番外編:GWデート
デート in ドリームランド 前編
今日は5月3日、待ちに待った夢乃との遠出デートの日だ。
朝8時に夢乃の家の最寄り駅に集合し、そこから電車に乗ってデートスポットとして有名なテーマパーク、ドリームランドへ行く。
ドリームランドには過去に2回、友達と行ったことがあるが、夢乃とはまだ行ったことがなく、彼女との初ドリームランドデートに俺は胸を躍らせていた。おかげで昨日の夜は遠足前日の小学生よろしく、なかなか眠ることが出来なくて困ったものだ。
家を出たのが早かったから、集合時刻より40分も早く駅に着いてしまった。さすがに早過ぎたようで、夢乃はまだ来ていなかった。
それにしても人が多い。
いくらGWといってもこんな早い時間にこれほど人がいるとは予想外だった。集合時間を早くしたのは単純に早く行きたいというだけでなく、混雑を避けるためでもあったのだけれど、この様子だと気休め程度にしかならないかもしれない。
スマホゲームをしながら待っていると、20分くらいして夢乃が来た。
「おはよう悠斗。待たせちゃった?」
「ううん、俺が来るのが早過ぎただけだから気にしないで。それより今日の夢乃、すごく可愛い」
夢乃は以前平日デートをした時に買ったピンクのワンピースを着て、それに合わせて黒色のポシェットを身に着けていた。また、普段は髪を下ろしていることが多いが、今日はハーフアップにしてリボンで結んでいた。
「えへへ、ありがと! 悠斗もいつも以上にかっこいいよ」
「ありがとう」
どの服を着て行くか昨晩じっくりと考え、今朝は早く起きていつも以上に丁寧に髪をセットした甲斐があった。彼女にかっこいいと言ってもらえるのは、好きって言われるのとはまた違った嬉しさがある。
「じゃあ行こうか」
「うん!」
俺は夢乃の手を取り、がっちりと恋人繋ぎをして二人で改札口へと歩いていった。
***
「キャーー!! 悠斗助けて!!」
ドリームランドに着いてから約1時間、夢乃は恐怖に満ちた表情で悲鳴を上げて俺に助けを求めてきた。
「それは無理ー!!」
だが俺は断った。
デート開始早々に犯罪に巻き込まれ、自分に縋って《すがって》きた彼女を、自分の命惜しさに見捨てた俺は最低な彼氏だ――。
というのは冗談で、俺たちはジェットコースターに乗っていて、90メートルの高さから急降下している真っ最中だ。そこで助けてと言われても、俺も夢乃の隣で一緒に乗っているのだから助けようがない。
夢乃はこれまで一度もジェットコースターの類に乗ったことがないようで、ドリームランドに着いてジェットコースターを見つけると、「あれに乗ってみたい!」と言いだしたから、1時間並んで乗ったのだ。
これは絶叫系ファンからの根強い人気があるほどで、初めてジェットコースターに乗る夢乃にはちょっときつかったかもしれないなと、一つ目の絶叫ポイントである高さ90メートルからの急降下の時に思った。
それ以降の夢乃の様子は、俺もそんなに絶叫系には慣れていなくて、夢乃の心配をする余裕がなくて見れなかった。けれど、乗り場に戻ってきた時には笑顔になっていた。
「ねぇ悠斗、ジェットコースターってこんなにも楽しかったんだね!」
「あはは、もしかして夢乃強がってる? 最初あんなにも怖がってたじゃん」
「強がってなんかないよ! 最初はすごく怖かったけど、慣れてきたら楽しくなったの!」
夢乃はプクーッと頬を膨らませた。
ちょっと、可愛過ぎるんですけど! 基本清楚系で、時折妹系の一面を見せて来るとか反則だよ!
