第12話 勧善懲悪
また1年経ち、小学3年生となった。小3のクラスは2組で、結構楽しかった記憶がある。というのも、祐作とヨッシーも同じクラスで、さらに
舞子ちゃんは簡単に言ってしまえば、私の小学生時代の好きな子である。とは言っても、舞子ちゃんはかなり顔が整っており、小学生時代から人気のある子で、私は完全な片思いであった。しかし、席替えで隣同士になったこともあり、結構仲良くした記憶があるので、やはり3年生は楽しかった。
それに加え、ヒロもいる。前回はただの一クラスメイトであったが、今回はちゃんと友達である。ただでさえ居心地の良いクラスに、さらにもう一人友達が加わったとなったら、きっと、もっと楽しいだろう。
ただ、このクラスには康平もいる。それだけがこのクラスの難点である。私は1周目のとき、こいつに筆箱を隠された。筆箱がなければもちろん授業が受けられないので、先生に言い、一緒に探してもらったのだが、結局下校まで見つかることはなかった。それが親にも伝わり、そこそこ大きな問題になってしまったのだ。親に「いじめられてるのか?」と聞かれたときは、なぜかすごく胸が痛かった。きっと、心配させてしまったのが嫌だったのだろう。後日、康平が私の筆箱を持っていたという話をヨッシーから聞き、勇気を出してそれを先生に言って調べてもらったところ、本当に康平の机に入っていたのだ。私は、もし今回同じ事件があれば、迷わず彼を疑うだろう。
その年の6月、事件は起きた。昼休み明けにヨッシーが話しかけてきた。
「ねえ、正也くん。僕の筆箱がなくなっちゃったんだけど……知らないよね?」
その声はわずかに震えていた。誰かに隠されたということを薄々感づいているのだろう。
「いや、俺は知らない。とりあえず5時間目は俺の鉛筆と消しゴム使っていいよ。2個あるから。」
「うん……。ありがとう。」
「授業終わったら一緒に探そうな。」
私の経験から、ヨッシーもおそらく大事にはしたくないのだろうと、先生に報告に行かせるのではなく、自分の筆記用具を貸した。
康平は狡猾な奴だ。自分より下の奴しかいじめようとしない。今回の私は、サッカー少年団に入ったことや、ヒロと友達であることなどの理由からスクールカースト上では、康平よりも上である。そのため、私ではなくヨッシーの筆箱を隠したに違いない。
彼が「私の代わりに」犠牲になったこと、前回は彼の助言により筆箱を発見できたこと、何よりも彼は友達であること。これらの理由があるから、私は絶対に今日中に彼の筆箱を取り返すと決めた。
授業が終わり、私は祐作、ヒロ、ヨッシーの三人を集め、ヨッシーの筆箱が盗まれたこと、おそらく犯人は康平であること、そしてそれを取り返す作戦を伝えた。
作戦はこうだ。まず、この4人で康平に話しかけ、ヨッシーの筆箱が隠されたことを伝える。そして、一人一人に持ち物を確認させてもらっていると嘘をつき、机の中を見る。これで無事に見つかればいいが、犯人が違った場合が厄介だ。本当に一人一人確認しなくてはならない。そのため、教室掃除の私が康平の机をあらかじめチェックすることにした。
掃除が始まった。机を移動させるタイミング、この時に周りを見渡し、誰にも見られていないことを確認し、康平の机を覗き見る。ビンゴだ。確かにヨッシーの灰色の筆箱が入っている。下準備は完了だ。
各場所の掃除が帰ってきて、帰りの会が始まる前、4人で康平の机の前に行く。
「ど、どうした?」
「ちょっとね、ヨッシーの筆箱がなくなって……」
「お、おれは知らねえよ!?」
「いやいや、今みんなの持ち物を調べさせてもらってるんだ。」
「康平くんも見せてくれる?」
「おれ荷物いっぱいあって見るの大変だし、それ全部しまわなきゃならないから忙しいし……他の人の先に調べて来いよ。」
よくもこうペラペラと言い訳が出てくるものだな。
「大丈夫。すぐ終わるから。」
「しつこいぞ康平。いいから早く見せろ。」
「……わかったよ。ほら、ランドセルに入ってるのは体操着と給食着と給食セットくらいだろ。こいつの筆箱なんて入ってねえから他のやつの見てこいよ。」
「ランドセルには確かに無いな。次は机の中見せてくれ。」
「はっ、はぁ?もういいだろ、ランドセル見せたんだから。机の中はいろいろ入ってるから勝手に見んなって!」
「ヒロ、こいつ押さえるぞ。」
「おう。」
「ちょっ、放せって!」
あまり騒がれると面倒だから、こいつの口を押さえる。
「おい!祐作!机見てくれ!」
「うん!」
「んー!んんー!!」
ヨッシーの筆箱は、机の左側からあっさり見つかったので、私たちは康平を放した。
「なあ、ヨッシー、これで間違いないな?」
「待てよ!それおれの筆箱だって!机の上にもあるけど……色ペンが入りきらなくて、もう一つ持ってきたんだ!」
「へえ、色ペンか。なあ、この中には何本の色ペンが入ってるんだ?」
「え、えと、3本入ってる……。」
「なあヨッシー、ヨッシーの筆箱にはいくつ入ってる?」
「ぼ、僕は1本で4色使えるやつだけだよ。」
「祐作、それ開けて確かめてみてくれ。」
「うん。」
ジー。
ジッパーを開けて、机の上に中身をすべて出す。出てきたのは鉛筆5本に消しゴム1個、サインペン1本、普通の定規1本、三角定規セット。そして、4色ペン1本。
「ああ、これは確かにヨッシーの筆箱だな。」
「しかも、筆記用具すべてに『加藤義春』の文字がサインペンで書かれている。」
「疑いの余地はねぇな。じゃあ、この筆箱はヨッシーに返してもらう。二度とこんなことすんなよ。」
「正也くん、ありがとうね。」
「いいよ、これくらい。」
「それより4色ペン、便利そうだな。」
「うん!これはね、駅前の本屋さんで買って――。」
なんだか、この力を正しく使えた気がした。
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