名探偵:5000文字後に死ぬ!

やまなしレイ

タイムリミットは5000文字!

 やぁ、俺の名前はつか 真得まえる。探偵さ。

 今回、卑劣な犯人の罠にハマり、「5000文字後に死んでしまう」毒を飲まされてしまったんだ。


 だけど、大丈夫。毒を使う暗殺者は、交渉のためにその解毒剤も持ち歩いているというものだ。5000文字以内……正確にはもう4880文字しかないけど、その文字数で犯人を捕まえて、解毒剤を手に入れればイイのさ!



「えぇ……間違いありません。その時間帯は点検のためエレベーターを封鎖していました。」

「つまり、同じ階に泊まっていた客にしか、ドリンクと毒を入れ替える機会がないということです。」


 ホテルのスタッフさんに証言してもらって、俺は同じホテルの5階に泊まっていた客を振り返る。

 俺が泊まっていた501号室のドリンクは、夜の22時11分には確かに存在していた(スマホで撮影してTwitterにアップしたから間違いない)。それが、俺がシャワーを浴びて一口飲んだ22時30分頃には既に毒に入れ替えられていた。


 スタッフさんの話によると、その時間帯にエレベーターを使うことは出来ず、非常階段も誰も使っていなかったとのことだ。容疑者は、同じ階に泊まっていたこの5人だけだ。これなら残り4509文字もあれば犯人を絞り込めるだろう。



「では、502号室の方からお願いします。」


 その男は、年齢は50代くらいだろうか、皺は目立つものの背筋のピンとした長身で金髪の外国人紳士だった。そこそこに流暢な日本語で彼は語った。


「はじめまして。ワタシは502号室に泊まっているヴィラヴィラヴェッヘ・ランゲロンゲロング・エルッツェ=リューベナッハグリュンディングシュトゥブニックというモノです。」


……


…………



「名 前、長 っ ! ! !」


 何だよ、その嫌がらせみたいな長さの名前は!? 数えてみたら50文字もあるじゃないか。5000文字で俺死んじゃうのに、その1%をこの人の名前で使うんじゃねえよ。


「何ですか、アナタは。ヒトの名前をブジョクしないでください! 失礼なヒトですね!」

「いや、ごめんなさいごめんなさい。えーっと……エルッツェさん?」

「ファーストネームのヴィラヴィラヴェッヘは親から与えられた大事な名前、ファミリーネームのエルッツェ=リューベナッハグリュンディングシュトゥブニックは先祖代々受け継がれた大事な名前、ミドルネームのランゲロンゲロングはワタシを区別する大事な名前です。ちゃんとフルネームのヴィラヴィラヴェッヘ・ランゲロンゲロング・エルッツェ=リューベナッハグリュンディングシュトゥブニックというモノで呼んでクダサイ。」


 長い!長い!長い!長い!長い!

 アンタの今の説明だけで196文字も使っているぞ! 俺の余命の約4%だぞ!? オマエが喋るたびに俺の寿命を削っていること、ちゃんと自覚してる?


「はい……ヴィラヴィラヴェッヘ・ランゲロングロンゲ・エルッツェ=リューベナッグルンディングストゥブニックさん。アナタは22時10分~30分の間、どこで何をしていましたか?」

「チガイマスよ!ヴィラヴィラヴェッヘ・ランゲロンゲロング・エルッツェ=リューベナッハグリュンディングシュトゥブニックです!ヒトの名前を間違えないでクダサイ! 日本人、めっちゃシツレイですね!」


 オマエの国ではその名前を一発で覚えて正確に発音ができるのがデフォルトなのかよ。もう分かり合える気がしねえよ。日本人に「ヴィ」とか「ツェ」とか発音させるんじゃねえよ。


「えっと……ヴィラヴィラヴェッヘ・ランゲロンゲロング・エルッツェ=リューベナッハグリュンディングシュトゥブニックさん。アナタは22時10分~30分の間、どこで何をしていましたか?」

「テレビをミテましたよー。」


 番組内容を聞いてみる。

 その話を聞いていた503号室の婦人も同じ番組を観ていて、その内容は間違いないとのことだった。この2人がグルでもない限りは、アリバイとして成立していると言ってもイイかな。



