デート in ドリームランド 後編
「うぅ……お腹が苦しいよぉ~」
レストランを出ると夢乃は苦しそうに呟いた。
「俺も。写真ではそこまで大きく見えなかったんだけどな……」
レストラン街に来た俺たちだったが、GW真っ只中のドリームランドのレストランはどこも満席で、順番を待つ人の列が出来ていた。特に行きたい店がある訳でもなかったので比較的列が短かったイタリアンレストランに入り、それぞれ一人前のピザを注文したのだが、その一人前というのが思ったより大きかったのだ。
何とか食べ切れたが、二人とも腹八分目なんて余裕で超えてしまった。
「少し休憩する?」
「ありがとう、でも大丈夫。乗り物に乗るのは無理だけど、ショップを見て回ることぐらいなら出来そう。だから、グッズを買う時間にしようよ!」
「そういえばまだ一軒もショップ見てなかったもんね。そうしよっか」
ドリームランドにはたくさんのショップがあるが、多くはこのレストラン街のすぐ隣のエリアに集まっている。なので、まずそこに向かうことにした。
***
最初に立ち寄ったショップは、主にドリームランドの公式キャラクターのぬいぐるみを取り扱っていた。ちなみにその公式キャラクターの知名度、人気度は結構高くて、この辺の小中学生(主に女子)で学校に持ってくるカバンに何かしらそのキャラのグッズを付けている人は結構いる。
夢乃もドリームランドに来たことはなくてもキャラはずっと気になってたようで、ショップに入ると、食べ過ぎで苦しんでいたさっきまでの様子とは打って変わってハイテンシになり、色々なぬいぐるみを手に取って眺めている。そして俺は完全に放置されてしまった。
放置された俺は、楽しそうにしている夢乃を眺めるのも良かったが、ここは夢乃に倣って色々ぬいぐるみを見てみることにした。
――よく見てみると、結構かわいいなぁ。
俺はあまりキャラに興味がなかったから、これまでこういうグッズに注目したことがなかったが、どのキャラのぬいぐるみもほのぼのとしていて可愛い。こういうのは確かに女子に人気だろう。そして夢乃はこういう感じのキャラグッズが大好きだ。
夢乃へのプレゼントに少し大きいサイズの一つ買おうかな。
しばらくぬいぐるみ達を眺めていたら、そんな気になった。
これ買ってあげたら夢乃絶対喜ぶし、それを抱きしめてる夢乃の姿を想像したら萌える。あと、ドリームランド限定のプリクラで二人でそのぬいぐるみを持って撮ったらいかにもカップルって感じのが撮れそう。
そんなことを考えていたら、頬が緩んできた。
これはまずい。一人でぬいぐるみを眺めながらにやついてる男なんてどう見てもやばい奴だと思われる。
周りから不審者と思われるのは嫌だから、頬がどんどん緩んでいくのに全力で抗おうとした。
だけど少しマシになった程度で、完全に抗うことは出来なかった。
一度想像してしまった、ぬいぐるみを抱きしめている夢乃の姿が頭から離れてくれないのだ。
これは困ったなぁ。
この表情を見られまいと俺は店の端の方に移動して、にやつきが治まるまで壁の方を向いてぬいぐるみを見る振りをすることにした。が、そうしていると夢乃が俺の肩をツンツンとつつき、話しかけてきた。
「ねぇ悠斗、この子すっごく可愛くない?」
振り向くと、夢乃がミニサイズのクマのキャラのぬいぐるみを持っていた。その様子は先ほどから頭に付いて離れない妄想と瓜二つで、久しぶりの遠出デートで気合を入れておめかししている分、より一層キュートだった。
俺は思わずぼーっと夢乃を見つめてしまった。
「もしも~し、聞いてる?」
「……あぁごめん、夢乃が可愛すぎて見惚れちゃってた」
それを聞いて夢乃は一瞬ぽかんとすると、顔を赤らめて俺から視線を外した。
「ちょっと! 急にそんなこと言わないでよ……恥ずかしいから」
「ごめんごめん、でも本当のことだから許して」
俺は夢乃の頭を撫でた。
夢乃のこういう反応をするところ、本当に可愛いなぁ。
「それで、夢乃はそのキャラがお気に入りなの?」
「う~ん、お気に入りというより、ぬいぐるみの中でこの子が一番可愛いと思うって感じ。私、ドリームランドのキャラみんな好きだから、特にお気に入りとかはいないんだ」
「そっか。じゃあ、そのキャラのもう少し大きいサイズのぬいぐるみ、俺が買ってプレゼントしてあげるよ」
夢乃のさっきの姿を見た時点で、俺の中でプレゼントしないという選択肢は無くなっていた。
これを聞いて夢乃は目を輝かせた。
「え、いいの⁈」
「うん。別にすごい高い訳でもないし、俺がプレゼントしてあげたい気分だから」
「悠斗ありがとう!」
「いえいえ。会計の列に並んでおくから夢乃はそのぬいぐるみを持ってきてくれる?」
「分かった!」
こうして夢乃はぬいぐるみを取りに行き、俺は列に並んだ。
会計の列では俺の前に10人くらいの人がいたけれど、さすがは人気テーマパークのスタッフと言わんばかりに3人のスタッフが手慣れた様子で会計を担当していたから、前にいた人の数の割には早く会計を済ませることが出来た。
「はい、どうぞ」
「本当にありがとう! 大事にするね」
