いつからか俺は君に

銀龍院 鈴星

第1話 身代わり君

「おい、起きろ。」

俺は、俺を起こす。


何だそれって?

みんなも経験があるだろう。

そう、誰しもが、

"誰か、自分の代わりに学校や会社に行ってくれないかな~"

って。


そう、世の中の科学は進み、AIの性能とバイオサイボーグの性能が格段に飛躍した。

自分の姿をした、そんな人造人間が自分の代わりに学校や会社に行ってくれる。


そして、その一日の活動の結果は小型のチップに記録され、帰宅したバイオサイボーグが持ち帰ってきたチップを俺たちの体の中に埋め込まれた読み取り用のスロットにセットすれば記憶の保全は可能となる。


と言うことで、俺こと阪殿仁政さかどのひとまさは自分の分身体となるバイオサイボーグを起こす。


「う、あ?ああ」

バイオサイボーグの機能再開は人間と同じ様に、体を軽く叩けば、その振動で起動を始める。

ウチの家は、他と比べるとかなり裕福だろう。

コイツは性能は抜群らしいという触れ込みだったので親に買って欲しいと頼むとアッサリと購入してもらえたのだが、どうも動きがトロい。

優秀なバイオサイボーグなら、起動を始めると直ぐに身支度を整えて自宅を出るらしいのだが、コイツはボサボサの髪の毛を手で押さえながらトーストを口に咥えている。

俺はこんなのか?と思うことが時々ある。


学校の制服に着替えると身代わりはとして家を出る。

一応、バイオ、つまり生物などのエネルギーを駆動燃料として利用していて、人間が食べている物は何でも口に入れて燃料に出来るようにはなっているので、トーストを体内に取り入れても大丈夫だし、その余りにも精巧な造りから、一点を除けば、外見からでは一見してサイボーグとわからない程だから、俺の代わりに授業に出たとしても問題はないのだが、こんな調子なんでちょっと心配だ。


俺は自宅に残ったが、本日は、今流行りのVRゲームに没頭する予定だ。


現在の日本は、高齢化問題もあって、既に、企業などはAI化が進み、人員削減、バイオサイボーグの利用数が増加していた。

だが、学校に関しては、少し違っていて、通学して授業を受けるなどの面倒なことは、オンライン授業で十分事が足りると思うのだが、学校側としては教員の給与面を確保するためにも対面式授業は外せないらしい。


だが、ズルをしたいのは俺だけではない。

一度、学校の教員が、自分の代わりにバイオサイボーグを身代わり出勤させて授業をさせていたのが発覚し、社会的な問題となっていたのは、つい最近ことである。


俺も本来は授業を受けなければならない身分なのだが、生徒に関しては国による施策、所謂いじめや不登校の生徒のため対策で、ある程度は寛容的な扱いを受けている。

まあ、要は生徒はOKだが、教師はダメということだ。

俺もそんな枠から見れば不登校の一人だと言えるだろう。

だから、そんな俺にとってバイオサイボーグはとても有難く、心強い存在なのだ。


学校なんて面倒な所と考えている奴はゴマンといる。

AI化とともに、人間の脳の記憶の構造解析も飛躍的に進み、授業の内容がチップ一つで頭の中に取り込まれるシステムが出来てかららは、人間は、互換性のあるバイオサイボーグに面倒ごとを任せるようになっていた。

だが、思考が人間に近くなっているため、AIにあまりに過度のストレスを与えたりすると、突然、故障することがあるらしく、急に暴走キレられて攻撃されないように制御機能が施されている。

つまり、バイオサイボーグは、自分で考える事が出来るようにはなっているが、人間に対して反抗や攻撃が出来ないようにあらかじめ設定されているということなのだ。


俺はゲームをする前に朝食を取ることにした。

台所のテーブルには僕一人だけが座る。


両親は、先日、俺を残して自動車事故で亡くなってしまった。

俺は親の仕事が何をしているのかよく知らなかったが、皆も高校生の時はそんなものだろう?

俺はその莫大な遺産を受け継ぐことになっているが、それが結構な額のため、案の定と言うか、親戚の叔父や叔母がハイエナの如く、俺にたかってきた。

俺は高校生という身分のため、親に変わる法的な代理人が必要だとかで、皆が争って代理人になろうとしていたが、それを全部断って、僕が成人になるまで親が雇っていた弁護士の世話になってる。

この人は信頼のおける方なので心配はないのだが、少しでも親の遺産のおこぼれを貰おうと、たまに様子を伺うように電話がかかってくる。

俺は、そんな面倒なこともバイオサイボーグに任せて自分の好きなことをやっている。


まあ、身代わりとは良いものだなとつくづく思う。

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