻袋を被った男性が足蹴りされて地面に倒れる様子を見ていたルバーガは小さく笑った。


 そして、麻袋を被った男性に近づき不敵な笑みを浮かべて見下ろし、小さく呟く。


「クク、ハーフエルフの分際で英雄とか呼ばれていた……アレン、お前には相応しいぜ」


 ルバーガは麻袋を被った男性……アレンの被っていた麻袋をはぎ取った。


 アレンは十代半ばに見える。


 少しタレ目ながら整った顔立ち。


 今はまだ幼さが残っていて可愛らしさが勝っているが……後五年もしたら、多くの女性が振り向くほどのイケメンとなっているだろう。


 癖のある白銀の髪が輝いて見えるほどに綺麗で美しかった。


 身長は百五十センチ前後で、細身ながら軽装から覗く肉体は鍛え抜かれた筋肉がついているように見えた。


「……」


「ふん」


 突然麻袋が外されたアレンはポカンとした様子で何も言わなかった。その様子をみたルバーガは一度鼻を鳴らして手錠を外した。


 そして、ルバーガと鋼色の鎧の男性達はすぐに馬車へと戻って門の中へ引っ込んでしまった。


 アレンは去っていく馬車を見送りながら、ゆっくり口を開いた。


「……手錠が外れて、ようやく耳と口が使えるようになったのか」


 手錠の痕が残った手首をさすりながらアレンは辺りを見回した。


 そして、戸惑った様子で首を捻った。


「ここはベナデース壁……だよな? なんなんだ? なんで、こんなところに?」


 そう……たった今国外追放されてしまったアレン。


 彼こそがサンチェスト王国国民から絶大な信頼を得て英雄扱いされている火龍魔法兵団の団長アレン・シェパードその人であった。


 彼がなぜこのようなことになったのか? それは四日前に遡る。



私の小説を読んで頂きありがとうございます😊それで…もし…もしこの小説が少しでも面白かったなら、小説フォローと★レビューを頂けると作者のやる気がググッと上がるのでどうか…どうかよろしくお願いします(*´ω`*)

作者太陽




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