第六話 忘れられない夢がみられたから
「中村先輩」
「うん……」
階段に座り込んでしまったわたしをみんなが囲んでくれた。
「頑張ったじゃん。もう声出ないでしょ?」
本当にそうだ。うまく話が出来ないほど、わたしの声はもう潰れてしまっていた。
最後の打球、飛距離は充分だった。
でも勝負の神さまはわたしたちに微笑んではくれなかった。
フェンスに駆け上ったセンターのグラブの中に白球は収まってしまった。
甲子園での成績は、一打席・センターへの外野フライ。
それと同時に試合終了。
亮平が一、二塁間で座り込んでしまったのと、わたしが崩れ落ちたのは同時だった。
「中村さん、先に出ていて。片づけは他の子たちでやっておくから。急いでここに行ってらっしゃい」
顧問の先生が、わたしに一枚のメモを渡してくれた。
選手専用の出入口が書いてある。
「でも片付けが……」
「そんなの誰でも出来る。中村さんは中村さんにしか出来ないことをやってらっしゃい。もう次はないんだから……」
先生は黙って頷いてくれた。
「失礼します!」
そこに走ると、ちょうど野球部の選手たちが出て来るところだった。
「遠藤、ほら。お前専属の
気がついた野球部のチームメイトが、亮平をわたしのところに連れてきてくれた。
「光代……ごめんな……」
「ううん。おつかれさま……」
うなだれた亮平と声が枯れて出ないわたし。
わたしたちが交わせた言葉はこれだけ。でも、これで十分だったよ。
わたしは最高の夏、最高の夢を見せてもらえたんだもの。
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