第14話 その女、悪女

 夏休みが終わって、少しずつ涼しくなってきた頃、席替えで舞子ちゃんと隣になった。正直、小学校の頃の席などほとんど覚えていないが、今回のようにクジで決まるような、人為の介入しない席替えは1周目と同じ結果になると考えられる。

 こうして運命に導かれるままに、再び隣同士になったのだが、前回のような喜びはない。というのも、1周目では気づかなかった、羽鳥舞子の本性に薄々気づき始めているのである。

 最初にそれを感じたのは、とある女子がヒロのことを好きだという話題に対し、「あの子が浩くんは身の程知らずじゃない?」と言っていたときだ。私は耳を疑った。確かにヒロはいわゆるカーストトップであり、その女の子はメガネをかけた少し地味な子である。このことは、まあ女子だしそういう話もするか、と思って過ごしたのだが、そのようなことが、その後何度か起きた。あの子が臭いとか、あの子に触られたとか、そんな話ばかりしているようだ。聞き耳を立てているとはいえ、直接話しているわけではないのにこんなに耳に入ってくるのは、少し言い過ぎなのではないだろうか。

 極めつけは、ある女の子が教室にいないとき、その子の筆箱を汚物かのように扱いながら仲間内で回しているところを見たときである。そのとき、自分の中の羽鳥舞子の像が崩れた。彼女は中学は私と違うところに行く。そのため、小学生の純粋で、都合のいいところしか見えない目で見た、彼女しか記憶になかったのである。

 さらに印象の悪いことに、男子にはすごい媚びろのである。そして、ただ媚びるのではなく、うまく利用するために媚びているように感じる。ある男子に対し、力がありそうだと褒めていたのを見た後に、彼女が運ぶはずの給食のご飯を褒められた男子が運んでいるのを見たときは、うまく誘導したのだろうな、と思わずにはいられなかった。ただ、康平には媚びないようで、最初は嫌な奴だからかと思っていたが、どうやら彼女も澤井保育園の出身らしく、結構昔から康平とは知り合いの関係のようだった。

 突然だが、この学校では、毎週決められた時間割というのはなく、毎日先生の発表する、次に日の時間割を各自の時間割表に書いくという制度がとられている。今日も例外でなく、そうしていると、舞子ちゃんが話しかけてきた。

「わぁ~、正也くんって字が上手なんだねぇ。」

「……うん。まあね。」

 1周目では書道を習っていたこともあり、字は比較的上手だった。しかし、今はそんなことはどうでもいい。出たよこいつ。媚びてきやがった。ということばかり考えている。

「書道とかってやってるの?」

「ううん。やってないよ。」

「え~、すごーい。それなのにきれいなんだね。」

「うん。ありがとう。……ところでさ、舞子ちゃんは時間割書かなくていいの?」

 私は勘付いた。褒めて褒めて字を自慢させたくして、自分の時間割まで書いてもらおうという作戦だろう、と。

「今から書こうと思ってたけど、正也くんの字すっごいきれいだから私のも書いてくれない?」

 結構直球で来たな。というか、理由付け適当すぎないか?まあ、当然ここは断る。

「いやだよ。自分で書いて。」

「え~、私の時間割表に正也くんのきれいな字があると嬉しいんだけどな~。たまに見返したくなるかも。」

「二人分も書くの面倒だから、自分で書いて。」

「……そう。やっぱ自分で書くよ。」

 うわ、豹変した。一気に冷たくなったな。少しビビってしまった。

 今思い返してみれば、1周目では彼女に媚びられて、利用されていたにも関わらず、それをコミュニケーションと捉えてしまっていたのかもしれない。小学生の私はそれで堕ちたかもしれないが、今の私は顔がいいだけの女には惚れたりしないぞ。

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人生やり直しボタンを手に入れたので、死ぬ間際に押します。 ジョー @Joe-3

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