「では、次に503号室の人、お願いします。」


 503号室の客は老夫婦だった。

 旦那さんと思われる人が自己紹介をしてくれる。


「こんにちは。私の名前は田中一郎、こちらは妻の田中敬子です。」


 良かった、今度は短い名前だった。

 さっきの調子で登場人物全員名前が50文字とかだったら、自己紹介だけで250文字も使うじゃねえかと思っちゃったよ。


「アナタ方は22時10分~30分の間、どこで何をしていましたか?」

「妻は先程も申した通りにテレビを観ていたようです。私はゲームをしていました。」

「ゲーム?」


 こんな年配の人もゲームとかするのか。

 どんなゲームをしていたんだろう。


「Nintendo Switch Lite(ターコイズ)で『東北大学加齢医学研究所 川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のNintendo Switchトレーニング』をプレイしていました。」


 長いっ! 長いよ、わざわざフルでタイトルを言う必要あります? 今の説明だけで86文字も使っていますよ!?


「あー、えーっと……『脳トレ』していたということですね。」

「そうです、私はこのシリーズの大ファンでしてね。1作目の『東北大学未来科学技術共同研究センター 川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のDSトレーニング』も、2作目の『東北大学未来科学技術共同研究センター川島隆太教授監修 もっと脳を鍛える大人のDSトレーニング』も、ニンテンドー3DS用ソフトとして発売された『東北大学加齢医学研究所 川島隆太教授監修 ものすごく脳を鍛える5分間の鬼トレーニング』も欠かさずにプレイしているんですよ。だから、この『東北大学加齢医学研究所 川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のNintendo Switchトレーニング』も発売日に買ってずっとプレイしています。」


 長い長い長い! 全部フルネームで言いやがったな!

 川島隆太教授本人ですら「DSの脳トレ」とか「3DSの鬼トレ」って略すと思うよ、それらのゲーム! 今の件だけで284文字も使ってるからな!


 あぁ、もう残り文字数が2600文字しかない。

 まだ容疑者3人しか自己紹介していないというのに……



真得まえるくん、真得まえるくん、ちょっとイイですか?」


 困った俺を見かねたのか、小柄な美少女が俺に助け舟をくれた。

 このコは俺の幼馴染の万澄ますみで、事件のたびに俺の助手として動き回ってくれる相棒だ。今回も彼女と同じホテルに泊まっているところに(部屋は別だぞ)、事件が起こってしまったというワケだ。


「日本で発売されたゲームの中で、最もタイトルの長いものは『夏色ハイスクル★青春白書~転校初日のオレが幼馴染と再会したら報道部員にされていて激写少年の日々はスクープ大連発でイガイとモテモテなのに何故かマイメモリーはパンツ写真ばっかりという現実と向き合いながら考えるひと夏の島の学園生活と赤裸々な恋の行方。~』だそうですよ?」

「その情報、いる!!?」


 今回の事件に関係ねえだろ!

 そして、美少女が「パンツ写真」とか言うんじゃない。



 Nintendo Switchの画面を見せてもらったところ、確かに『東北大学加齢医学研究所 川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のNintendo Switchトレーニング』をプレイした形跡はあったが、これではアリバイになるとは言えないだろう。

 だが、同じ部屋で田中敬子さんがテレビを観ていて「夫はその時間、部屋から出なかった」と言っている。更に田中敬子さんとヴィラヴィラヴェッヘ・ランゲロンゲロング・エルッツェ=リューベナッハグリュンディングシュトゥブニックさんは同じテレビ番組を観ていて、内容も一致している。


 この3人がグルではない限り、アリバイが成立していると言ってイイのか……?



「じゃ、次は504号室の……万澄ますみ、お願い。」


 504号室に泊まっていたのは前述の幼馴染の美少女だ。

 まぁ、コイツとは古い付き合いだし、コイツが俺に毒を盛るだなんてことはありえないのだが。


「はい、真得まえるくんには自己紹介の必要はないでしょうが、みなさんこんにちは。私の名前は、毒野どくの 万澄ますみです。」


 どくのます み!?


 オマエ、フルネーム「どくのます み」って言うの?

 幼馴染の俺が言うのも何だけど、その名前は何!?

 もう今回の事件で毒を飲ますために生まれてきたような名前じゃん!?


 いや、「毒野どくの」という苗字は仕方ない。由来は分からないが先祖代々大切に受け継がれてきた苗字なら、そこに文句を言ってはならないだろう。でも、「毒野どくの」って苗字だったら、親はこどもに「万澄ますみ」って名前を付けちゃダメだろ!

 俺もつか 真得まえるって名前で小学生のころは随分とイジメられて、鬼ごっこではいつも鬼をやらされてたけど、毒野どくの 万澄ますみはその比じゃないくらいにイジメられたろう。


「すごい名前デスネー。アナタがドクを飲ませたんじゃないんデスカー?」


 ヴィラヴィラヴェッヘ・ランゲロンゲロング・エルッツェ=リューベナッハグリュンディングシュトゥブニックさんが万澄ますみを煽ったが、アンタの名前も日本人基準では相当だからな!



 よくよく考えたら「毒島ぶすじま 」という苗字は北関東ならそこそこあるそうだし、苗字に「毒」という漢字を使うのもそんなに珍しいことじゃないかもな。そうだ、名前で人を判断するだなんて失礼だ。疑っちゃいけない、コイツは大事な俺の幼馴染じゃないか。


万澄ますみは22時10分~30分の間、どこで何をしてた?」

「飲んだ人が悶え苦しんでから死に至る毒を調合していました。」


 毒、調合してるーーーーーー!!

 名前で人を判断しちゃいけないと思ったら、「毒野」って苗字で毒を調合してるーーーー!


「いや、つうか。毒を調合してたらオマエが犯人じゃねえか!」

「何を言うんですか。私は毒を調合していただけで、真得まえるくんに飲ませたりはしていないですよ。その時間に包丁を研いでいたからって、その包丁で人を刺した証明にはならないでしょ?」


 確かにそうだが……

 いや、待て。包丁を研ぐのは料理のために必要だが、人を殺す毒を調合するのは人を殺す以外に使い道なくない!?


「これはただの趣味です。使ったりはしていません。何ですか、この国には毒を調合してはいけないという法律でもあるんですか?」


 あるんじゃないの!?

 むしろ、ないの?? 俺、法律とか詳しくないけど「人を殺すための毒」を作ってたら逮捕されないの? そんな自信満々に言われると、こっちの自信がなくなるわ。


「いや、まぁそれはイイや。つまり万澄ますみは一人で毒を調合していたからアリバイがないってことでイイんだね?」

「いえ、その時間に私はY○uTubeで生配信をしていたので、視聴者の皆様がアリバイを証明してくれると思います。」

「毒調合生配信!? 神絵師によるお絵描き配信みたいなノリで毒を調合してるの? そんなもの見てる人いるの!?」

「太ももを出すと視聴者数は増えますよ。」

「美少女の太ももが見られると言っても、毒を調合してたらイヤじゃない?」


 スマホから彼女のY○uTubeチャンネルを開いてみると、確かに生配信をした記録が残っていて、視聴者のコメントとやりとりをしているのが確認できた。アリバイとしては成立しているだろう。



 あぁ……こんなことをしている間に残り500文字になってしまった。


「えーい! もうイイ、505号室のアンタ! 名乗らなくてイイ! その時間のアリバイはあるのか!?」

「え……いや、その時間は部屋で一人お酒を飲んでいましたけど……」

「よし! アリバイがないのはアンタだけだ! アンタが犯人だな、おまわりさんコイツです!」


 505号室の客はヒョロヒョロとした20代と思われる気弱な男性だった。屈強な警察官に取り押さえられた彼の所持品から、ラベルの付いていない瓶に入った白い錠剤が見つかった。


「それだ! それが解毒剤です、早くこちらに!」

「ちがう……それは単なる整腸剤で……」


 俺はその錠剤を一粒手に取って飲みこんだ。

 危なかった。あと230文字しか残っていなかったぞ。



真得まえるくん、真得まえるくん、ちょっとイイですか?」


 万澄ますみが話しかけてきた。


真得まえるくんは2人が同じテレビ番組を観ていたと仰っていましたけど、ヴィラヴィラヴェッヘ・ランゲロンゲロング・エルッツェ=リューベナッハグリュンディングシュトゥブニックさんが観ていた番組について田中敬子さんが“その内容で間違いない”と言っただけです。」

「うん?」

「その逆の証言は取れていないため、夫婦が口裏を合わせていた場合、田中敬子さんの方はその番組を観ていたという証明に

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