第3話 きっと
静まる森の中をゆっくり進んでいく。
しばらく進むと、昨夜大木を伐採した場所に出る。
「···結構しんどかったよな」
フィンは切り倒された跡の木を椅子に腰をかける。
ひんやりとした空気を思い切り吸い込み、
ゆっくりと息を吐き出す。
「よし···さよなら」
フィンが立ち上がろとすると、不意に足音が聞こえる。
足音は次第に近づいてきて、フィンの目に見慣れた顔が映る。
「ほんとにいた···おはよフィン。
こんな時間にどうしたの?」
声の主はミリアだ。
ミリアはゆっくりとフィンに近づくと、
目の前で立ち止まり辺りを見回す。
「まだ寒いね。戻らないの?」
「おはようミリア。どうしてここが?」
「シュルト兄さんがね、フィンがここにいるって。
今すぐに行かないと後悔がなんとかだって言うからさ。
じゃあほんとにフィンがここに···」
「そう···シュルトが」
「ほんとにどうしたの?」
ミリアがフィンの顔を見つめる。
ミリアとしばらく視線を合わせると、
フィンは大木の木口に座る。
「座らない?ちょっと狭いけど二人座れるよ」
「う···うん······」
ミリアは照れくさそうにフィンの隣に座る。
肩が密着しているせいか、ミリアの鼓動が伝わってくる。
「ちょっと···あったかいかも」
ミリアが小声で呟く。
「そうだね。
ミリア、僕の名前は知っているかい?」
「名前って?」
隣に座るミリアは、フィンの顔を見上げる。
「···フィン・ラスティル」
「ラスティル······上の名前は初めて聞いたわね。
それがどうかしたの?」
「いや···実は僕は今日ここを出ようって思ってるんだ。
それでなんとなく、ね」
ミリアは瞳を大きく見開き、咄嗟に腕を強く握る。
「どうして!ここの暮らしが嫌なの?」
「そういう事じゃないんだけど···行かなくちゃいけない所があってね」
「嫌よ···私も連れて行って······」
ミリアは顔を伏せると、強く拳を握る。
「そんなことしたらシュルトにすごく怒られちゃうよ」
「兄さんは私に怒ったりしないわ」
「僕が怒られちゃうだろ?」
フィンは微笑みながらミリアの頭を撫でると、
ゆっくりと立ち上がる。
「···帰ってくる?」
「······なんとも言えないな」
ミリアは勢いよく立ち上がると、フィンの肩を掴む。
「なんでよ!なんで何も言わないのよ!
帰ってくるって···言ってよ」
ミリアは声を震わせると、フィンの肩に頭を預ける。
「ごめんねミリア···もう行かないと」
フィンがもう一度ミリアの頭を撫でると、
ミリアはゆっくりと掴んだ手を下げる。
フィンがゆっくりと体を離し、
森の出口へと歩を進める。
すすり泣くミリアの気配を背に感じながら、
フィンは振り返る事なく進んでいく。
「いつか!······用が済んだら、ちゃんと帰ってきて!」
ミリアの叫び声が聞こえて、フィンは一度立ち止まる。
振り返りたい衝動を抑えながら唇を噛み締める。
呼吸を整えると、フィンは呟きゆっくりと歩を進めた。
「···きっと」
森をしばらく歩いていると、出口が見えてきた。
目を凝らして見ると、ひとつ見慣れた人影がある。
徐々に近づいて行くと、人影の正体がシュルトであることに気づく。
「後でって言ったろ?」
シュルトが苦笑いしながらフィンに話しかける。
「そうだな···ミリアを泣かせてすまない。シュルト」
フィンがシュルトの隣に立つと、腰の小剣を外してシュルトに差し出す。
「これをミリアに頼む。ラスティル教会の名剣だ」
「任されてやるよ。
······ほんとに行っちまうんだな?」
「ああ、ずいぶん世話になったね」
「今朝の軍の事と言い、まさかとは思ったがフィン···」
「関係ないとは言えないが犯罪者ではないよ」
フィンが笑って見せると、シュルトも微笑み返す。
「そうか、ならよかったよ。じゃあ行ってきな」
シュルトはフィンの背をばんと叩くと、
小剣を片手に村に戻って行く。
「ありがとうみんな」
フィンはシュルトの姿が見えなくなると、
東にゆっくりと歩き始めた。
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