お出掛け──①

 午前11時。

 俺は珍しく1人で駅前の広場にやって来ていた。

 そう、今日は彩香とお出掛けをする日だ。

 美南は家で留守番中。「兄妹水入らずで!」と送り出してくれた。

 美南の作ってくれた料理のおかげで気力、体力共に回復したし、今日は思い切り楽しませてもらおう。


 待つことしばし。

 ぼーっとしていると、遠くから1人の女の子が走ってくるのが見えた。

 すれ違う誰もが振り返り、熱のこもった視線を向ける。


 赤茶色の地毛はポニーテールではなく、下されて緩いウェーブを掛けている。

 いつもキリッとしている顔はうっすらとメイクがされていて、柔和なできるOL感を醸し出している。

 肩あきでベージュ色のトップスに、黒い七分丈のパンツ。黒いパンプスを履き、肩からは革製のショルダーバックが下げられている。


 正直、目を見張ってしまった。

 彩香がこんなオシャレな恰好で決めてくるとは思わなかった。

 いつもだったら、ティーシャツにジーパンのラフな恰好なのに。

 あぁ、美南に服を選んでもらってよかった。

 いつも通りだったら、俺もちょっと気を抜いた服で来てたところだったし。



「兄さんっ、お待たせ……!」

「いや、待ってないよ」



 少し息を弾ませて、笑みを見せる彩香。

 こんなにオシャレしてくるなんて、彩香も大人になったんだな。

 少し前まで俺の後ろをついてくる子供だったのに……。



「彩香」

「な、何?」

「似合ってるよ」

「ふぇ!? ……ずるい」

「何が?」

「なんでも! そんなに気軽にそんなこと言っちゃダメだよ!」

「彩香と美南くらいにしか言わないけど……」

「うぐ……ふんっ」



 えぇ。なんでいきなり不機嫌に……?



「……その……兄さんも、似合ってる。……かっこいいよ」

「おう、サンキュ」

「なんか慣れてるみたいでむかつく」

「家出る前に、美南に死ぬほど言われたからなぁ」



 服も選んでもらったし、髪もセットされた。

 確かに鏡で見ると、今の俺は俺っぽくない。

 それなりに筋肉も付いてるし、どっかの売れないモデルくらいには整ってると思う。



「やれやれ。兄さんは姉さんにベタ惚れだね」

「じゃないと絶叫祭でプロポーズなんてしないって」

「言えてる。……でも今日は、私の兄さんに戻ってもらうからね」



 と、するっと俺の腕に腕を絡ませてきた。

 ちょっとドキッとしたのは内緒だ。

 だって妹とはいえ彩香は従妹。しかもこんな美人に腕を組まれたら、そりゃ心臓のひとつやふたつ高鳴るって。


 い、いかんいかん。彩香は妹同然に育ってきた仲だ。そんな不埒な目線で見ちゃダメ。

 彩香だって、「私の兄さん」と言っていた。それはつまり、彩香は妹だという自覚があるということ。


 変なこと考えるなよ、俺。



「おう。じゃ、行こうか」

「うんっ」



 満面の笑みを浮かべる彩香と駅に向かう。

 今日は彩香のおねだりで都市部に出てショッピングをすることに。

 学校では見せないニコニコしている彩香と共に、電車に乗っていった。



   ◆美南◆



「……行きましたか」



 どうも、ルパンの生まれ変わりと名高い変装名人こと、美南ちゃんです。

 現在私は、ショートヘアのウィッグを付けてサングラスを付けています。いわゆる変装です。

 街中でも怪しまれない程度の変装をして、裕二君と彩香ちゃんを追いかけています。


 べ、別に裕二君たちを信用してないってわけじゃありませんよ?

 ただ、その……やっぱり妻としては、旦那様が別の女性と二人きりでお出掛けするのは不安といいますか……。


 裕二君がとても誠実さんで、私を愛してくれているのは知っています。

 でもそれとこれとは話は別ですっ。嫉妬ですっ。

 だってしょうがないじゃないですか! 乙女心は複雑なのです!


 ……それにしても、近くないですか? いつもあんなに近かったでしたっけ?

 あ、でも裕二君、とてもお兄ちゃんの顔をしています。

 私を見るときとは違う、妹ちゃんを見守る優しい顔です。その点は安心しました。


 とにかく今日は尾行に徹します!

 長年裕二君をストーキングしてきたスーパーテクニックで、ばれずに見守っていきますよ! えい、えい、むん!

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ド田舎の珍祭り【絶叫祭】で「結婚してくれ」と叫んだ結果 赤金武蔵 @Akagane_Musashi

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