ガタンガタン

かねどー

ガタンガタン

突然だが、俺はもうダメかもしれない。

これを読んだ誰かが、助けてくれることを祈って書いてみる。




最近出たスマホのアプリを知っているか?友達や知らない人と部屋を作って話せるやつだ。何週間か前に、俺たちの学校でも流行り始めた。


みんなで集まって夜までバカ話をしたり、後輩を冷やかしに行ったりしたもんだ。あの日もそんな感じで集まろうとルームを立てた。2人の同級生(AとMとする)と話していたら、部屋の中に、


繧ソ繧ア繝輔Α


おかしな名前の奴がいた。


最初は知らない誰かが覗きに来ただけかと思った。それはよくあることで、たまに外国人が来たりもする。みんなそいつを無視して話して、1時間くらいしたらそのまま解散した。その間も、ずっとそいつは部屋に残っていた。




次の日はAが部屋を立てて、俺とMが入った。10分くらいすると


繧ソ繧ア繝輔Α


がまた入ってきた。


「こいつ昨日もいたな。なんなんだ?」

「クラスの誰かが、名前うまく設定できなかったんじゃないか?」

「とりあえず呼んでみるか」

 Aが、そいつをスピーカー(部屋の中で喋れる人)に招待したその時だった。



ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン 



大音量が響いた。



たまらずイヤホンの音量を最小にしたが、耳鳴りがする。まだ音が鳴っているのではないかと錯覚するほどだ。画面に目を落とすと、そいつはもうAにキックアウトされた後だった。


「なんだよ今のは!?」

「わかんねぇ!あー怖ええええ」

「すごい音だったな。誰かのイタズラかな」


その日はもう通話を続ける気になれず、解散になった。




異変が起きたのは次の日のことだ。Aが、あの音が耳から離れないというLINEをしてきた。昨晩俺たちも聞いた、工事現場のような音だ。家にいても外に出ても、ずっとあの音が遠くから小さく聞こえるらしい。Aは学校を休み、親に連れられてすぐに耳鼻科にいったが、何の異常も見つからなかった。


その日はアプリを起動しなかった。部屋が静かになると俺にもあの音が聞こえるような気がして、一日中音楽をかけながら寝たので、あまりよく眠れなかった。Aはあの音を「電車の音だ」「だんだん近づいてくる」と言っていた。




次の日は土曜日だった。Aは連絡が取れなくなった。


連絡網を頼りに家に電話したらお母さんが出た。Aの容態を訪ねようとしたのだが、半狂乱で「なんでうちの子が」「あんた達のせいで」等とがなりたてられて全く話が通じない。怖くなって電話を切ってしまった。


母親の金切り声で耳がキンキンする。耳に意識を向けると、あの音が聞こえてくるような錯覚がある。そんな時にLINEの着信音がなった。Mから通話だ。


「〇〇か?(俺の名前だ)Aはどうだった?」

「……お母さんが出たけど、教えてくれなかった。どうした?」

「水曜日と木曜日に来た奴、名前が文字化けしてただろ?文字化けなら復元できるんじゃないかと思って、やってみたんだ。スクリーンショットで撮ったやつを、手書き入力で再現して、ネットで文字化けを戻すサイトに入れてみた」

「すごいな。できたのか?」

「ああ、できた。冷静に聞いてくれよ。……カタカナで、『タケフミ』だ」



ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン 



耳の中の音が大きくなった。これはもう錯覚ではない。驚いてスマホを放り投げてしまった。


全く人違いかもしれないが、その下の名前は聞き覚えがある。1年生の冬に死んだ同級生の名前だ。


死因については伝えられなかった。隣の県で、特急列車に轢かれて死んだという噂だけを聞いた。


そして俺は、Aと他に何人かが、当時彼をひどくいじめていたことを知っている。彼は何も話さなかったし、俺たちも何も聞けなかった。




スマホを拾うと、Mとの通話は切れていた。かわりに、通知画面にはあのアプリからこんな通知が届いていた。


繧ソ繧ア繝輔Α pinged you: You should join this room. I am talking with 繧「繧ュ繧ェ,繝槭し繝ォ, about “お前たちを絶対に許さない全員…


(繧ソ繧ア繝輔Αが、あなたに連絡しています!「このルームに来てください。私は繧「繧ュ繧ェ、繝槭し繝ォと話しています。内容は……)




それが今さっきのことだ。通知は今も繰り返し届いている。


なぁ。俺はどうやったら助かる?

耳の中で電車の音とか、風の音とか、ハエの羽音みたいなのが鳴りやまなくて、おかしくなりそうなんだ。

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ガタンガタン かねどー @kanedo

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