第13話 完璧な人間に
3年になって、学校の図書室が教室から近くなった。それに伴い、図書室に行く回数も増えた。とは言っても、特になにか本を読みに行くわけではない。雨の日の昼休みなどに遊びに行くだけである。
私はほとんど本を読まない。3年になったときは、図書室が近いこともあり、知識をためるために本を読もうと考えていた。特に物理の分野は1周目に専攻していたこともあり、今回はその道である程度の成果をあげようと幅広く勉強するつもりであったが、小学校の図書館にはそんな専門書は置いていなかったのである。精々、小学生向けに分かりやすくした車や発電所の仕組みなど、その程度である。そんなものは既に知識として持っている。
小説もやはり小学生向けのものばかりである。やたらにキャッチーな表紙に冒険や恋愛といった、子供向けのものばかり。大人も読めるような名作もいくつか置いてあるのだが、そもそもそんなに小説は読まない。
そんな私が気に入ったのは、ごちゃごちゃした写真の中から、指定された物を見つける、という絵本である。これが面白いのだ。老人のツボに入った。見つけた瞬間の喜びが何とも言えない快感なのである。しかも、同級生もだいぶ気に入っている。小学生から老人まで楽しめる素晴らしい本である。この本と出会えただけで人生をやり直した価値があるってものだ。
ただ、この本には問題点がある。朝の読書の時間に読めないのである。この学校は、生徒に読書の習慣をつけさせるために、朝に読書の時間を15分取っている。そして、多くの教師が写真だけが載ったような本を「読書」とカウントしないのである。まあ、もっともであろう。
かといって、先にも言ったように小説を読む習慣など、私にはないので、図書室に置かれている漫画を読むことにしているのである。漫画も絵の比率が文字に比べてだいぶ大きいのだが、一応「文字を読んでいる」ことと、「図書室に置かれている」ことからグレーゾーンの扱いを受けているのである。図書室に置かれているだけあって、それらの漫画は大作ばかりだ。いやはや、読んでみると面白い。ありがとう手塚先生といったところか。
それはともかく、最初の目論見の、今のうちに知識をつけておくというのは実現していない。この長い6年間、ただ小学生向けの教育を受けるだけではどうももったいない気がするのである。
知識をつけるのが難しいと分かった今、経験を積む方向にシフトすることになった。具体的に何をするかというと、ピアノを始めることにした。
1周目で人並みに音楽に触れてきて、思ったのは、ピアノは音楽の基本だろう。ということである。はっきり言いきらないのは、その道に詳しいわけではないからである。しかし、この説にはちゃんと根拠が存在する。まず、子供に習わせる楽器の筆頭としてピアノがある。いきなりドラムから、ギターから、トランペットから始めさせる親は少ない。それはきっと、音の高さやリズムなどの感覚的なものを刷り込むのに最適だからだと判断した。そして、私は1周目では結構ロックを聞いてきたのだが、有名なロックミュージシャンはほとんどみな、ピアノも弾けるのである。おそらくこれは他のジャンルでもそうなのだろう。ピアノといえば、クラシックとかの人間のイメージがあるが、それと反対のイメージのロックミュージシャンも弾くというのは、すべての音楽の根幹にピアノがあるといっても過言ではないのでは……?と思ったこともある。
そういうわけで、ピアノを始めたのだが、これがまた難しい。まず、手が小さい。鍵盤も手に合わせてほしいものだ。さらに、両手が同時に動かない。私の手は2つあるが、脳は1つなんだぞ。無茶をさせるな。そして、楽譜を覚えるのが大変だ。一応、ピアノに立てて見ながら弾くこともできるが、楽譜をガン見すると手が動かなくなる。手に集中するためには楽譜をある程度暗記する必要がある。だが、ピアノの発表会に出たときには、私よりもっと小さい、幼稚園児くらいだろうか、そんな子でも小さな両手を起用に使って、なにやら難しげな曲を立派に弾いていた。私の主張はあくまで泣き言の域を出ないということか。
聞いた話によると、3歳までにピアノを始めないと絶対音感は獲得できないとか。6年遅かったか。新しい人生を始めて9年。もう、1つの後悔が生まれてしまった。
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