ぬいぐるみの入ったレジ袋を渡すと、夢乃はそれを大事そうに抱えた。
「せっかくだし、この後プリクラ撮ろうよ」
「いいね! 私も今日どこかのタイミングで撮りたいと思ってたんだ。でも、この近くにあったかな?」
「この近くはどうだったかな……」
リュックのポケットにしまっていたマップを取り出して見てみると、この辺りには一つも無かった。
「メリーゴーランドとかがある方へ行かないとないみたいだね」
「メリーゴーランドかぁ、ここからちょっと遠いね」
「だから、この辺での買い物を済ませてから行こうか」
「うん、そうだね。じゃあ次はどのお店を見る?」
それから俺たちは30分ほど買い物をした。
***
買い物を終えてプリクラを撮りに行き、それからまた色々なアトラクションを満喫していると、陽が沈んで夜になった。
夕食はドリームランドの中央にある、そこそこ高級なフレンチレストランを予約していたから、予約した時間に行って食事をした。そしてレストランを出る頃には8時前になっていた。
「今日のドリームランドの閉園時間って9時だっけ?」
「うん、そうだよ。だからあと1時間くらいだね」
「ならもうちょっと楽しんでいけるね」
「でももう結構な数のアトラクションが営業終了してるし、本当に閉園までいると買帰りの電車の込み具合が大変なことになっちゃうから、最後に夢乃が行きたいとこに行こ」
「私の行きたいところかぁ~、じゃあ観覧車に行きたいな」
ということで観覧車乗り場に行くと、30人くらいが順番待ちの列を成していていて、彼らはみなカップルあるいは夫婦だった。
観覧車に限らず、夜になって家族連れの客が減り、子供のはしゃぐ声がよく聞こえた昼間とは打って変わって、デートスポットの雰囲気が増していた。ディナーでビールやワインを飲んだのか、明らかに酔っていて、人目を気にせずイチャイチャしているカップルもちらほらいる。
俺たちは夢乃がまだ誕生日を迎えてなくて未成年だから飲まなかったが、周りの雰囲気に影響されてか、どちらからともなく恋人繋ぎから腕組みに発展していた。
「この時間に上から見るドリームランドとか絶対綺麗だろうな~」
「だろうね~。あと、周りの街の夜景も綺麗だと思う」
「あれ、悠斗はここからの夜景見たことなかったの?」
「夜に乗るのは初めてだよ」
「そうだったんだ! なら、なおさら楽しみだね!」
20人待ちと言っても、一つのゴンドラに複数人が乗っていくから、あっという間に列は進み、ついに俺たちが乗るゴンドラが回って来た。
夢乃をエスコートして先に乗せ、それから俺も乗ると、係員が扉を閉めた。夢乃の隣に座るか、向かい合って座るか少し迷ったけど、結局隣に座った。
「わぁ、やっぱ夜景綺麗だな~」
「あはは、それ言うの早過ぎだよ。まだ全然上がってないし、ドリームランドしか見えてないよ」
「そうだけど、それでももうその辺の建物より高い位置だし、十分綺麗だよ」
夢乃は目を輝かせながら夜景に見入っていた。
雑音のほとんど聞こえない、貸し切りのゴンドラから恋人と一緒に見る夜景。
俺もすごく綺麗な夜景だと思った。でも、それ以上にドリームランドの光に照らされた夢乃の横顔が綺麗で、俺はそちらに心を奪われていた。
久しぶりに丸1日一緒に過ごしたけど、やっぱり夢乃と一緒にいるのは他の誰といるよりも楽しい。それに、夢乃がデートを楽しんでくれているのが嬉しいし、楽しそうにしている夢乃が可愛くて仕方がない。
――ここならいちゃついても周りからは見えないよな。
俺は隣で夜景を眺めている夢乃の頬にキスをした。夢乃は一瞬驚いたようだったが、体を俺の方に向けると俺がしたのと同じように俺の頬にチュッとキスをした。
「好きだよ、夢乃。今日は久しぶりに1日中一緒に過ごせて嬉しかった」
「私も同じ。悠斗が大好きだよ」
互いのぬくもりを確かめ合うように体を寄せ合い、今度は口づけを交わす。久しぶりの遠出デートの締めと言わんばかりに長く、熱く。
唇を離したのとほぼ時を同じくして、ゴンドラの上昇が一瞬止まり、続いて下降に移るのを感じた。
「ねぇ夢乃、今ちょうど観覧車の一番上だよ」
俺と夢乃は共に、視線を互いの顔から外の同じ方向に移した。そこには、ドリームランド周辺の街の夜景が広がっていた。
「わぁー、きれい!」
函館の夜景なんかと比べたら圧倒的に見劣りするだろう。それでも、夢乃と一緒に見る夜景は格別だった。
そのまましばらくの間、俺たちは一言も発することなく夜景を眺めた。
「観覧車から見る夜景はやっぱり綺麗だったね」
観覧車を降りて、余韻に浸るように夢乃が言った。
「だね~」
「もう一度見たいけど、もう時間ないよね?」
「さすがに厳しそうかな~。まぁ今日は無理でも、また見に来ればいいから。また一緒に見よう」
「うん! じゃあ帰ろうか」
「そうだね」
俺たちは腕を組み、駅の方へと歩きだした。
彼女をNTRれないか心配していたら、俺がNTRれそうになっていた 星村玲夜 @nan_8372
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