第4話 神槍
森の獣道を駆け抜けつつ、左前方に注意をやる。
「いるな」
気配のする方角には、先程村を後にした軍が小道を引き返しているのが確認できる。
大勢での移動だからだろう、かなり足が遅い。
「よし、これなら間に合う」
フィンはさらに加速して森の中を駆け抜けて行く。
ずいぶんと走り続けた先に、森の出口が見えてくる。
目を凝らして見ると、広がる草原を兵士と馬車が移動しているのが見えた。
「あれか」
フィンは森から飛び出し、背に預けた剣の柄を握ると、一気に距離を詰める。
「!!!」
「貴様!何者だ!」
馬車の周りにいる兵士がこちらに気づく。
「答えてやる義理はない」
フィンは迷わず剣を振り抜くと、1人目の兵士の腕を斬り飛ばす。
続いて2人目の背に剣を突き刺した所で、周りの兵士達がさっと後退する。
動きが速いな
精鋭部隊か
先頭を歩いていた槍使いが馬車まで引き返して来ると、1歩前に出る。
「貴様一体何者だ。我らヴォルトナ騎士団に刃を向けるとは命知らずよ」
長身で赤毛の長髪の男はこちらに向け槍を構える。
「かかれ!」
槍使いの号令と共に、兵士達が次々にこちらに向かってくる。
フィンは初撃をしゃがんで躱すと、兵の足を切り払う。
体勢を崩した兵士を蹴り飛ばして、後ろの兵士諸共胴を貫く。
右側から振り下ろされる剣をバックステップですかさず避け、剣を脇腹に滑り込ませそのまま左から襲ってくる兵士の腹に剣を突き刺す。
一瞬で4人の兵士を片付けたフィンは、間をすり抜け最後の兵士の首に剣を滑り込ませる。
槍使いの足元に首が転がるが、槍使いはじっとフィンを見据える。
「その剣技···ラスティル教会の生き残りか?」
フィンは剣を下段に構え、槍使いにじりじりと迫る。
「言ったろう。答えてやる義理はない」
さっと前方に加速すると、手首目掛けて剣を下段から滑り込ませる。
フィンの疾風の如き斬撃の軌道に、槍使いがさっと矛先を合わせると
キィーン
甲高い音と共に、両者共に後ろに弾かれる。
「さすがはヴォルトナの神槍。マグナーダ・ラーゼン」
フィンは剣を中段に構え、槍使いを見据える。
「ふん。貴様の名は聞くつもりはないがな」
槍使いが踏み込むと、フィンに突きを放つ。
しばらく撃ち合いが続き、両者距離を取る。
「はぁはぁ···見事な剣筋。だが剣筋は見切った。
次で決めさせてもらう、その前に名を聞いておこうか」
ラーゼンは上段に槍を構えると腰を深く落とす。
ぴりっとした空気がフィンを襲う。
「これは···手を抜いてはいられないね」
フィンは眼帯を外し、ラーゼンを見据える。
その右眼の金色の輝きを見たラーゼンは一瞬凍りつく。
その一瞬の隙、フィンの斬撃が疾る。
ラーゼンも反射的に神速の突きをフィンに叩き込む。
刹那。まるで突きの軌道を避けるかのように身体を捻り、横からの斬撃を縦の斬撃に切り替える。
その動きを凝視しながら、ラーゼンが咄嗟に叫ぶ。
「···殿下!」
一瞬の静けさが時が止まったかのように感じ、ラーゼンはゆっくりと自身の胴元に目をやる。
剣は胴に触れる直前でピタリと止まっている。
「殿下とは······どういうことだ」
フィンは碧眼と金眼でラーゼンを睨む。
「その狼の眼···。貴方はもしや!」
ラーゼンが顔を上げフィンを見る。
何もかも見透かすような狼眼に、
全てが凍りつくような冷たさを感じながら。
諦観者の導〜狼眼の旅人 しろくま外伝 @sirokumagaiden
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。諦観者の導〜狼眼の旅人の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます