第256話、甘え

「「「「「ありがとうございました!」」」」」

「ん、お疲れさまでした」


 数日間に及ぶ森の行軍。それを終わらせて砦まで戻った騎士達の礼に応える。

 皆大なり小なり怪我はしているけど、致命的な怪我は一つも無い。

 今後騎士をやれなくなるような怪我も無く、けれどやっぱり彼らだけじゃ無理だった。


 奥に進むとどうしても虫系の魔獣が多く、虫の魔獣はかなり数が多い。

 私にとってはいっぱい居てとても助かるのだけど、普通の人には対処不可能になる。

 魔獣の森を人が通れない一番の原因があの虫達だと、以前教えて貰った。


 運悪くそんな虫たちの巣に着いた彼らは、必死になって撤退戦闘をする事になる。

 ただお爺さんの時と違って皆そこそこ戦えるし、こっちにはガンさんやメルさんも居る。

 私が広域に攻撃しつつ、迂回してくる虫は彼らに任せて逃げ切った。


 ただこれをやると私が食べる所が無くなる。紅い光が全部吹き飛ばすし。

 なので安全な所まで下がった後、一人で突っ込んで食べてきた。

 お腹を膨らましてから森を出てる事が出来たから、結局は良かったのかもしれない。


 まあ巣を一つ潰した所で、また他の所にいっぱいあるみたいなんだけど。

 虫系の魔獣は繁殖力が高すぎる。その割に数が増え過ぎないのは不思議だ。

 ガライドが言うには虫系の魔獣の天敵が居るらしい。


『相性とでも言えばいいのだろうな。まさしく君が魔獣の天敵である様に、どれかの魔獣が増えれば食べる魔獣も増え、エサが減れば当然捕食者も減る。溢れの原因は森のどこかにあるのだろうが、あの溢れが有るからこそ生態系が崩れない所もあるのだろうな』


 何時だったかそんな風に言っていた。溢れは必要な仕組みだったのだと。

 私としては怪我人が出る事だから、出来ればない方が良いと思うんだけどな。


「ではまた後で、グロリア嬢」

「はい、メルさん。また後で」


 手を振ってメルさんと別れて砦を出て、当然ガンさんとキャスさんも一緒だ。

 仕事が終わった報告の為にギルドへ向かい、けれど三人なので行きと違ってのんびりだ。


「くあああ~・・・あー、やっと終わった。数日も森の中ってのは、本当に堪える」

「なーに言ってんだか。ガンは警戒したって接近に気が付かないくせにー」

「・・・警戒しておかねえと、いざって時体がとっさに動かないんだよ」

「接近される前に伝えるから問題ないでーす。はい論破!」


 楽しそうに告げるキャスさんに対し、ガンさんは不服そうな表情を向ける。

 けど言い返すのは不利だと思ったのか、そのまま口おを閉じて足を進めた。


「グロリアちゃんが疲れたって言うなら解るけど、ねー?」

『いや、グロリアと比べるのは、誰が相手でもいささか不憫だと思うが・・・』


 確かにガライドの言う通り、私とガンさんを比べるのは可哀そうだ。

 だってそもそも魔力の量が違うし、同じだけ戦えば私の方が体力がある。

 それに私はガライドのおかげで敵を見つけられるし、ガンさんと条件が違い過ぎる。


「ガンさんは、頑張ってましたよ?」

「そう言ってくれるのはお前だけだよグロリア・・・」

「王女様も、言ってくれます」

「・・・そっすね」


 ガンさんは王女様が褒める様子を想像したからなのか、少し照れたように目を逸らす。

 そんな彼をキャスさんはにまーっとした顔で見つめ、ただがライドがため息を吐いた。


『いい加減この程度で照れるのは止めんか? 見ているこっちがもどかしい。二人きりの時は色々とやっ・・・んんっ、何でもないぞグロリア』

「そう、ですか?」


 そのガライドが何か言いかけたけれど、途中でやめてしまった。

 二人っきりの時に色々って、一体何をしているんだろう。

 メルさんと私みたいに、お互いにぎゅっと抱きしめて頭を撫でたりかな。


 いや、私の場合抱きしめられるって言うよりも、抱っこされてる感じになっちゃうけど。

 メルさん私をだき抱えるの好きだからなぁ。私も彼に抱えられるの好きだけど。

 彼に抱えられているととても落ち着く。


 そんな感じでいつも通り話している内に、ギルドへと到着した。


「お帰りなさい、グロリアちゃん」

「ただいま帰りました、フランさん」

「フ―ランちゃーん? 私達にはなーいのー?」

「そうだぞ受付嬢。こっちも大概大変だったんだぞ」

「フフッ、解ってますよ。お二人もお帰りなさい。ご無事で何よりです」


 ギルド内でもいつも通り三人は軽口を叩きあいながら、仕事の終了手続きを済ませる。

 暫くするとギルドの扉が開かれ、そこには王女様が立っていた。

 彼女はガンさんを目にとめると、にっこりと笑って近づいて来た。


「お帰りなさい、ガン様」

「あー、うん、ただいま」

「怪我は無いようですね」

「見ての通りだよ」


 優しく声をかける王女様に対し、ガンさんはちょっとそっけない感じだ。

 何時からか二人はこんな風になっていて、けれどこれはここだけの事だ。

 人目が多いと何故かガンさんはこうなる。でも王女様はそれで良いらしい。


『だって、可愛いじゃありませんか』


 にんまりと笑いながら以前そう言っていた。私には良く解らない。

 彼女が迎えに来た事でガンさんは二人で帰り、キャスさんもそれを揶揄いつつ帰った。

 私は何時も通りフランさんに勧誘を受けながらお茶を飲み、カップを返して屋敷へ向かう。


 道中子供達に声を掛けられながら、けれど今日は寄り道をせずに帰った。


「グロリアお嬢様、お帰りなさい」

「ただいま、リズさん」


 帰る日だから、きっと待っててくれると思っていたから。

 私の帰る所に何時も待っててくれる、迎えてくれる人が。

 帰還の報告をしながら、彼女にぎゅっと抱き着いた。


『・・・年々リズへの甘え方が幼くなっている気がするな。経験できなかったことを埋める様な行動を何というのだったか・・・まあ、グロリアの心が安らぐならそれで良いのだが』

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紅蓮の少女、暴食のグロリア 四つ目 @yotume

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