第44話

 巨大な閃光ビームが、一瞬たじろいだ魔王の巨体に直撃する。

 火柱と複数の爆発音が周囲を光で包みこみ、一瞬の静寂が訪れた。


「クハハハ……これでは、我を倒せぬ……! ぬかったな、聖女よ」

「はん、頭の悪いやつだね」


 これで仕留められるなんて、思っちゃいないよ。

 ただの目くらましさ。


 だいたい、魔王をぶっ殺すのは聖女アタシの仕事じゃない。

 適役が、ほら目の前にいるだろう?


「三流以下ですよ、あなた」

「は……?」


 油断した魔王のド真ん前に、エルムスがいた。

 すでにその手はあのほそっこい剣の柄にかけられている。


「──徒花と散れ」


 アタシも含めて、戦場の誰もがそれを見たが、何も見えやしなかった。

 ただ、剣を鞘に収める鍔なりの音と、現象としてのそれを目にした。


「は……? なん……だ……と?」


 ずるり、と魔王の身体が袈裟懸けにずれていく。

 その表情は、竜のツラをしているのに意外に豊かで、驚きと恐怖がありありと浮かんでいた。


「では、聖滅のお時間ですよ、セイラ」

「おうよ」


 振り返るエルムスに笑って返す。


「このような、このような……! 一体なんだというのだァ!」

「『愛』だよ」


 激昂したように吠える魔王に、にやりと笑って見せる。

 わかりゃしないさ、アタシだってついさっきまでわからなかった。

 ましてや、魔王にそれがわかってたまるものか。


 光輪を回して、魔王を見据える。


聖女限界突破リアクターオーバードライブ。神敵捕捉。滅殺シークエンス開始。天輪加速。収束率100……120……150……210……300%……』


「これで、終わりだぁぁぁッ!!」

「待て、待っ──……」


 拳を突き出し、殴るようにして閃光ビームを放つ。

 脆くなった魔王の身体の奥底まで突き刺さったそれは、その全てを隅々まで焼き尽くし、火柱と光の中へと消し去った。

 後に残ったのは、天に散り行く光の残渣と焼かれた戦場のみ。


「おわりましたね」

「あっさり言うなよ。大変だったんだぞ」


 力と気が抜けて、へたり込む。

 もうあの声は聞こえないし、光輪も溶けるようになくなってしまった。

 だが、達成感がある。つまり……アタシの役目は本当に終わったということだろう。


「お疲れさまでした、セイラ」


 アタシを抱え上げて、エルムスが歩き出す。


「わっ、ちょっと」

「聖女様の凱旋です。摑まっていてください」

「歩く、歩けるって!」


 暴れようにも力の入らないアタシは、エルムスに抱きかかえられたまま戦場を縦断する。

 膝をついて道をつくる騎士と傭兵たちが、まるでむさくるしい花道の様に思えて、思わず吹き出しそうだった。

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