第69話森島さんとデート?~後編~
そのまま歩いて近くの公園のベンチに座る。
「いやー暑くなってきましたねー」
「もう六月も中旬だしな」
「年々暑くなってきますよねー。実は私、田舎に住んでいたので、こっちにきた時びっくりしましたよー」
「へぇー 意外だな。都会の女の子って感じに見えるし」
「なら良かったです。これでも努力はしましたからねー」
「涼しいところだったのか?」
「東北の方ですね。何もなくて、つまらないところでしたよ」
「ということは、大学でこっちに?」
「はい、無理を言って……私も、あまり両親と上手くいってないんですよ」
「それも意外だな。特にそういう要素が見当たらないが」
「やっぱりそうですよねー。ただ、私って可愛いし、空気を読むのが上手いんですよー」
「そこまでいくと清々しいな……まあ、そうだろうね」
可愛いのはもちろん、空気を読むのは抜群に上手い。
欲しいなと思ったタイミングでお茶を出してくれるし。
「両親には良い子だ、可愛いって育てられましたね。一人っ子ってこともありますけど……まあ、そんな両親も離婚しましたけどね」
「それは……」
「別に気を使うことはないですよー。今時珍しくもないですし、会社にも知ってる人はいますし。両親はいわゆるラブラブカップルでして……それが冷めちゃったんでしょうね」
「そっか……それで、こっちにきたのか?」
「まあ、そんな感じですかねー。高校生くらいの時に空気を察知して、これはもうアレだなと思いまして……地元から離れた大学を受験しましたね。親権は母親ですが、父親がお金は出してくれましたから恵まれてますけど」
「なるほど……考え方次第か」
「水戸先輩はどんな感じですか?」
「まあ、母親や姉貴とは仲は悪くないかな。ただ……父親とは、ほぼ絶縁状態だな。大学の学費も自分で払ったし」
「それはきついですね……ただ、兄弟姉妹がいる人は良いですよー」
「確かに、姉貴がいなかったらと思うと……家庭は崩壊してたかもな」
母親は悩みを相談できなかっただろうし……。
俺も行くあてもなく、どこかで倒れていたかもしれない、
「結婚とか、家族とか難しいですよねー。だから私は、普通の人と結婚がしたいんです」
「普通……何をもって普通とするんだ?」
「あぁーそこですよね……好きすぎる人は嫌かもですねー。ラブラブとかイチャイチャするのも……いい意味で普通というか、落ち着いた感じですかね?」
「ああ、そういう意味か。それは、両親を見たからかな?」
「ええ、そうです。気持ちなんて永遠に続くわけがないんですよー。いや、もちろん全否定はしませんよ? ただ、その可能性は低いですから。だったら、最初からそういう人を選べば良いかなと……どう思います? 私の考え方ってダメですかね?」
……これが相談内容か。
男目線の意見が欲しいってことだよな。
「うーん……難しいなぁ。俺も母さん離婚したら良いのにって思ってるし……ただ、その考え方は否定しないかな。要は、お互いの距離感を大事にするってことだよね?」
「そうですっ! 干渉し過ぎずに、適度な距離を保つんです」
「後は、自分の時間とかを大事にするとかかな?」
「わかってますねー、水戸先輩。水戸先輩も干渉されたくない感じですか?」
「どうだろう……? ゲームとか小説を読んでいる時は邪魔されたくないかもな」
「私も漫画とか読んでいる時は嫌ですねー。もう! 今いいところなのにっ!ってなります。そしたら男の人が言うんです! そんなこといいからイチャイチャしようぜーって……今じゃない!」
「お、おう……苦労したんだな」
「あっ——私としたことが……すみません」
「いや、気にすることないよ。その考えは理解できるし」
「ふむふむ……これなら……」
「うん?」
「いえいえー、相談に乗ってくれてありがとうございます」
「いや、大したこと言ってないけど……」
「そんなことありませんよー。良い収穫がありましたから」
「なら良いけど……」
よくわからないが、笑顔になったからよしとするか。
その後も話していると……。
「あっ、もうこんな時間ですねー」
時計を確認すると、五時半を過ぎていた。
「じゃあ、帰るとするかな。森島さんは電車かな?」
「バスですよー。あそこから乗れます。ここから私の家近いので」
「良いところに住んでるなー。都内に住めるとかすごいな」
「もちろん、渋谷じゃありませんよ? 少し都内から出ます」
「なるほど、俺と同じパターンか」
「なんなら……私の家に来ます?」
「へっ?」
「ふふ、冗談ですよ。ではではー」
そう言い、森島さんはバス停に向かった。
「やれやれ……完全にからかわれているな」
しかし、そんなに悪くない気分だ。
話してても楽だし、嫌な気分にならない。
おそらく空気を読むのが上手いことも一因だろう。
人が不快になるラインを超えてこないというか……。
その塩梅が絶妙なんだと思う。
「多分だけど、一緒に暮らしたら楽なタイプだろうな」
相手は誰か知らないが、俺はそんなことを思うのだった。
地味な平社員の俺、何故か美人上司に迫られる おとら@五シリーズ商業化 @MINOKUN
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