第46話和菓子屋、明日も営業予定
良いことも悪いこともあるけど、私たちは明日も生きていく。
私の店の前で、しぐれたちは待っていてくれた。
輪入道の車から出て、私の姿が見えた瞬間、しぐれは泣き崩れてしまった。
慌てて駆け寄ると「急に居なくならないでください……」と私に抱きついてくる。
「馬鹿、馬鹿! 私がどれだけ心配したと……」
「ごめんな。帰りが遅くなって」
「酷い人です……」
それからたくさんのごめんなさいと、たくさんのありがとうを言って。
ミケに小言を言われて、コンに首絞められて。
それからアリスを紹介して、みんなに受け入れてもらった。
アリスは初め、私以外に人見知りだったけど、ゆっくりと仲良くなった。
店もなんとか再開して、常連客や応援してくれる大学の教授も訪れるようになって。
少しずつ、元の生活に戻ろうとしている。
それから春になって。
暖かな季節が始まった五月。
「アリス。もうすぐ登校の時間ですよ。班の皆を待たせてはなりません」
「はあい……ふああ、眠いなあ」
アリスは髪を梳かしながら、リビングへ下りてきた。
悪五郎に頼んで、戸籍を作ってもらい、地元の小学校に通っている。
トイレの花子さんなどの学校の怪談とも仲良くなっているらしい。
「友哉さん、店の準備は出来上がっていますか?」
「ああ。もちろん。ミケ、商品をショーケースへ」
「分かったにゃん。綺麗に並べるんにゃん」
ミケは商品のケースを持って、店のほうへ向かう。
コンはアリスの隣で油揚げを食べている。時々、アリスの学校に隠れて行っているようだ。
あれからも妖怪たちは店に来ている。
砂江さんや変化した河童などは常連客だ。
店が休みのときは、海で釣りをする。そのとき、海坊主や船幽霊と一緒になることもある。
慌ただしい毎日だけど、家族やお客さんのおかげでやりがいもあり、元気に楽しく過ごしている。
そして最近、嬉しいことがあった。
「ゆっくりしなさい。大事な身体なんだから」
「ええ、ありがとうございます。友哉さん」
しぐれの身体に新しい命が宿った。
私と彼女の子だ。
「この子が大きくなるときは、人と妖怪はどのような関わりになっているのでしょうか」
窓から見える晴れの空を眩しそうに見上げるしぐれ。
私は隣に座って「何も変わらないさ」と答える。
「妖怪と出会って、分かったんだ。人がどんなに変わってしまっても、それに合わせて妖怪は生き続ける。決して居なくならない」
「……そうですね」
しぐれも頷いてくれた。
そのとき、店のドアベルが鳴った。
「お客さんですよ、友哉さん」
「ああ、行ってくる」
私は今日も明日も店を営む。
人と妖怪と交わりながら生きていく。
私にできることは、和菓子を売ることだけど。
それが世界に少しでも良い影響を与えてくれたら嬉しい。
「お待たせしました。ようこそ、いらっしゃいませ!」
柳友哉のあやかし交幽録 橋本洋一 @hashimotoyoichi
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