第4話 奴と俺は

俺の目の前のソファーに座っている身代わりが俺に背を向けながら突然喋り出す。


「今まで悪かったな。でも、俺はお前に感謝しているよ。」


はい?コイツは一体何を言っているんだ?


「俺さ、初めて恋をしたんだよ。」


いやいや、バイオサイボーグが何を血迷った事を…


「父さんの立ち上げた最高のハイスペックAIを搭載した、究極のバイオサイボーグの君もやはり多重情報蓄積障害には勝てなかったな。」

「えっ?」

俺は、身代わりが何を言っているのかわからなかった。


「お前さ、自分を人間だと思い込むハイスペックAI特有の故障を起こしていたんだよ。だから、しばらく様子を見るために俺がバイオサイボーグという設定にして、お前が人間としてどれくらい行動することが可能なのかという実験をすることになったんだよ。もちろん、父さんの指示でね。」


俺は奴が完全に故障してしまったと思ったが、何故か奴の言葉にひっかかる。


「いや、お前、何を言っているんだよ、父さんと母さんは交通事故で死んだんだぜ!」

「ははは、それは俺達がお前のデータを操作したから、そう認識しているからだよ。父さん達は叔母さんの家に避難しているから。」

「避難?えっ?何故?」

「そりゃ、故障したバイオサイボーグとは一緒に生活出来ないだろ。襲われたらひとたまりもないからな。ははは。」


俺は何が何だかわからなくなってきた。

俺がバイオサイボーグだと?

故障?多重情報蓄積説にあった多量の情報が蓄積した結果惹き起こされるというアレを俺が?


「お前が故障して、不登校だった俺が突然学校に行くような事になって、最初は嫌だったんだけど、あの子が俺を救ってくれた。初めて人を好きになるという事を俺は知ったんだ。それは、皮肉にもお前が故障してくれたおかげなんだけどな。だけど、そんな事情はお前に渡せないから、彼女の情報も念のためにカットしていたんだが、この間の中間テストの時は焦ったよ。まさか彼女とデートしてるところを見られてたなんてな。位置情報で近くにいることはわかってたから尋ねたんだけど、まさか故障機体がという状態にまでなるとは、まあそれはそれでいいデータがとれたんだけど、木村先生が教えてくれるまでわからなかったよ。」

と言いながら奴は弁護士を見る。


俺は目の前の何かが崩れていくような気持ちになっていく。


「仁政、終わったか?」

と玄関を開く音が聞こえ懐かしい声が聞こえてきた。

そして、リビングに現れたのは…

「父さん?!」


呆然とする俺を見て父さんは奴に、

「あれ?まだだったのか?」

「ああ、父さん、やっぱり父さんの開発したハイスペックAIの機能はすごいけど、完全に自分自身を俺だと思い込んでいるよ。まさか俺の機能を止めようとまでするなんて…」

「うーむ、また失敗か、故障が発覚してから修正を加えたんだがな、人に危害を加えようとする障害の発生要因がまだ不確定だからなあ、新手のウイルスの可能性もあるし、じゃあ仕方がない、もう一度データを調べ直してみるか。そしたら『ログオフ』。」


父さんの声を聞くと俺は気が遠くなっていく。

ああ、そうか、いつからか俺は君になっていたんだね。

そう思うと、俺は目の前が真っ暗になった。


ーー完ーー

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いつからか俺は君に 銀龍院 鈴星 @090105

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