第108話 2歳半編⑲
王都。
そしてママ!
少し見ない間に、ママはとっても貴婦人的お嬢様に変身していた。
この世界としては、計算が出来るママ。
超直感型目利き力。なぜか良い物が分かり、大切なことが分かるママ。ほわほわしていて、あんまり考えるタイプじゃないけど、それがかえって商人としてすごいんだって。トーマさんが、ママを手放したくない、と大騒ぎするほどに、このママの直感力は魅力的、らしい。
この力が認められたこともあって、ママは史上最速でCランクの商人として認められた。うん。もうすでにカバヤなんかより優れてるって認められているんだ。
Cランクなら、商会を持てる。一から設立することができるんだ。
もし、王の証を手に入れることが出来なかったら、Cランクを使って新たな商会を作って、本当のナッタジとして商売をしてもいい、そんな風にリッチアーダ商会の面々は考えていたみたい。
でもね、僕らはちゃんと手に入れたよ。
そうして、今。
僕とママは、王城にいる。
この前王様と会ったみたいな会議室じゃなくて、りっぱな広い部屋。
両サイドには、この国の有名どころがずらり並ぶ。
ぽつりとあいた空間にはママと僕が跪いて頭を垂れている。二人とも王城に来るにふさわしい服を着せられていた。
僕らの後方2メートルぐらいの所には、騎士みたいな格好のゴーダンとセイ兄。僕らの従者として、ここにいる。
「
この声は宰相殿だね。
このときはまだ顔を上げちゃいけないんだって。
「くるしゅうない。面を上げよ。」
王様だ。
僕は、ゆっくりと顔を上げた。
「本日は、我がタクテリア聖王国トレネー領ダンシュタに拠点を置く、ナッタジ商会の会頭引き継ぎの儀を行う。異論のある者は、申し出でよ。」
宰相が朗々と響く声で告げる。
誰一人、物音すら立てない。
その静寂を是とした宰相は、王に向けて頭を垂れた。
王は、鷹揚に頷く。
「異論なしと解す。して、これにナッタジ商会の設立許可証を。」
商人ギルドの長より、その従者に魔法契約書が渡され、それを従者は、宰相近くに控えていた小姓に渡す。小姓が宰相へとそれを捧げた。
宰相は、王の前の大きめの演台のような所へと、その契約書を置き、王からよく見えるようにした。
「次に、商会会頭の証をこれへ。」
ママが、手にしていた印鑑を、側に来たゴーダンに渡す。ゴーダンがそれを小姓へ。小姓が宰相へ。宰相が演台へと印鑑を運ぶ。
「では、次期会頭、こちらへ。」
演台の前で、宰相はママに声をかける。ママは、立ち上がり、優雅なカーテシーをした。
ホォーッと、声にならないざわめきがわく。
フフ、ママ、きれいでしょ。
ママは、みんなの感嘆を気にした様子もなく、演台に近づき、再びカーテシーをした。
「片手を証書に、片手を玉印にかかげ、宣誓せよ。」
宰相が言う。
「我、ミミセリア・ナッタジは、王により賜りしナッタジ商会の会頭として、この国に、誠心誠意、富をもたらすことを誓います。」
ピカーン!
演台が宣誓を受けて、光った。
証書に魔法的文書が付け加わる。目には見えないけど、魔導具を通せば、今の会頭がママだと分かるんだって。あの印鑑を使った文書は、正式にナッタジ商会が契約したものとして扱われるんだ。
そして、今、このとき、誰からも文句は言わせない、正式にナッタジ商会はママの元へと戻ってきたんだ!!!
「ミミセリア・ナッタジ。よくぞ商会に戻って参った。」
王様が声をかけた。
場内がざわつく。
本来、締めの挨拶を宰相が許可して終わり。王様はせいぜい頷くのみ。だから、王様が直接、しかも名指しでしゃべって、みんなびっくりだ。これは、王様が特に気にかけている商人だよ、って公認してるのといっしょなんだから。
「そして、アレクサンダー・ナッタジ。」
え?僕?
余計に僕の名前なんか呼ぶのはおかしなことなんだけど・・・
そういや、僕がママと並んでここに跪いてること自体もおかしいか。こうするように、城側から言われてる、ってリッチアーダで言われたから、疑問も抱かずにここに来たけど・・・
僕は、「はい。」と小さく返事をするのが精一杯だよ。
「そう緊張せずともよい。さぁ、アレクサンダーいや、アレクよ、近う寄れ。」
え、えーーーっ
いやぁ、場内、変な感じになってますけど?
僕は、ちょっと、いや、かなりテンパって、おそるおそる前へ出て、ママと並んだ。
「もそっと近う。」
いや、この台の向こうは、もう階段じゃん。玉座へ登る階段しかないよ?