両手でそっと頬に溜まった空気を押し出してそのままキスしたいという衝動に駆られたが、人前なので自重した。
「あ、ソフトクリーム売ってる。ソフトクリーム食べようよ」
夢乃が指さした方を見ると1台のワゴンが止まっていて、そこでソフトクリームを販売していた。
「ソフトクリームか、今日暑いからぴったりだね」
今日は雲一つない晴れ空で、しかもGWだから混雑していてかなり蒸し暑くなっていた。
ソフトクリームを買い、俺たちは日陰に移動して休憩を取った。
「悠斗のも美味しそうだね。私の一口あげるから、一口もらってもいい?」
俺が食べているソフトクリームを見て夢乃が言った。俺と夢乃は違う味のソフトクリームを買ったのだ。
「うん、いいよ」
互いに食べかけのソフトクリームを交換し、一口食べて返した。そうしたら少なくとも二口分は食べられたソフトクリームが返ってきた。
「夢乃、これほんとに一口?」
「うん、大きな一口だよ。さっき強がってる? って言ってきたことへの仕返し。これぐらいはいいでしょ?」
「仕返しじゃ仕方ないなぁ」
今日の夢乃はどうやら甘えん坊のようだ。最近はあまり一緒にいることが出来なかったから、その間甘えられなかった代わりに今日思いっきり甘えるつもりなのかもしれない。
甘えられることは全然苦にならないし、むしろ時にはこうして甘えてくれることが嬉しい。ただ、公衆の面前で俺の理性が吹き飛んでしまわないか不安にはなるが。
ソフトクリームを食べ終えたところで、休憩を切り上げることにした。
「夢乃は次どこに行きたい?」
「さっき私が乗りたいって言ったジェットコースターに乗ったから、次は悠斗が行きたいところでいいよ」
「じゃあどこにしようかな~」
さっき乗ったのとは別のジェットコースターに乗るのもありだし、コーヒーカップも悪くない。メリーゴーランドも友達とだと微妙な気がするけど、彼女とだったら楽しそう。
ドリームランドのパンフレットを眺めながら考えた。そして出た結論は――。
「お化け屋敷に行こっか」
お化け屋敷もさっきのジェットコースターほどではないけれど、順番待ちの列が出来ていた。
「悠斗は今までお化け屋敷に入ったことあるの?」
「ううん、ないよ。夢乃は?」
「私もない。このお化け屋敷どれくらい怖いのかなぁ」
「う~ん、まぁ悲鳴を上げる人がいる程には怖いみたいだね」
時々お化け屋敷の中から悲鳴が聞こえていて、それが恐怖心を煽ってくる。
20分待って俺たちの番になり、ついにお化け屋敷に足を踏み入れた。
初めて入ったお化け屋敷の第一印象は、月並みな表現だけど薄暗くて不気味といったところだ。ここは廃病院をモチーフにしているらしく、点滴を吊るすスタンドや看護師が使う台車などが所々に置いてある。
ちなみに夢乃はお化け屋敷に入った時から俺の腕にぎゅっとしがみついている。こういう姿を見ると可愛いなぁと、ついキュンとしてしまうけど、今はそれどころじゃなかった。
俺もお化け屋敷苦手かも……。
油断したら足とか震えだしそうだし、夢乃がしがみついてきてくれてなかったら俺の方から夢乃にしがみついてた。お化け屋敷を選んだのはミスだったなぁ。
「ね、ねぇ悠斗。お化け屋敷から早く出ようよ」
「う、うん。ちょっと早歩きで行こうか」
二人とも歩くペースを上げた、その時だった。
右手側からドン! と鈍い音がして、恐る恐るその方を見ると…………。
窓に赤い手形がたくさん付いていて、長い髪の女の人の顔が浮かび上がっていた。
「きゃーーーー!」「ぎゃーーーー!」
「もう二度とお化け屋敷には行かない」
お化け屋敷から出た時、俺たちは心身ともに疲れ果てていた。
仕掛けをどんなに無視しようとしてもしきれず、毎回二人で叫んで、何回かは抱き合っていた。途中からはカップルというより乙女二人のような感じになってしまった。
「お化け屋敷のせいで私お腹減っちゃったよ。次のアトラクションに行く前にご飯食べよ」
目じりに付いた涙を拭いながら夢乃が言った。
「うん、そうしようか。お化け屋敷に行こうなんて言ってごめんね」
「大丈夫、気にしないで」
俺は謝り、夢乃の頭を撫でた。そして手を繋いで二人でレストラン街に足を向けた。
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