Ⅷ-③

流刑ドーム コントロール・ルーム――


 転送装置が動き出したのを、モモは見逃さなかった。


「来たわね? 驚くぞぉ? ククク」


 転送が終わったようだ。


「おう、ただいま母さん!」

「お帰りなさい! 薫、みんな!」

「だだいまっス!」

「お母様、只今帰りましたの」

「静流ぅ……静流ぅ」


 それぞれがモモに挨拶をしたが、忍だけ体育座りでウジウジしている。

 すると、聞き覚えの無い声が聞こえた。


〈おかえりなさいませ、皆様〉


「おい、ワイズマンがしゃべってるぜ?」

「この声、聞いた事あるよな、最近」

「マキシ・ミリア様が言ってた、『箱』って、まさか……」

「どう言うこった、母さん?」


 みんなの思惑通りの結果だったらしい。


「つまり、ワイズマンにシズルカが幽閉されている、と?」

「そう言う事みたいよ。マキシ・ミリア様からビジョンが届いてるわ」



              ◆ ◆ ◆ ◆



 一服したのち、薫たちは女神からのビジョンを再生した。


〔皆さん、御機嫌よう。マキシ・ミリアです。この度のアナタたちの行いに、『女神機関』は大変感謝しています〕

〔ついては、そちらのスパコン『ワイズマン』に、シズルカの神格を【受肉】させました。シズルカとて腐っても女神。皆さんの今後に、大いに役立つでしょう〕

〔また、サポート要員として、そこにいる者たちを使って下さい。それでは御機嫌よう。シズルカのお隣さん、マキシ・ミリアがお送りしました〕


 ビジョンを見終わった一同は、


「やけに『お隣さん』を強調するな。嫌味か?」

「つまり、女神様ゲットォォ! ってヤツだな」

「そうみたいね。解釈を変えると、厄介者を押し付けられたとも取れるわね?」

「アニキ、サポート要員って、何のこった?」


 などと話している。すると、


「えー、皆さん、私と右京は、何でこちらにいるのでしょうか?」

「左京さん、何でアンタがココに?」


 左京は要領を得ない様子で、薫たちを視ている。

 ちなみに右京は、目がハートマークになったまま、意識が飛んでいる。


「ご説明して頂いても?」

「恐らく、『女神機関』が派遣したサポート要員って、アナタたちのようね?」


「へ? うぇぇぇぇ!?」

「はひぃ、静流様ぁ……むにゃ」

 

 左京は盛大に驚き、右京はまだ夢見心地であった。



              ◆ ◆ ◆ ◆



 薫は、今回のミッションを簡単にモモに説明した。


「結果的に穂香を護れたんだから、結果オーライってヤツだろうよ」

「まあ、オイシイところは、ほとんど静坊がもっていった感があるよな、アニキ」

「ふうん。静流がね。男を上げたわね」

「母さん、アイツとちょくちょくやり取りしてるってホントか?」

「砂嵐が発生してないとか、条件が揃った時に、オシリスちゃんを触媒に何度かやり取りしたわ。あ、面倒だから、忍ちゃんには内緒ね?」

「オシリスまで……アンタなぁ、そう言うの早く言ってくれよ」

「で? 穂香ちゃんを連れて来るって約束したわけ?」

「ああ。必ず連れて来る!」

「難しいわよ? 一度関わってしまった世界線だからね。『矛盾』が生じてるし」

「んなこたぁ、わかってる!」

「ふぅ。早速、ワイズマンに頑張ってもらうか」 

 

