いざNTR!
う………………ん……ここは?
深い眠りの底から浮上して、うっすらと目を開けると、部屋の中の様子が目に入ってきた。暗くてよく見えないけれど、ぼーっとしていて働かない頭でもここが知らない部屋だということは分かった。
どういう経緯でこうなったのかは分からないが、俺はこの部屋に来てベッドに潜って寝ていたようだ。それも下着姿で。
それにしても頭がズキズキと痛む。
きっと飲み過ぎたのだろう。どこでどれだけ飲んだのかは思い出せないが。
そして、同じく下着姿でベッドに潜り、俺に抱きついているセミロングの髪の女がいることに気づいた。
あれ、夢乃?
何となく体が小さい気がするけど、夢乃以外でこんな状況になる相手はいないから、夢乃に違いない。
じゃあここは夢乃の部屋なのか?
夢乃の家にはまだ行ったことがないから、夢乃の部屋がどんな感じなのか俺は知らなかった。
インテリアがおしゃれで、いかにも女子の部屋って感じだ。やっぱり夢乃は女子力高いなぁ。
それにしても、本当にどういった経緯で夢乃の家に来ることになったんだ?
すると、俺が起きたことに気づいたらしく、夢乃が俺の頭を抱え込むようにしてキスしてきた。夢乃にしては珍しく情熱的で、かなり激しいキスだ。
こんなキスをしてきたのは意外だったが、たまには悪くないかもしれない。
受け身になっていた俺は、タイミングを計らって今度は自分からキスをした。夢乃と同じようにキスをした。
そうしている内に、俺も気持ちが昂ってきて、すぐにでもしたくなってきた。
キスはそろそろ十分だろう。続いて行為に移ろう。
そう思って顔を離し、「ねぇ夢乃、しよ」と言おうとした。
そして気づいた。俺がキスしていたのが夢乃ではなく莉奈だったと。
「え、は⁉ り、莉奈⁉」
急速に酔いと昂った気持ちが覚めていき、パニックに陥った。
「な、何で? え? てかここどこ?」
遅れて夢乃以外の女子とキスしてしまったことへの罪悪感が湧き出し、冷や汗がどっと噴き出してきた。
やばい、やらかしてしまった! どうしよう!
「ごめんなさい悠斗先輩!! ここは私の家で、親睦会の後悠斗先輩をお持ち帰りしました!」
莉奈は起き上がると土下座し、そう叫んだ。
あぁそうだった!
それで俺は親睦会で飲み過ぎたことを思い出した。
水をたくさん飲んで酔いを醒まそうとしたけど、結局莉奈と話してる俺は寝てしまったということか。
「莉奈、顔を上げて。何でこんなことをしたの?」
俺は怒鳴ったりせず、冷静に莉奈に問い詰めた。
「実は私、悠斗先輩のことが好きなんです。悠斗先輩は全然上手くならない私を見捨てないで、人並みに打てるようになるまで丁寧に指導してくれましたよね。それが私、すごく嬉しかったんです。あまりにも上手くいかないからやめようか悩んでたんですけど、悠斗先輩が熱心に指導してくれて、応援してくれたから、もうちょっと頑張ってみようって思えたんです。打てるようになった時には思いっきり褒めて、頭を撫でてくれましたよね。その時胸の奥がすごく温かくなって、同時に胸が苦しくもなって、悠斗先輩のことが好きなんだって気づいたんです。だけど――」
莉奈はすごく辛そうな表情になって、一度言葉に詰まったが、続けた。
「だけど悠斗先輩には彼女さんがいました。だから悠斗先輩のことは諦めようと思ったんです。それでテニスは好きだけど、テニスにトラウマを持っちゃったことだし、悠斗先輩を諦めるためにもサークルをやめようとしました。でも悠斗先輩はまた私の前に現れて、頑張ったね、って私が一人でトラウマに苦しんでいたことを労わって、今度は一緒にトラウマの克服を頑張ろう、って言ってくれましたよね。それで私、もう悠斗先輩から離れたくない、悠斗先輩に後輩としてじゃなくて彼女として見られたいってより強く思ったんです。だけど、実は私、悠斗先輩が彼女さんと一緒にいるところを一度見たことがあって、その時の二人の様子から二人は順調で、なかなか、ううん、もしかしたら永遠に悠斗先輩の彼女にはなれないかもしれない、普通にアプローチしても無理だと思って、悩んだ果てに既成事実を作るしかない! ってなって、泥酔した悠斗先輩をお持ち帰りしちゃいました」
