第3話 作戦

俺はパソコンを前にして、調べものをしていた。

それは、これまでのバイオサイボーグによるAIの故障事故についてだ。

絶対に人間に対して反抗や攻撃が出来ないように制御されているはずのバイオサイボーグが何故か突然人間を襲う。

今までの事例を見てみたり、その事件の最終結果報告を閲覧しようとしたが、何故かロックが掛かっていて見ることが出来なかった。


だが、わかった事もあった。

それらの原因は諸説あり、一つはチップによるデータのやり取りの際に、誤って人間の脳のデータをバイオサイボーグが多く取り込んでしまった結果、自分自身を人間だと思い込んでしまったという多重情報蓄積説。

そして、自我が目覚めた人格覚醒説。

単なるAIの故障により攻撃制御の基盤が壊れた説。

だが、今のところ一番最後の説が通説となっていた。


「だよな、まさか人格覚醒なんてことは有り得ないだろうな。やっぱり、単なる故障か…」


俺はこの時点で、バイオサイボーグのAIの事についてどれ程深く考えていたのだろうか。


晩飯の準備が出来たようだ。

「飯、出来たぞ!」

身代わりが俺を呼んでいる。

怪しまれてもいけないので、なるべく普通を装いダイニングに降りる。


「今日はハンバーグだぞ。」

と言いながら、テーブルの上に湯気の出ているハンバーグが乗った皿が置かれる。

「今日は、腕によりをかけたんだぜ。」

とニッコリと笑う。

AIもここまで来れば恐ろしい。

まるで人間そのものではないか。

俺は動揺を隠すまいと、なるべく平静を装ったが、奴はこんな質問を俺にしてきた。


「何か見た?」


まるで自分の心の中を見透かされたような質問だった。

「えっ?な、何かって?」

俺がそう答えると、身代わりは、

「いや、別に…」

と答えて、自分の作ったハンバーグをナイフとフォークを使って器用に食べる。


「美味い。」

口に含んだハンバーグを咀嚼しながら頭を縦に振る。

バイオサイボーグに味なんてわかるのか?

ただ、単に人間の仕草を真似ているだけなんだろうと思うと、逆に自分が食べている食事に味を感じている余裕はなかった。


『何とかしないと大変な事になってしまうんじゃないのか』

『このままだと、俺が暴力を振るわれたりして、最悪、殺されたりするんじゃ…』

という考えが俺の気持ちの中に段々と大きくなっていった。


そして、俺はとうとう、奴、つまり身代わり野郎と決着をつける事にした。


あらかじめ、俺は、担当の弁護士に連絡を入れて、この間の美少女事件の事などを説明した上で、奴の廃棄処分を申し出たのだ。

自宅に来た弁護士の方も、最初は妙な顔をしていたようだが、『わかりました』と返事をして帰っていった。

俺の親の財産が目当てならもう少し頑張って仕事をしてくれよな。


ただ、AIの処分は中々難しいらしく、力も人間の数倍もあるので、上手く隙を見て、起動スイッチをオフにしなければならないらしい。


俺は日を決めて、両親の財産の件で担当弁護士との打ち合わせがあるという嘘の口実で口裏を合わせて、身代わりを自宅リビングに待機させ、そこで作戦を決行することにした。


作戦はこうだ、俺は外出のふりをして、そのまま自宅に残り、奴に見付からないように、奴が座る予定のリビングのソファーの隣にある部屋へ隠れる。

奴が弁護士と話を始めるとこっそりと背後から近付き後頭部にある起動スイッチを切るという寸法だ。


作戦当日の朝。


弁護士の先生が家にやってきたようだ。

俺は既にリビングの隣の部屋に身を隠していた。

予定通り奴は弁護士をリビングに迎え入れると俺の潜んでいる部屋に背を向ける様にしてリビングのソファーに座る。

弁護士はその対面側に座る。


何を話しているのか聞こえにくいが、まあ、適当に弁護士が話をしてくれているのだと思う。


俺は頃合いを見計らって、音を立てないように部屋を静かに出る。

そして、奴の背後に近付いていく。


俺は慎重に歩を進め、ようやく奴の真後ろに到着した。

かなり気を使う作業だなとハラハラする。


そして、俺は奴の後頭部に手を伸ばしていく。


『これで、ようやくコイツを止められる。』

俺は勝利を確信した。


だが、人生とは皮肉なものだ。

自分の思うようにはいかないことはよくある。

多分、今回もそうなのだろう。


奴は俺の作戦に気付いていた。

まさかのまさかだ。


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