第36話.志田一樹「さて、チーム不滅の三角形の予定だが……」

【志田一樹】


「うわぁ、シンデレラみを感じるんですけど。エモすぎてぱおんだわ」

「ぱおんなんですけど!」

「やめろ三華、そいつの真似すると頭が悪くなるから」


 目の前の城を見上げてうっとりした様子の二葉は、声音にお姫様に憧れる乙女が感じ取れる。自分とかけ離れたものに憧れるのは構わないが、三華をそっちに連れて行かないでほしい。三華までギャルになったらどうしてくれる。


「どういう意味だ馬鹿兄貴!」

「そのままの意味だアホ妹」


「やれやれ、君たち兄妹は本当に仲がいいね」


 肩をすくめるセラに、「良くない!」と二葉と声を揃えて反論してしまった。誠に遺憾である。


 城へと続く階段の前にある大広場は、行き交う人々でとても賑わっていた。焼き串を焼く屋台や王都の土産を売る露天商、怪しげな占い師や音楽に合わせてダンスを踊っている集団なんてのもいて、雑多な雰囲気である。


 広場中央にある時計台は、午前十一時半を指していて、周りの多様なレストランから美味しそうな香りも漂ってきていた。


「エイモア邸も大きかったけど、やはり王城はそれ以上に立派だね」

「ええ、真太郎さん。昔二人で観光に行ったお城を思い出しますね」

「ああ、ドイツのノイシュヴァンシュタイン城だね。確かに、あれと同じくらい美しい」


 巨大な石造の王城は、父さんの言うようにまるで映画で見るような荘厳なものだ。城の前には数人の兵士が立っていて、容易に侵入できそうにない。やはり、何か手を考えないといけないらしい。


 大賢者エイモアの治めるグレニラーチを出発してからおよそ二週間。山あり谷ありな冒険を経て、ようやく俺たちは目的地の王都フィッツェオルドに到着していた。


 大陸の東側一帯を占めるアスラル王国の王都は、周囲を川や肥沃な土地で囲まれた恵まれた土地にある。王立の魔法大学や組合の第一支部などがあり多彩な人材も集まってくるこの地は、俺たちの目的である『エルフの里』を知る者を探すという条件にはぴったりだ。


 また、『エルシー』もこの王都にいるはずだ。未来の三華が言う通りなら、俺たちはここでエルシーを仲間にしなければならないらしい。そんなこと本当にできるかは怪しいところだけど。



「さて、じゃあそろそろ始めようか」


 ひとしきり王城の観光が終わった後、目に入ったレストランで名物のディアボラ(肉やチーズがふんだんに使われた辛いピザのようなもの)を食べた後、布で口元を拭きながら父さんが言った。


「えっと、俺とセラと二葉の三人でいいんだよね?」


 父さんはにこやかに頷いた。

「ああ、エルシーの方はそっちに任せる。僕と桜と三華は『エルフの里』についての情報を集めようと思う。当てはあるから僕たちはなんとかなると思うけど、そっちは怪我をするかもしれないから無理はしちゃいけないよ」


 王都に着く前から、この予定については話し合っていた。ここからは二手に分かれて目的を遂げる。わざわざ六人まとまってまで行動する意味がなかったからだ。


「危なくなったらすぐ逃げるのよ二人とも。セラちゃん、二人をお願いね」

「はい、お義母さん。カズ君と二葉ちゃんのことは僕に任せて」

 ドンと誇らしげに小さな胸を張るセラ。相変わらず、母さんにだけは従順なんだよな……。


「できれば日が沈むまでには打ち切って宿に帰ること。情報の擦り合わせをして、それからまた明日のことを話し合おう」

「この二週間の移動で家計もだいぶ苦しくなりましたから、依頼を受けてお金も稼がないといけませんね」

「うん、そうだね桜。誰かに依頼を受けてもらわないといけないかもしれないから、それも今夜相談しないといけないね」


 生きることとは全くもって大変だ。お金が使えば無くなることを自分で稼ぐようになって初めて実感した。以前はどこかから溢れてくるもののように感じていたが、あれは父さんが必死に働いていてくれていたからなんだな。


「よし、じゃあ解散しようか。各自、持ち場について」

「了解であります! パパ殿!」


 最近兵士の真似をすることにハマっている三華が、元気に敬礼をしてみせた。その微笑ましい様子にみんな笑って、小さく敬礼を返したのだった。



「さて、チーム不滅の三角形(アンデッドトライアングル)の予定だが……」

「ちょっとなにその激ダサネーミング。やめてくんない?」


 無視しよう。


「普通の方法じゃアスラル王国第一王女のエルシー・ゼクスタにコンタクトを取るのは無理だ。王族に謁見するのは俺たちみたいな一般人では無理だし、さっき見たように城の門は兵士が常に見張っているから潜入も困難だ。セラなら入れるかもしれないけど、魔法の特性上必ず騒ぎになる」


 轟音を伴うセラの魔法は、基本的に隠密には向いていない。俺の魔法では城の門すら越えられないし、越えたとしても中の様子も分からないのに王女に会うなんて不可能に近い。


「あたしなら門くらい入れるけど」

「中の戦力も分からないのにそんなことして戦いになったらどうする気だ? 仮にも王城の戦力だ。セラ級の奴だっているかもしれないだろ」


「…………言い返せないのがムカつく」


 二葉は口を尖らせて道端の小石を蹴った。二葉は確かに強いけど、あくまで志田家パーティーの中ではの話だ。特級組合員のセラどころか、上級組合員のトーランドさんにだってまだ勝てない。


「王女と会える機会かぁ……。地道だけど、一旦街の人に聞いて回るしかないかなぁ。もしかしたら、王女がよく来る店なんかもあるかもしれないし」


 とりあえずの方針を固めつついると、それまで黙って聞いていたセラがポンッと手を叩いた。長く白い髪が絹糸のように揺れた。


「僕に考えがある」

 紅い宝石のような瞳は、楽しそうに輝いていた。

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異世界で核家族は斯くありき 守川ひゞく @hibiku

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