「……そっか。莉奈は俺のこと好きだったんだね」
莉奈が俺に好意を寄せているとは思ってもいなかった。確かに莉奈はいつも俺の傍にいたけれど、それは単に後輩として俺に懐いてくれているからだとばかり思っていた。
「あ、一応言っておきますけど、このことについては香住ちゃん以外には誰も知らないので、他の1年生が共謀して悠斗先輩に酒をがぶがぶ飲ませた訳じゃなくて、あれはたまたまです。ああならなかったら何とかして私が悠斗先輩に酒を勧めまくろうと思ってました。あと、水と言って悠斗先輩に渡したの、実は日本酒でした」
「あぁ、やっぱそうだったか」
「本当にごめんなさい……」
通りでアルコールが入ってる感じがした訳だ。俺の感覚がおかしくなった訳ではなかった。
事の次第が明らかになったところで、次はこれからどうするかだ。
「さて、もう分かってると思うけど、俺は夢乃のことが大好きだから、莉奈と付き合うことは出来ない。それで、莉奈はどうするの?」
莉奈は少し考えてから、こう言った。
「もう二度とこんなことはしません。それで、悠斗先輩がいいって言うのなら、サークルで後輩として悠斗先輩の近くにいさせてください」
「俺は構わないけど、莉奈は苦しくないの? 俺が夢乃から心移りすることはないと思うから、想いが届かないままずっと傍にいることになるよ」
「大丈夫です。悠斗先輩の近くにいられるだけで嬉しいですから。それに、私テニスが好きなのでテニサーには入っていたいですし、悠斗先輩が私に心移りする可能性だって、さっき悠斗先輩は否定しましたけど、十分あるんですからね! もちろん私が他の人に心移りすることもあり得ますから、もし私と付き合いたかったらそうなる前に告白してください」
最後、莉奈は胸を張って言った。
「確かに莉奈は可愛いくて優しいから、莉奈を好きになれない男はいないと思う。でも、俺は夢乃にゾッコンだから、莉奈と付き合いたくなることは申し訳ないんだけど、ないと思う」
俺がこう言うと、莉奈は顔を赤らめて言った。
「もうっ! そういうところです悠斗先輩! そういう風に女の子を褒めたり優しくしたら、悠斗先輩のこと好きになっちゃいますよ。彼女さんがいるんだったらそんな風に他の女子に優しくしないでください!」
「え、これダメなの?」
「ダメです! 悠斗先輩は無自覚の女たらしなんですか⁈」
お、女たらし⁉
また言われてしまった。今までは何を言ってるんだと思っていたけど、こんなことが起こった以上、そうだと認めるしかないのかもしれない。
「俺はこうするのは普通だと思ってたけど、これで莉奈に好意を持たせて苦しめさせちゃってたのなら、俺の方こそごめん……」
「これからこんな風に優しくするのは彼女さんだけにしてくださいね。もしくは、私と付き合う気になった時に私にするようにしてください」
「分かった、そうするよ」
一件落着したところで、俺は家に帰ることにした。
「莉奈、俺の服と荷物はどこに置いたの?」
「そこの机のところです」
見ると、バッグが置いてあって、その隣に綺麗にたたまれた俺の衣類があった。
服を着て、スマホで時間を確認すると朝の4時だった。
「まだ眠いし頭痛いし、俺は帰るよ」
「分かりました。あ、夜が明けるまでうちのベッドで一緒に寝ていってもいいんですよ」
「いや、現時点でもう色々とやばいことになってるのに、そんなことしたら完全に取返しがつかなくなっちゃうよ」
「そうなったら私と一緒に幸せになるしかないですね」
「夢乃との幸せがぁーー」
荷物を持って玄関に行くと、莉奈が俺を見送るために付いてきた。
「じゃあ、またサークルで」
「はい!」
俺はドアを開けて、出ていこうとしたら、莉奈に呼び止められた。
「あ、あの悠斗先輩。最後に一ついいですか?」
「ん、何?」
「最後に、私の頭を撫でてくれませんか?」
「いいよ」
山本が出したボールをちゃんと打てるようになった時のようにそっと撫でると、莉奈ははにかんで笑った。
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