最期は君の中で眠らせて

ガーネット兎

第1話 初恋を君に...


 賑やかな繁華街では星の数程の出会いと別れがある。


 そんな中スーツを着た蓮は日々女性を接客をしていた。


 上京して右も左もわからない。

しかし必ず大物になって、

錦の旗を掲げて故郷に凱旋する。


 蓮はそんな野望を抱いた数多くの若者の1人だった。


 女性を接客する上で大切なのは真摯な接客と楽しい空間を作り出す事だ。

だが自分を安売りしてはならない。


 ファンを作る感じで決して恋人になる訳にはいかない。


 店でNO.1の売り上げを誇る蓮は今宵も常連の客から高いボトルを頂く。


 決して高いお金ではない。

彼女達の人生を狂わせて自分は夢を叶える。


 人として間違った事はしてはいけないが、優しく非情になれない奴から消えていく。


 匙加減と女性の好意をうまくかわすのは、

本当骨が折れる。


 罪悪感など感じてはいけない。

これがこの町のルールだ。


 今宵もまた新たな男達の戦いが繰り広げられる。

我々はほとんどプロの女性を相手にする。

つまりは女性客も接客業を生業にする。


 プロVSプロなかなかしんどい。

何度裏切られてこの世界を辞めようかと、

考えたかわからない。


 約三百人の中で夢を叶えられるのは1人くらいのものだ。


 女性を引き止められなくて枕営業をして飽きられた時期もある。


 はっきり言うと、俺は元もと駆け引きは嫌いだ。しかし女性を覚えてきて、

段々かわし方もわかってきた為、今の地位にいる。



 そんな蓮の前に新規の客がきた。

この子はプロの女性ではない。

友達に無理矢理連れて来られてこの店に来たみたいだ。


 男慣れはしていないどころか、

緊張で目も合わせてくれない。


 蓮は優しく語り出す。


「私はこんななりだが、故郷から上京して右も左も分からずこの世界に入って正直まだ戸惑っているよ。

人が冷たいよね。

俺達はそんな都会を温めているんだよ」


「女性を食い物にする、

こんな職業で何を言っているんですか?」


「確かにそれは否定できないけど、私達も人の子さ!一人一人感情があり、本気で助けたいと思う事もあるよ。信じる信じないは君の自由だけどね」


 蓮はシェイカーを振り、

オリジナルカクテルを作り、その子に渡す。


「このカクテルは僕から君へのプレゼントさ! 

君の瞳に乾杯」


 ボーイが蓮にそろそろと伝える。


 蓮は別の客に呼ばれたと言い、

その子の席から離れる。


 蓮はその子から正直好かれたとも思えない。なぜなら、そもそも大金を使いそうな客に見えなかった。


 そんな中、一時間後何故かその子から指名を頂く。


 どこに好かれる要素があったのか不思議だった。

蓮は笑顔でその子のテーブルに戻る。

名前は百合らしい


「百合ちゃん指名ありがとう。君の素敵な横顔は素敵だけど、そろそろ目を見せてよ。とても綺麗な目だから」


 それが百合と蓮の出合いであった。



 それから時たま店に来ては接客業に文句を言っては帰っていく。そんな日々が一年過ぎた。


 ある日蓮は吐血して救急車に運ばれた。

病名は白血病の末期で余命は三か月らしい。


 蓮は絶望したーーまだ何も成し遂げてない。


 まだ俺は動けるぞ...

立ち上がろうとしても体が動かない。

体が鈍りの様に感じる。


 涙を流して自分の運命を呪う。

しかし自分の手は数々の女性達の犠牲を強いてきた。


 これもまた仕方のない事なのかも知れない。

あんなに人気も客も居た蓮の病院に看病にくるものは1人も居なかった。


 一か月後蓮の体はどんどん痩せて、

意識もおぼつかなくなった頃


 病室を訪ねる者が現れたーー百合である。


「やっと見つけたわ」


 百合は蓮の手を握りながら泣いている。


 女性を泣かせるなんて俺のポリシーに背く。

蓮はハンカチで百合の涙を拭う


「僕なんかの為に泣かないで。お願いだから笑ってくれよ...俺の仕事は女性を笑顔にさせる事なんだから」


 精一杯百合を励ます。


「俺は今まで沢山の女性と出会い、相手をして来たが百合はどこか違うよ。落ちぶれた俺なんかに涙を流してくれるなんて」


「だって! だって! 貴方は私の初めての初恋の相手だから」


 蓮はそれを聞いて困った顔をする。

初恋の相手に入れ込む人間は腐るほど見てきた。


 しかし、成就する人はあまり居ない。

それもこんな都会では尚更だ。


 彼女に初めて好きになってくれたのは嬉しいが、

自分は彼女を幸せにはできない。

もう俺には時間がないのだから。


 久しぶりに喋りすぎたせいか蓮の容体は悪化する。


「蓮!蓮!しっかりして」


 蓮は痙攣が止まらない。


 すぐに緊急オペが行われて

泣きながら百合はオペ室の前で祈り続ける。


 蓮は消えゆく意識の中で最期の遺言を医者に託す


「色々とありがとう。君の初恋の俺は君だけのものだよ。だから君の中で生きさせて...」

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