僕は助けを求めて、宰相殿に目を向けた。
宰相さん、軽くため息をついて、王様に言った。
「王よ、さすがに玉座は恐れ多過ぎまする。」
「そうか・・・」
王様、そういうと、ひょこひょこ、は言い過ぎか、堂々と階段を降りてきた。そして、引き気味の僕をひょいと抱き上げたんだ!
王様は、そうして、僕の髪を愛おしげに撫でながら、一歩前へと出、場内にいる人をゆったりと見回した。
「この子はアレク。アレクサンダー・ナッタジじゃ。どうだ。こんな美しい髪を見たことがあるか?まるで生きる宝石じゃな。この子は、そこにいるミミセリアの息子。そして、そこにいるAランク冒険者ゴーダンの見習い冒険者じゃ。この年で文武魔導、あらゆる才を発揮していると聞く。これから、ナッタジの後継として、また、有能な冒険者として名を馳せることになろう。皆もよく目に焼き付けておくとよい。我が国の至宝として、国を挙げて育てていこうぞ!」
一瞬、の間。
そして、わぁーーー、という歓声と拍手。
ちょっと待ってよ、王様。
僕、そんな目立つつもりなかったんだけど・・・
困惑して王様を見ると、ほとんどいたずらが成功したいたずらっ子の目で僕を見ている。
いやいや、そんな顔してる場合じゃないし。
僕の戸惑いすら楽しんでいる様子の王様。盛り上がっているその場を放置して、僕を抱いたまま、奥にひっこんだんだ。
しばらくの後。
僕は、王様のプライベート空間にあるらしい応接室で、王様に抱かれたまま、関係者一同と介していた。
王様、ママ、ゴーダン、セイ兄、リッチアーダのトーマさん、宰相さんに商人ギルドの長。
「して、これは何の茶番ですかな。」
怖い顔をしながら、まず口を開いたのは宰相さんだった。
「いやな、問題が山積みでのぉ。」
僕を撫でながら王様は言う。こうやってみんなが集まるまでに、何度も「おじいさま」と呼べと言われてたけど、絶対無理!
「それは存じていますが。」
宰相さん、どもってないで頑張って。
宰相さんと王様のとりとめもない会話を僕らはしばらく聞かされたけど、なんとなく状況は分かったよ。
僕というのはちょっと、というか、かなり微妙な立場に立っているみたい。
まぁ、簡単にいっちゃうと、そこそこエライ人に今まで会ってきちゃったんだけど、そういうエライ人に目をつけられては、なんとかつばつけちゃえ、みたいな人も増えている、らしい。前世の記憶持ちはそんなに珍しくないとはいえ、異世界はレアだし、エッセルのひいじいさんを知ってる人達からすると、その同じ世界の記憶を持って、エッセル氏の後継者として色々受け継いでそうな(こういうことは僕が言っても言わなくても分かる人達がいるようで・・・)僕をなんとか確保することで、今後優位に立とう、とする、と王様たちなんかは考えちゃうんだろう。
実際は、エッセルの後継者たる僕に親切にしたいだけ、というのが大半じゃないかな、なんて思ってるけど、どっちにしろ、僕がどこかの勢力に呑まれるのは王様たちには見逃せない一大事なんだって。今後はこの国を出て、別の国に僕がいっちやう、なんてことも気にしてそう。
そんなわけで、王様がたくさんの人の前で、僕を紹介することで、僕のバックは王様ひいてはこの国だから、誰も手を出すなよ、と言った、というのが真相だ、そうです。なんていうか・・・僕、そんな大物じゃないんだけどなぁ・・・
宰相さんが後でささやいたことには、エッセルの子孫の僕を見た王様は、僕を孫にしたいとごねたそう。親友の子孫を愛でたい、というか、僕を見て、よしよし、していたい、という欲求をおさえられなかったんだ、そうです。
本当かどうかは、もうどうでもいいや。
王様のおかげで、僕はどこかの貴族や商人に取り込まれるおそれはなくなったようです。
僕がママ大好きは、みんな知ってる。
ていうことで、この国にいる限り、僕とママの安全と幸せは、国王の名の下、保証されることになりましたとさ。
うん。
環境はすこぶるいいようです。
ママ、僕たち幸せになろうね。
《 完 》
************************************
最後まで読んでいただきありがとうございました。
「赤ちゃん」と言っていいのは何歳までか、は、いろいろ難しいところですが、とりあえず、私は3歳未満は許してね、と思いつつこの作品を赤ちゃん内に仕上げることにしました。
でも、ダーはまだまだ若い(当然だけど)。
てことで、続編書きます。
この作品とほぼ同時で始める『私のぼうや』
https://kakuyomu.jp/works/16816452220628138562
またまた、題名だけミミ目線です(笑)
そのうち題名は変えるかもですが、引き続きダーの冒険(5歳~)を見守ってくれると嬉しいです。
私の赤ちゃん 平行宇宙 @sola-h
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