 モモは溜息をつき、また面倒事が増えたと首の後ろを搔いている。

 どうもあの癖は、母親からの遺伝だったらしい。



「薫? それで今回の戦利品は?」

「【武器召喚】って魔法で、みんな自分の武器、ゲットしたぜ!」

「そう。それは今後に役立つわね。他には?」

「あとは、そうだな……」


 薫は上着のポケットを調べた。何か入っている。


「穂香の髪飾り……か。ん?これは、」


 穂香からもらった髪飾りに、桃色のストレートヘアが一本、絡まっていた。


「生体サンプルね。でかしたわ薫!」


 モモはポリ袋を取り出し、髪の毛を慎重にしまう。


「お、あるじゃんかよアニキ、戦利品! 他には?」

「あるには、あるんだが……」コソ……


 薫はリナに耳打ちした。


「パンツと、ブラジャー!?」

「風呂に入った時、交換したやつだ」


 最期に身に着けていたものが、どうもソレだったらしい。


「それも重要なサンプルよ。大事にしなさい」



              ◆ ◆ ◆ ◆



薫の部屋――


 薫は、自分の部屋に戻り、ベッドに大の字になっている。誰かがドアをノックする。コンコン


「入るぜ、アニキ」ガチャ

「お邪魔するわ、薫」


 リナと雪乃だった。


「イイ娘だったわよね? 穂香ちゃん」

「まあ、何とかなるさ。生きてりゃあな」

「女神様にコネが出来たんですもの、ゴリ押しでアノ世界線に繋げてもらいましょうよ」

「そう上手く行くかよ? フフ」


 薫はこの時、同じ記憶を共有出来る仲間がいて、心底あり難いと思った。


「さしずめ、『カオルのミラクル大作戦』ね?」

「お、冴えてるな、ヅラ!」

「まぁ!『雪乃呼び』が定着したと思ったのに……んもう!」


 いつの間にいたのか、床に寝そべっている忍がつぶやいた。


「『シノブのミラクル大作戦』は、とっくに始まってる」

「そうだったな。静流にちょっとでも会えたんだ。一歩前進、だろ?」

「うん。洋子には負けない」

「そう言えば忍、お前ェ、ケツに何かもらってたよな?」

「ん? これ?」


 忍がポケットに手を突っ込んで出したものを広げてみると、


「こ、これは……へぶぅ」

「トランクス? あと、ペンダントみたいね」


 忍の髪の色と同じ、ブラックパールの加工石が付いたペンダントが、静流のトランクスに包まれていた。


「これ、勾玉って言うのよ。何か付与されているようね。魔石かも」


 雪乃は忍から勾玉を取り上げ、いろんな角度から見ている。


「返してヅラ! 私の宝物なんだから」

「忍? あなたもそう呼ぶの? んもう!」



              ◆ ◆ ◆ ◆



JR太刀川たちかわ駅周辺 甘味処「ロプロス」 ある日の夕方――


 女子生徒が学校帰りに立ち寄る、お洒落なスイーツを出す喫茶店。

 何やら騒がしい。


「おい、どうしたお前ら、そんなんじゃ『篠田組』の名がすたるぜ!」


「若宮のアネキ、自分はもう……ダメっす」グシャァ

「上條!」


「アネキ、面目無え……ゲプ」ズシャァ

「中條!」


「忍兄様……只者じゃないっす」ブシャァ

「下条!」


「はい! ギブアップですね? お代はキッチリ頂きますので」


 店員に失格を宣告され、うなだれる三人。


「今回もダメだったか。おいお前ら! 手伝ってやれ」

「へい。アネキ」


 他の組員が、三人の食べ残しを、取り分けながら食べていく。


「残さず全部食え。作り手に感謝してな」


 若宮と呼ばれた、男子の制服を着ている女生徒が、組員たちを我が子のような眼差しで見ている。


「あの方、『竹ノ塚』の男役の方みたいよね?」

「お一人の方が、おモテになると思うのですが……」


 その奥の席で、一人で紅茶を飲んでいる美少女がいた。

 聖オサリバン魔導女学院の制服を着た、銀色の長い髪をしたスレンダー体形の美少女であった。

 その美少女は、首に提げたペンダントを見て、物思いにふけっている。

 美少女と同じ髪の色、クロムシルバーの勾玉だった。


(ああ静流様、お会いしとうございます)

(静流様は、『ドラゴン寮』を探せ、とおっしゃいました)

(あの学園、『聖アスモニア修道魔導学園』に、一度行ってみる価値はありそうですね)


 ふと周りの声に耳を傾けると、付近の女子たちが何やら話している。


「そう言えば、最近お見えにならないわね、スイーツ男子♡」

「時間帯をお変えになられたのかしら? またお会いしたいわぁ♡」


 それを聞いて、美少女がふと壁に貼ってある写真に目を止める。

 黒髪の美少年が、口の周りをチョコでくわんくわんにして、親指を立てている写真だった。


『タワー・オブ・バビル 完食!』

『前人未踏の大記録! 所要時間 10分フラット!』

『おめでとうございます! 黒田 忍様♡』


(アナタには、絶対負けない!)


「すいませーん、『タワー・オブ・バビル』下さいな!」



                         To Be Continued.......?

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桃髪家の一族 ~嵐を呼ぶ男は平行世界で女になっても嵐を呼べるのか?~ 殿馬 莢 @NANBU_TYPE14

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