第2話 捜索隊

夢を見たんだ


君が何処か遠くに行ってしまう夢を


「はっ!」


フィンは瞼を開き、さっと上体を起こす。

昨夜の集会所でミリアと別れたあと、

自室に戻るとすぐに眠ってしまったらしい。


「嫌な夢だ···」


ゆっくりと小窓の方へ目をやると、外はまだ薄暗い。


「ちょっと早かったかな···ん?」


不意に外から人の話し声が微かに聞こえてくるので、

フィンはベッドから出て小窓に近づく。

村の入口の方でいくつか松明の明かりが見える。


「こんな時間に何だ···」


フィンはロングコートを羽織り、剣を背に着ける。

鞄に食料を詰め、肩にかけるとゆっくりと部屋を出る。


いっぽう村の入口では、シュルトが一枚の似顔絵を眺めていた。


「うーん···似てるっちゃあ似てるがなぁ···」


シュルトが顔を上げると、全身鎧を身に纏った兵士が前に立っている。

兵士の数は五十人程で、いかにも強者と言わんばかりのガタイのいい男達ばかりだ。

目の前の兵士と目が合うと、兵士は口を開く。


「その旅人とやらはいつ頃やって来たのですかな?」


「さぁ···いつ頃だったかな」


シュルトは鋭い目つきで答えると、兵の顔も険しくなる。


「我々はヴォルトナ国から来た周辺治安維持部隊だ。知っている事があればご協力願いたい」


「ほう。周辺管理兵団の武装には見えんがな···」


シュルトはよりいっそう目つきを悪くすると、

兵士を睨みつける。


「その似顔絵の男を呼んでもらいたいのだがね」


「この男は何だ?賞金首か何かなのか?」


「無論、貴殿に関係のない事だ」


「関係ないってんなら協力はできんなぁ」


シュルトが兵士と睨み合いを続けていると、背後から足音が近づいてくる。


「何事かな?シュルト」


少し離れた場所に立ち止まったフィンはシュルトに声をかける。

シュルトは振り向き答える。


「それがな、お前に用があるんだとよ」


「どういうこと?」


「見てみろこの似顔絵。少しお前に似てるが···」


シュルトが似顔絵をひらひらとフィンの方へ向ける。


「おや?あなたが旅人ですかな?どうぞこちらに来てはくださいませんか」


兵士が険しい目でフィンを見つめる。


「はぁ···人探しですか。ご協力しましょう」


フィンはため息をつくと、ゆっくりと歩を進める。

左手を腰のナイフの柄に添え、じりじりと近づいて行く。

松明の炎がフィンの顔を照らした瞬間、

兵士の顔が凍りつく。


「その黒髪······」


「髪がどうかしましたか?」


「いや···その右目の眼帯はどうした?」


兵士が剣の柄を握ると、じりっと一歩後ずさる。


「······旅の途中でやられましてね」


「貴様···そこで止まって眼帯を外せ」


「どうしても······ですか?」


フィンは碧眼で兵士を見据える。


「従わなければ力づくになるぞ」


ピリピリとした静寂が過ぎる。

突如兵士の大声が長い沈黙を破る。


「伝令!」


駆け寄ってきた兵士が止まると跪く。


「何用だ?」


「東の町に向かった軍が男を捕らえました!」


「何!?」


「現在、男を連れてヴォルトナに帰還中との事」


兵士は無言でフィンに向き直ると、軽く会釈をする。


「これは失礼した。どうやら人違いだったらしい」


兵士の改まった態度に、シュルトがここぞと言わんばかりに噛み付く。


「だから言ったろ。さっさと国に帰りやがれ」


「ふん。ではこれにて失礼する」


兵士は鼻を鳴らすと、ぞろぞろと村を去って行った。

フィンはシュルトの隣に歩み寄ると、兵士が去った方角を見つめながら小声で呟く。


「捕まったって······誰だよ」


「ん?あれか?あれは多分ヴォルトナの執行軍だ。

犯罪者やら賞金首を裁くやつらなんだが、噂では残虐行為も平気でやっちまうような連中らしいぞ」


フィンはシュルトの方を向き、無言で顔を見つめる。

視線に気づいたのか、シュルトがフィンの顔を見下ろす。


「ん?どうした?」


「······いやなんでもないよ。それよりシュルトは戻った方がいいんじゃないか?

ミリアが心配だろ?」


「そうだな、家に戻るとするか。

フィン、また後でな」


シュルトは振り返ると、自分の家に戻っていく。

フィンはシュルトの後ろ姿を見えなくなるまで見送ると、村の出口へと歩を進めた。


「······長居し過ぎたな」


早朝の森の冷ややかな空気が

呟く吐息を白く霞ませる。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る