第5話 合わせた拳
バクは俺の空想世界。登場人物が何人いようが俺の1人遊びだと思っていた。
カミルも俺が想像しない限り虚空の一部に過ぎない。…そう思っていた。
しかしこうして生きていた。大地も空もそこにあるように、カミル・ド・ウェフダーは俺が設定した通り何千年も前から生きている。言葉通り化け物として…悪役として。
掛ける言葉が見つからない。
気まずいからなんて単純なものではなく、何から彼に話せばいいのだろうと。
謝罪なのか、反省なのか。どちらにせよ全てを話せば彼は俺を殺すだろう。しかし、俺には彼を生んだ責任がある。何をされてもどうこう言える立場ではない。だがそれで何が解決されるだろうか、いやされない。ただ彼に人殺しをさせる、悪役と言う肩書を更に自覚させるだけだ。
ならば俺が彼にできることは………たくさんあるじゃないか。
だって俺は…
「…少し話過ぎたな。私はこれで失礼する」
「なぁ、提案があるんだ」
今度は俺の声がこの静かな森に響く。去ろうとしたカミルは足を止め、その瞳で俺を捉えた。
「俺はカミル・ド・ウェフダーを、あんたを殺すことができる」
「…ふん。グリフォンごときも倒せない非力が何を__」
「できる」
真っ直ぐに見つめ、それを言い切った時。僅かにその瞳が揺れた。
「だがそれは今すぐではない。俺がこの世界にいる限りは叶えられないんだ」
事情を知らない者からしたら如何様を言っているようにしか聞こえないだろう。
しかしカミルは、静かに話のその先を待っていた。
「これから俺はこの世界の出口を探しに行く。でもあんたの言う通り非力だ。俺1人じゃグリフォンどころかスライムさえ倒せないだろう・・・だから俺の旅にカミル、あんたの力を借りたいんだ」
「非力と不死身。しかしその非力は不死身を殺せる…。どうだ?うまい話だろ?」
覗き込むように自信満々な顔を見せつける。カミルは数秒探るような間が空けた後、短く笑った
「あぁ、うまいな。うますぎる。そんな話誰が信じると?」
「だろうな。こんな話誰が聞いたって信じねぇよ。でもカミル・ド・ウェフダーを救えるのは俺だけで、俺を救えるのはカミルだけだ。」
意外だったのか一瞬驚いたように目を開いた。
今度はわざと冷やかす口調で浮かべた薄笑い。
「それとも何だ?まさか魔王カミルともあろう者が俺如きにすっぽかされることをビビってるわけじゃねぇよな?」
「戯け。貴様など指一本で事足りる」
「わかってるって。んじゃ、交渉成立だな」
並ぶように立ち上がり、その表情を見上げて、
「俺は斉藤千秋。足引っ張るなよ?」
口角をニッとあげて見せた。
「ギルド契約は交わさないのか」
「ギルド?んなまどろっこしい事は抜きにしよーぜ」
「俺達はギルドじゃない、仲間だ。男が交わした拳は契約よりも硬いってな」
拳を前に突き出しカミルを待ち侘びる。
「フ…ただの言葉遊びじゃないか」
お堅い顔はどこか楽しそうに笑い、不釣り合いな拳達がぶつかり合った。
「ッしゃー!ついに冒険が始まるのか…喜べカミル!俺が仲間になったんだ、大船に乗った気でいろ!」
「何なんだ、さっきからのその自信は」
「何でかって?そりゃ決まってる。何故なら俺は…」
膨らむ鼻と、より一層張る胸。
溢れんばかりの自信は俺の口から飛び出た。
「 作者だからだ! 」
晴れた空にはドラゴン達が飛び回る。それはそれは何とも冒険日和で。
隠して、作者と悪役俺たちの長旅が幕を開けたのであった____
作者のくせに【メグダッドスコア404】の最弱なので不死身の魔王を仲間にしてみた。~ 勝手に原作改変されたので意地でもこの世界を救ってみせます ~ @at_hiiragi
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