第五話 舞台に立った幼なじみ
亮平たちの試合は、大会初日の第二試合。
他の生徒は入れなかったけれど、わたしたちチアリーディング部は外野スタンドで開会式を見ることが出来た。
やっぱり広い。テレビで見ているのとは違う。ここが目指してきた舞台なんだ。
でも、こんなに広いと声が届けられないかもしれない。
開会式の入場行進、やっぱり表情が硬いな。仕方ないよね。初めての大舞台なんだし。
あそこに並んでいる選手たちの中にお隣の幼馴染みがいる。もうそれだけでもこみ上げてしまいそう。
そう、亮平があそこにいるのは、わたしをこの場所に連れてきてくれるため。
だから、わたしは精一杯に声を上げればいいんだ……。
試合はなかなか動かなかった。
お互いに守りのチームだから、それほど多くの点差はつかない。一、二点の勝負になるだろう。どちらかミスをした方が負けてしまう。そんな緊張した試合になった。
七回、
バント二回でツーアウト
スクイズもタッチアップもない。でも外野に抜けたら点が入る。
そんなとき、タイムがかかった。
背番号18番、亮平がマウンドに伝令で向かう。
ピッチャーは二年生の後輩だもの。こういう間合いが大事なんだと、これまでの二年間の試合を見てきて覚えている。
それに、こんな時でも亮平は笑顔だった。後輩の肩をたたいて、力を抜けと言っているのが分かった。
いつも緊張してしまうわたしを、ふざけるように笑わせてくれた亮平。そうやってわたしを落ちつかせてくれていたんだ。
そう、そんな亮平にわたしは支えられていたんだもの。
結果的に、次の打球が三遊間を抜けてしまい、一点を失った。
残りは三回。一点は野球にとって決して大きな得点差じゃない。でも、それがとてつもなく遠い一点になるときもある。
そのまま回は進んで、九回裏の攻撃。
六番からの下位打順だったけど、代打攻勢が効いて、初球のヒット、バントで進めて、二塁。そして、もう一人が犠打で進塁。
でもアウトカウントはすでに二つ。
『ここで選手の交代を申し上げます。九番、小松くんに代わりまして、九番、遠藤くん。背番号、十八』
祈るように目をつぶっていたわたしの顔がパッと上がった。
どのみちこれが最終回。監督としても、全部使い切るつもりなのかもしれない。
わたしにとって、その瞬間は本当に夢のような時間だった。
子どもの時に見ていた、あのテレビのシーン。バッターのアップと、スタンドの応援団のアップ。
テレビカメラが、わたしの顔を撮っているのが分かる。だって、幼馴染みがいまバッターボックスにいるんだよ。あれだけ公言していたんだ。きっとそのエピソードも流れているに違いない。
恥ずかしい話じゃない。亮平もわたしも
空振り、ボール、見送り、ボール。
一球ごとに球場全体の空気が揺れるのを肌で感じる。
そう、ここで長打が出れば同点からサヨナラまでいろんなケースが考えられるから、目を離してなんかいられない。
五球目、ピッチャーが腕を振る。
亮平は動かない。
『ボール』
異常なほどのどよめきと皆が息を吐くのが分かる。フルカウント。
あの状態で手を出さない。追い込まれたこの状況で物凄い精神力だと思う。コースだってたぶんギリギリなんだろう。
亮平が手を上げてバッターボックスを外した。
一度間合いをとりたいんだろう。
「亮平っ!!」
その瞬間、思わずありったけの声で叫んだ。
もちろん、球場全体の大歓声の中で届くはずがないと思っていた。
でも、彼はわたしを見つけてくれていた。わたしの方を向いている。
きっと、わたしにだけ頷いてくれたと思った。
再びバッティングスタイルに戻る。
一球、ファール!
さらに一球! ファール! 打ち上げたボールがアルプスまで飛んでくる。
大丈夫、タイミングあってる。
三球目、金属バットの鋭い音が響いて、大歓声が沸き上がった…………。
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