第2話 背信行為

俺は朝食を食べながら、テレビのニュースを見ていたが、興味をそそるニュースもなく、漫然とテレビの画面を見ていた。


「また、サイボーグの故障事案か…」

俺がそう言ったのは、ニュースでバイオサイボーグのAIが故障したのか人間に暴力を振るう事案が発生したというものだった。

まあ、それ以外には特に気を引くニュースもなく、俺はテレビのスイッチを切ると、自分の部屋に戻った。


夕方になって俺のが帰ってきた。

バイオサイボーグの耳の横にあるスロットから小さなカード型のチップを取り出し、自分の体に取り付けてあるスロットに差し込む。


本日の授業内容が自分の脳内に強制記憶される。

忘れたくない時はこれが良い。

だが俺はこの時、特に違和感を感じることなくからチップのデータを受け取っていた。


俺は都内の高校に通っていて、現在の学年は2年だ。

そろそろというか、他の奴等は志望校探しに奔走しているが、俺はバイオサイボーグと強制記憶のお陰で、成績も上位で多分無理なく志望校に合格は出来るだろう。

まあ、大学の進学には、ある程度の実力を発揮しておいて志望校には内申書でアピールをしなければならず、また、そのための中間や期末の試験の時は、身代わりによる受験は認められてはいないので、登校を義務付けられている。

ということで、俺は仕方なく学校へ顔を出す。


試験は中間試験であったが、問題も大したことはなく無難に解けたが、それよりも帰宅前に少し変な事があった。


「阪殿君。」

耳慣れない声に振り向くと、そこにはどう見ても俺に釣り合うようなはずもない、綺麗な女生徒が立っていた。

スラリとした体型に、大きな瞳、まるでアニメから出てきたような美少女だった。


「誰?」

思わず聞き返す。

その態度を見て取ったその女生徒は直ぐに理解したようで、

「あ、ああ、そうか、今日はサイボーグ君の方じゃないのね。じゃあ。」

そう言うと踵を返して教室から出ていった。

違うクラスの奴だろうか、変な奴だな。



「何だ?あれは。」

頭を少し傾げながら、俺はそのまま家に戻るつもりだったが久しぶりの外出でもあり、少し寄り道をしようと、最寄りの駅前の大型ショッピングモールに行った。


俺はそこで信じられないものを見る事になる。


「あ、あれは!」

それは、自分の身代わりと先程声を掛けてきた美少女が連れ立って歩いていたのだ。

それはどう見ても恋人同士としか見えない。

あの時声をかけてきて、俺を人間の方だと見抜いたあの子は、当然ながら奴を身代わりだと知って一緒に行動している。


「何だあれは、何が起きているのだ?」

俺は動揺していた。

あんな女の子が知り合いだなんで、身代わりの記憶データにはなかった。

俺は何にも例えられないような恐怖を覚え、口の中の唾をゴクリと飲む。


「アイツ、わざと彼女のデータを消して俺に引き継ぎしている。」

それは、とても考えがたい事なのだが、AIが自我を持って行動しているとしか思えなかったからだ。

バイオサイボーグのAIは、誰かに唆されたとしても、自分の所有者には絶対に反抗や、不利益な行動が出来ないようになっている。

それなのに嘘とまでは言わないが、明らかにデータの一部を消しているのだ。

それが今、自分の目の前に見えている人間の女性に関する情報なのだ。

全く、俺は彼女の事を知らない。

学校の生徒であれば、仲良くしているのであれば、自分に対しては報告、いや情報の提供義務がある。


それが、俺の知らない所で、俺の知らない美少女と人間のように笑いながら楽しそうに話をしている。

有り得ない光景だった。


俺は、彼らに姿を見られないように直ぐに自宅に駆け戻った。


すぐに自分の部屋に入り、内側から鍵を閉める。


「何でこうなった?どうして?俺は学校の事を何も知らない…」


色々な考えが頭の中を駆け巡る。

多分、自分が学校を休んで、に登校をさせていた時にそれは起こっていたはずだ。

よく考えればすぐに答えは出ていたはずだった。

学校生活は授業だけではない。

クラスの生徒や、部活の部員達とのふれあいや付き合いが必ずある。

一緒に笑い、泣き、ケンカもすれば、飯も食う。

それなのに俺が受け取っていたデータにはそれらが全くなかった。

まるで何かに切り取られたようにスッポリとなかったのだ。

人間関係について、俺は誰と話をよくして、誰が好きで、誰が嫌いだとか…

俺は今の今まで、その違和感に全く気付いていなかったのだ。


俺が学校を休んでいる間に、奴が俺として人間関係を構築し、俺に隠して、俺の学校生活や青春をで謳歌していたのだ。



ガチャン

玄関のドアの鍵が開けられる音だ。


ギシ、ギシ、ギシ…


階段を上がってくる音だ。

そして、俺の部屋の前で音が止む。

コンコンとドアがノックされる。


「入るよ。」

奴のしゃべり方は俺に近付けているし、声紋も俺のモノをベースにしているので、他人が聞けばソックリらしい。


「うわあ!」

俺は内側からかけていた鍵を開けて部屋に入ってきた身代わりに驚く。


「どうしたの?」

俺の顔をした身代わりが不思議そうに俺を見て尋ねる。


「あ、あのさ、」

「何?」

俺は身代わりにあの子は誰だと聞こうとしてとどまった。

そして、別の質問をする。


「あ、いや、どこかに行ってたのか?」

「ああ、その事。買い物だよ、今晩の食事の材料を買いに駅前まで行ってた。」

と言って、手に持っていた手提げ袋を見せる。


「あ、ああ、そ、そうか。わかった。」

「試験は出来たのか?」

AIのくせに試験の事を聞いてくる。

「あ、ああ、もちろんだ。」

「そうか…」

身代わりはそう言うと部屋を出ていった。


「何なんだアイツは?!」

俺は、奴が報告の中に嘘を入れている事はなかったが、明らかに彼女と行動していた事を言わず隠していた事に対して、さらに不信感を抱いていた。







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