第3話 シャトルわらし

最近、夜中に枕元で子供の足音がする。気がする。

閉めたはずの戸が開いているし、入れておいたお菓子が減っている。気がする。

廊下の向こうで子供の遊ぶ声が聞こえて、見に行くと誰もいない。そもそもこの船に子供はいない。

長い航宙で神経が参っているのだろうか。

という話を主治医に(通信で)したところ、安定剤の処方とともに、念のためということで坊さんを紹介された。

前述のようなことがあって、と坊さんに(通信で)話したところ、

『それはシャトルわらしだ』と言われた。

「シャトルわらし?」

その昔、みな地上に住んでいたころのことだが、座敷童という妖怪がいた。

座敷童は商家の奥座敷に住み、姿は見えないが気配だけがし、まれに子供は一緒に遊んだりしたものだという。

『お前さんの家はそのシャトルだし、星間行商人なわけだから、そこも商家と言えなくもない』

うんうん、と自分の説にうなずく坊さん。

「お祓いした方がいいですか?」

『いやいや、座敷童はお祓いするようなもんではない。座敷童がいる間、家は栄えるという』

「じゃあ、何にもしなくていいんですね」

『うむ。ただし、その家の住人が心正しくない行いをしたり、あこぎな商売をしたりすると……』

「すると?」

『座敷童は家から去っていくという』

脳裏にちらりと、さっきの港で仕入れたコンテナがよぎる。

「去るとどうなるんです?」

『去るとだな……』

その時、坊さんの映るモニター越し、真空の星空を映す窓の端に、赤い着物を着た子供の手が見えた。気がした。

ぷすん。どこかでエンストしたような音が響く。

『どうかしたかね?』

坊さんの声をぼんやりと聞きながら、私は星の海を遠ざかっていくおかっぱの後ろ姿を見送った。


(了)

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短編集 @kakotsu

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