「遅かったね」


「あなたの面影を探してた。いつもの、道で」


「おさんぽしてて遅刻か」


「ごめん」


「いや。いいんだよ。俺もさ。おさんぽしようかなって。ちょっと思ってしまったし」


「そうなの?」


「うん。横断歩道とか、CDショップとか、公園とか。君のいそうなとこに行って、君を探したい。会って手を繋ぎたい。そう思った。がまんしたけど」


「がまんできたんだ。すごい」


「このときのためだよ」


 ふたりだけの教会。扉の前。中には司会進行用の神父さんだか牧師さんだかわからないひとが、ひとりだけ。


「手を」


「うん」


 ひとりぼっちの左手。彼が繋いで。そして離れる。

 さっきまでなかった指輪が、わたしの左手で綺麗に光っていた。

ぎゅっと、こぶしをにぎる。まだ泣いちゃだめだから。誓いのキスまで、泣かない。そんなわたしを見て、彼がちょっと笑ってる。


「さあ。結婚式をはじめようか」


「うん」


 もういちど手を繋いで。離さないように。

 歩き出した。

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最後の道程 春嵐 @aiot3110

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