エピローグ

 今日のことを夢乃に正直に言うべきか、はたまた言わないべきか……。


 莉奈の家から帰ってきて一睡したことで二日酔いによる頭痛は取れたが、俺は頭の痛い思いをしていた。


 莉奈と行為に及んではいない。けれど、酔いつぶれてお持ち帰りされてしまい、同じベッドで寝た上に熱いキスをされた。そして相手が夢乃だと勘違いしていたとはいえ、俺からも熱いキスをしてしまった。


 俺は夢乃のことが好きで、夢乃以外の女子と付き合うことなんて考えられないし、浮気だってする気はない。この気持ちに嘘偽りはない。それでも、お持ち帰りされてしまったという事実が重くのしかかってくる。


 出来れば夢乃には今日のことは言いたくない。

 

 でも、俺が莉奈にお持ち帰りされたところはそれなりに多くの人に見られているはずだから、俺が言わなくても夢乃の耳に入る可能性は十分にある。そうして夢乃が知って、俺が何もそのことについて説明していなかったら、それこそ破局の危機に陥るだろう。


 やっぱり正直に言うしかないかぁ……。


 今日は日曜日。時刻は間もなく11時になるところ。俺はスマホを取って夢乃にLINEを送った。


「夢乃おはよう! 突然だけど、今日の夕方会えない? ちょっと話したいことがあるんだ」


***

 

「本当にごめん!!」


 夕方、西城大学前駅で夢乃と待ち合わせ、一緒にスーパーで夕飯の食材を買ってうちに戻ってきた俺は、食材を冷蔵庫へ入れ終えると、夢乃に今日あったことをすべて話し、謝罪した。


「も~、悠斗ったら女子に優し過ぎるよ! それにいちいちカッコよ過ぎるし、鈍感過ぎ! 相手の子が可哀そうだよ」

「返す言葉がないよ……」


 今回の件で自分が女子に優しくすると言ってもやり過ぎていて、その結果好意を抱かせてしまっていたことが身に染みて分かった。これからは気を付けないといけない。


「あと飲まされ過ぎ! 男がお持ち帰りされたなんて聞いたことないよ」


 夢乃は呆れた様子で俺を説教し、俺はひたすら頭を下げるしかなかった。そしてひとしきり説教したところで、夢乃が言った。


「確認だけど、本当にその子とはキスしただけだよね? 行為はしてないよね?」

「うん、自発的にはしてないし、されてもないはず。キスしちゃったのは本当にごめん。言い訳に聞こえるかもしれないけど、暗闇で寝ぼけて夢乃と勘違いしてなかったらキスしなかったし、キスを受け入れもしなかった。夢乃以外の子とそういうことをしようとは全く思ってないから」


 夢乃は少し考え、こう言った。


「分かった。今回はなかったことにしてあげる。次からは気をつけてね」

「許してくれるの?」

「うん、今回は許してあげる」


 よ、良かったぁ~。

 別れを切り出されないかずっとヒヤヒヤしていたから、この言葉を聞けて心の底から安堵した。もし別れを告げられていたら少なくとも2週間は立ち直れなかったと思う。


「ねぇ悠斗、ちょっとこっちに来て」


 俺がほっと胸をなで下ろしていると、向かい合うように机を挟んで反対側に座っている夢乃が言った。


「ん、何?」

「いいから来て」


 言われるがままに夢乃の隣へ行くと、次はその場に座るよう言われた。


 何なんだろう? そう思った時だった。


「んっ……」


 夢乃が俺の頭を引き寄せて、ディープキスをした。それはそれは熱いキスだった。


「私だって悠斗以外の男子と付き合う気は全くないんだから、他の女子に悠斗を奪わせたりしないよ」


 なにこれ、すごくカッコ可愛い――。

 思わずキュンとさせられてしまった。


「俺だって奪われるつもりはないよ」


 今度は俺の方からディープキスをした。


 



「じゃあ夕飯にしよっか。私お腹空いちゃったよ」


 なが~いキスを終えて、夢乃が言った。


「俺も。俺が作るから夢乃は待ってていいよ」

「え~、今日は一緒に作りたいな~」

「そっか。じゃあ一緒にやろっか」


 こうして俺たちは仲良く料理を始めた。




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