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「えーっと、こちらサービスティーになりまーす……」
二十二歳の誕生日。お店のスタッフや常連さんからいろいろ茶葉を貰ったわたし、ロディナは、お返しにと、今日一日お茶を淹れてお客さんに提供し続けている。本当はくれた人にあげるのが正しい作法ではあるのだが、たくさん茶葉を貰いすぎたし、ここのお店の店員は大体同じようにして客にふるまっているので、わたしもそれにならっている。
今頭を抱えて、いかにも人生どん詰まり、という風の男性二人組からは茶葉を貰っていないが、サービスなので。
店に来たときは、てっきりお腹が空いているからこんなにも死にそうな顔をしているのかな、と思ったが、空腹が満たされたであろう食後でも、あんまり顔色が変わらない。
「……どうかしました?」
全財産を失って、思い入れのある茶器を手放すか迷っている、と言われても不思議じゃないくらいには顔色が悪い。
ただ悩みを聞くだけなんて十円――もとい、木貨一枚の得にもならないが、誕生日という特別な日だったからか、つい、聞いてしまった。
「嫁を探しているんだが、全く見つからないんだ……」
「あらま、逃げられちゃいました?」
嫁に逃げられた可哀そうな夫……かと思いきや、全然違った。
「いや、オレの嫁じゃなくて、旦那様の嫁になってくれる女を探していてな。でも、領地内で全然見つからなくて。……しかも、気が付いたら国境まで超えちまってて」
最後の方は周りに聞かれまいと小声だ。国境を超えた、ということは、グラベインの人だろうか。
「安心してください。この村、意外と間違えて国境超えてくる人がいますから。犯罪やらかしたらアウトですけど、おとなしく帰る分にはセーフですよ」
暗黙と言うか、見逃してくれるというか。
すぐ近くに国境があるわけだが、ここの村よりも、関所のある街の向こう側の村の方が密入国者の問題が酷く、こちらに回す人手がない、ともいう。不思議なことに、関所よりこちら側では問題が起きることはほとんどない。関所で丁度領地が変わるから、というのが、もっぱらの噂である。
しかしそういう問題じゃないのか、男性は首を横に振った。
「そうじゃねえんだ。旦那様の嫁になってくれる女が見つからない方が問題で……。この村にもちょっと声をかけてみたんだが、独身の女はほとんどいねえって言われちまって」
「あらまあ」
マルルセーヌの女は比較的すぐに結婚してしまうので、成人してから結婚するまでの独身期間というものが極端に短い。なので、マルルセーヌの男は子供のうちから結婚相手を見定める……というのが少なくない。加えて、そういう相手がいなくても、一夫多妻で金持ちアピールをしたい富豪の妻として買われていく場合が多い。
そうなると、女は余らない。
他所から来て一から結婚相手を探す、というと、相当大変だろう。
かくいうわたしも、複数の家から「うちにこないか」と金額を提示され、吟味中である。
「なあ、嬢ちゃんの知り合いに金を出してくれるならどんな男でも結婚してやる、っていう女いないか? 年は子供が産めるなら何歳でもいい。旦那様、見てくれは本当に悲惨なんだが、そこまで悪い人じゃないんだ。あ、オレが悪い人じゃないっていっていたのは内緒な。オレが周りからどやされちまう。一応、純銀貨五枚くらいなら金を出すって言われてるんだけどよ」
「もっと詳しく」
純銀貨五枚、という言葉に、わたしはいとも簡単につられてしまった。
――木貨一枚の得にもならないと聞き出そうとしなかった悩みを気まぐれで聞いたこのとき、わたしの今後の人生が大きく変わってしまうことを、このときの私はまだ知らない。
転生守銭奴女と卑屈貴族男の結婚事情 ゴルゴンゾーラ三国 @gollzolaing
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