第45話
「おう、お前ら。静かにしてろよ?」
「はーい」
真新しい教会の長椅子に座るガキどもに注意を促す。
気持ちはわかる。お祈りなんて、とこいつらが考えるのは当たり前だ。
だが、静かにしていればすぐに飯にありつけるのだから、少しばかりの我慢は必要だろう。
「セイラ、いいですか?」
「はじめてくれ」
ガキどもが騒ぎ出さぬよう、同じ長椅子に座る。
「それでは、朝のお祈りを始めましょう。終わったら食事がありますので、少し静かにしてくださいね?」
茶目っ気たっぷりに笑うのは、腰に白い鞘の得物をぶら下げる司祭だ。
聖職者に復帰しても刃物を離さないなんて大丈夫なのか……と、一度聞いてみたが「これは聖遺物で形見で愛する人の贈り物なのでセーフです」と笑顔で言われた。
まぁ、元スラムのここじゃ得物をぶら下げてる方が様になるっちゃなるが。
エルムスの朝の祈りを聞きながら、アタシは毎朝ここに至るまでの事を思い出す。
あの戦いが終わってもう3年。ここ……スラムは大きく様変わりした。
大量の支援と金が投入され、あらゆる生活基盤が整備された。
住居、学校、商店、医者……そして、仕事もだ。
これは、アタシ達と王国、それにマーニー教会の思惑やらなんやらが一致した結果である。
というのも、ここの改革が
そいつはアルフィンドール家なんていう特別な家柄出身で、最悪なことにこの国の王子だった。
アルフィンドールは『王位継承権を持たない王子が名乗る家名』であり、一般には知らされていない。道理で聞いたことがないはずだ。
本人は、どこ吹く風といった様子だが、あの野郎。
アタシ以外にも国を背負ってたわけだ。
……ちょっと浮気された気分だったが、ベッドの中で何度も優先順位を確かめ合ったので、もういい。
それでもって、この辺りは聖女特区なんて呼ばれる特別な一帯になった。
今回の事を受けて、国王はエルムスに王位継承権を授けるとしたが、あいつ、それを蹴りやがった。
その代わりに、この元スラム一帯の自治権を得たってわけだ。
ここは、王都の中にありながら『アルフィンドール領』っていう訳の分からないことになっている。
「……では、朝の礼拝を終わります。みなさん、食堂に食事を用意しておりますのでどうぞ」
しびれを切らした子供たちが駆けこんでいく。
騒がしいことだ。
「セイラ、どうしましたか?」
「いや、ちょっと考えことをしてただけさ」
「またですか? 夢かどうか確かめます?」
かがんだエルムスが据わったままのアタシに唇を重ねる。
「あ! 領主様とセイラねーちゃんがちゅーしてる!」
「おっと。バレてしまいました」
苦笑するエルムスに、いつもの事だと笑う礼賛者たちと、騒ぎ立てるガキども。
なんとまぁ、幸せな光景だこと。
アタシの望んだ光景が、ここにある。
「馬鹿やってないで行くよ。飯だ飯!」
エルムスに抱き着いて立ち上がり、エルムスとガキを食堂に引っ張っていく。
当たり前の幸せがそこにいつまでもあることを知らせるために。
人の心を知らぬ神に届けるために。
そう、それこそが『祈り』なのだから。
Fin
聖女セイラはビームで全てを焼き尽くす。~神よ、これが『愛』だ~ 右薙 光介@ラノベ作家 @Yazma
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