最終作戦 悪戯囃子
エピローグ
病院の一室、花瓶の花を生け終えると、ルーチェは父であるルシファエラの方を見た。リハビリの経過は順調で、早ければ来週には退院できるそうだ。
ルーチェも怪我こそしていたが、人間として驚くべきほどの速度で回復し、たった一日で退院した。それについて、もう悩むこともへこむこともなかった。
「少し見ない内に大人になったな。ルーチェ」
ケガの治りが早いことに、自分が人ではないと泣いてしまっていた頃とは大違いだ。それに、前より周りをよく見るようになったし、気が利くというよりも、しっかりしていた。
「え? そうかな……?」
「身の回りのこととか、なんだかしっかりしているし、ママに似てきたよ」
母に似ていると言われれば、少し照れたように頬をかいたが、身の回りのことがしっかりしてきた理由にすぐに心当たりが見つかり、なんとも言えない表情になる。
怪人の大量襲撃の後、ルシファエラのこともあり、ルーチェはヴェーベにしばらく残ることにしたのだが、残るならと護衛の延長として、あの五人の家に泊まっていた。泊まって数日で、自分のことは自分でやらなければ大変なことになると気がつき、自然と家事などが身についていた。
そんな娘の嬉しいような、嬉しくないような表情に、ルシファエラは首をかしげたが、「なんでもない」と言われ、なおさら首をかしげた。
「じゃあ、今日は帰るから、また明日ね」
「あぁ。これから、拓斗君のところにも行くのか?」
「うん。みんなも来るから」
「そうか。いってらっしゃい」
「いってきます」
ここ数週間、拓斗は入院していた。能力者の本来の外皮にあたる鎧が、ほとんど溶け、その上、体の表面もいくつか溶け始めており、回復には少し時間がかかっていた。
とはいえ、すでに動き回れるくらいには回復しており、明日か明後日には退院予定だ。そのおかげで、
「いない……」
病室にいないことが大半だ。最近では、医師や看護師にすら説教されているところを見かけることがよくある。
病室を見渡せば、拓斗以外にギターも消えていた。
「スターと煙は高いところが好き」
すっかり慣れてしまった答えに、ルーチェは拓斗のいる場所へ歩きだした。
***
「だーーッ! もうッ! なぁーにが、依頼が完了してないなら、『月一依頼規約』に反しますね。だ! ただの屁理屈じゃねェか!」
遼太がうすら笑いを浮かべていた受付の顔を思い出しながら、叫んでいると赤哉が苦笑いになる。
「普段はその屁理屈で無理を通されてるから、仕返しじゃないっすか?」
振り返った鬼に後悔しても、もう遅かった。捕まった赤哉を潔く見捨て、桃太が蒼哉に聞く。
「でも、今回の先輩たちの活躍って、十分特A級になってもおかしくないよね? ランキングも順位が少し上がってるくらいだったけど」
「結果だけならそうなんだけど、色々アウトなこともやったからね」
「あ、やっぱアウトだったの?」
木在が、帝国本土でやったことを思い出しながら聞けば、蒼哉にすぐに頷かれた。
「一応、結果善ということで、グレーゾーンでうやむやにしたみたいです」
「それで、プライマイゼロ」
木在が納得していると、白菜が大きなため息をついた。
「おかげで、私たちもペナルティついでに、先輩たちの依頼を手伝えって話になるし……」
仕方がなかったとはいえ、本当に一般人を洗脳していた白菜は、どっちにしろ処罰される身ではあったのだが、そこは怜子が説得したという。
そして、罰として、復興の尽力、依頼を受けることになったのだった。しかし、まだ高等教育期間である蒼哉たちだけで依頼を受けることは許されないため、遼太たちが引率を引き受けていた。
「まぁまぁ……なぜかおっちゃんが俺ら指名で、めちゃくちゃ簡単な依頼してきてくれたから、よかったじゃん」
「お土産ももらった」
何故かサザエをくれた船長に、全員が首をかしげるが、確かに漁や農業の手伝いをすると採ったものを分けてくれたりすることもある。きっとそれなのだろうと、納得していると、おもむろに木在が持っていた袋を持ち上げる。
「栄養も考えて、野菜も買ったしな」
「いや、それ、絶対、嫌がらせですよね……?」
白菜が眉を寄せるのも仕方がないことだった。木在が持つ袋に入ったそれは、トマトバイキングと書かれた小さなパックに詰められた黒と緑色のミニトマトたちだ。
「大丈夫。もうあのトマト、定番だから」
「確かに、最近赤いトマトって見かけないよな。トマトっていえば、緑か黒かみたいな」
「なに言ってんだよ。トマトは元々緑だろ」
赤哉いじりを終えたのか、遼太が会話に戻ってくれば、後ろでは赤哉が頬をさすっていた。
「もうこの恨みを拓斗さんにぶつけてやる……」
「うわぁ……拓斗恨まれてるぅ……」
「「「乗った」」」
和樹、木在、遼太の声がキレイに揃った。
「こういうの一番に乗るのは先輩たちですよね……私もやります」
「なんだかんだ、味方が最大の敵ってのは、どこ変わらないのかな? で、何仕掛けます?」
「やる気マンマンだね……二人共……食べ物を粗末にしない方向でお願いします」
「……」
二人になにを仕掛けてやろうかと、そんな話が弾み始めたところで、和樹がふと顔を上げた。
「上からギター弾いてる音が……」
全員、見上げるもののさすがに屋上までは見えない。
「「「「「「「「
八人の声がキレイに揃い、笑いがこぼれた。
Aコードコンチェルト 廿楽 亜久 @tudura
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